第3話〈フクロウの視点〉

朝。

目が覚めると桐子さんが俺の体を抱き締めて眠っていた。


「ちょ、なんだ、これ……」


俺は困惑していた。

まさか、寝ぼけて俺のベッドで眠ってしまったのか?

桐子さんの刀身の如き白銀の髪が俺の頬に触れている。


「………フクロウ」


何故か俺の名前をうわごとの様に呟いている。

俺が離れようとすると、桐子さんは俺の体を強く抱き締めて離してくれない。


「……大好きですよ、フクロウ」


「え?怖ッ」


俺はそんな事を言って来る桐子さんに恐れを抱いた。

なんせ、あの鉄仮面の様な桐子さんが、だ。

俺は桐子さんの元で術師としての訓練や実戦をしているが、そんな甘い言葉を聞くのは初めてだ。


何せ訓練では。


『フクロウ。脇の締め方が悪いですよ。足の踏み込みも悪い、それではすぐに怪異にに殺されてしまいます』


なんて言って、鞘で俺の足を弾いて倒して来るんだぞ。


『しっかりしなさい。貴方は強くならなければなりません、いつまでも、私が傍に居ると思っては大間違いです』


疎ましそうにしながら俺を鍛えて来たあの桐子さんが、そんなメス顔で甘い声を出すなんて……今まで想像が着かなかったのに。


「すいません、桐子さん、起きて下さい……あの、本当ッ」


多分、疲れ過ぎてるだけなんだよな。

俺の中の桐子さんは、そんな甘えてくる様な女じゃない。

騎士の様に気高く、強く、凛々しい人。それが俺の中に居る桐子さんだ。


俺は大声を上げて桐子さんを起こす。

目を覚ます桐子さんは、俺の顔を見て微笑んだ。


「……おはようございます、フクロウ」


とろん、とした目で俺の顔を見てくる桐子さん。

……誰だこの人。俺の知ってる桐子さんはもっとしかめっ面してる様な顔だぞ。


「……桐子さん、なんか、今日の桐子さん、怖いんすけど」


「……ふふ、酷い事を言うのですね、フクロウ」


笑ったよ。そんなフザけた事を言うと口を利かなくなる筈なのに。

なんでそんな愛しい人を見つめる、なんて顔をしてるんだ。

怖い、怖すぎる。優しい表情がここまで人を戦慄させるなんて……。


「ちょ、俺、朝練してきます。走ってきます。周囲に怪異が出て無いか、見てくるんで」


俺はベッドから這い出て、部屋から出て行こうとする。


「え……良いではありませんか、今日くらい、ゆっくりとしませんか?」


「誰だお前」


あ、ヤバい、つい口に出してしまった。

だって桐子さん武人みたいな人だろ。

一に訓練、二に訓練、三四は実戦、五は気絶、ってくらい訓練を強要してた人だぞッ!

絶対可笑しいって!怪異が何かしでかしたんじゃないのか、コレッ!

どちらにせよ、怖い。俺は早々と部屋を出て、ホテルを飛んで走り出した。

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