星の島の一等星
まるまる
星の島の一等星
星空を見ると、懐かしく、切ない感情に押しつぶされる。そして駆け巡る、一生忘れることのないだろう、夏の島での思い出。あれは七年前、私が十七才の時のこと───
とある島にたったひとつだけの町がある。そこは星空の隠れた名所であり、中には海星町と呼ぶ人もいるほどで、夜には圧巻の景色を見ることが出来る。とある写真家の『美しき夜の街』という雑誌に唯一、自然の景色が売りで紹介され、訪れる人が増えてきている。
若かりしアストラもその中の1人である。心を病んだアストラは、大好きな自然に触れることで癒されようと思ったのだ。自然の中でも特に夜空や星に強く惹かれているため、二週間を目処にして、この島に滞在することを決めたのだった。
アストラが初めて島に来た日はちょうど満月の夜だった。島の夜はアストラが思っていたよりも暗くなるのが早く、迂闊に夕方に散歩などをするのが間違いだったと後悔した。あまりの暗さに月の光を求め、空を見上げた。
アストラは唖然とした。
満天の星が陰りの無い空で煌々と輝いている。太陽よりも遥か遠くにある筈なのに、こんなにも強い光を放ち、島に星影を落としている。
アストラは星を望むのにより相応しい場所を求めたのだろうか、気づいた時には海辺に立っていた。彼女の星を求める本能は正しかった。
宙で煌めく星屑は、眼下の海面に反射し、宇宙さながらの空間を創り出していた。広大な空間に一人取り残されたようで、恐怖を覚えたが、それはどこか心地よさにも似たものを含んでいた。
感動のあまり時間を忘れていたアストラは、夜の潮風の冷たさで我に返り、宿に帰ろうとして振り返った。
するとそこには、アストラと同じように星空を眺めている少年がいた。背丈は同じくらいで、顔立ちがいい。不本意にも初対面の少年をかっこいいと思ってしまった。星空に夢中なのか、こちらには気づいていない。アストラは道を聞こうとするも、少年はあまりに星空に見入っているため、躊躇ってしまう。しかしこのままでいる訳にもいかず、ついに話しかける。
「はじめまして。見入っているとこ悪いんだけれど、道が分からなくって。」
「…」
少年はやっと気づいたようで、ゆっくりとこちらを見るが、その目は私を見ていないようだった。
「『星の宿』っていうホテルの場所知ってる?知ってたら案内して欲しいなと思って。」 道を聞けば十分なところを、案内をお願いしてしまったことに、アストラは自分でも訳が分からなくなった。星空の下ではどうやら気持ちに正直になってしまうらしい。せめて少年には見透かされてませんようにと願っていると、少年は答えた。
「あぁ、その宿なら知っているよ。でも場所を伝えるだけでいいかな。目が見えないから、歩いて案内はできないんだ。」
アストラは混乱した。目が見えないなら、さっきまで何を見ていたのか。 どうやってここまで来たのか。なぜ宿の場所は知ってるのか。いろいろ思うところがあり言葉が出ずにいると、様子を察したのか、少年は口を開いた。
「初対面なのに突然目が見えないなんて言って、混乱させたかな。ごめんね。大事なこと言っちゃったついでに、話させてもらえないかな。時間、大丈夫?」
「あ、うん…」
アストラは何とか返事をする。否定の言葉なんか頭に浮かびすらしなかった。
「そりゃ良かった。ここじゃ肌寒いでしょ。 僕の家で話そう。すぐそこで暮らしてるんだ。」 そう言って家へ行こうとする少年に、慌てて言った。
「できれば、外で話したいな。星空が好きだから、こことか見通し良いし、ここがいい。」 上手く喋れなかったが、何とか言えた。少年は少し驚き、一瞬止まったが、笑って言った。
「そうか、星が好きなんだね。気が合いそうだ。でもやっぱり寒いだろう、膝掛けでも持ってくるよ。」
少年はそう言って家へ行った。
「ふぅ…」
緊張から解き放たれ、深く息を吐いた。家に行ったら緊張しすぎてどうなる事か分からなかったため、アストラは心の底から安心した。それにしてもあの少年は何者なのだろうか。不思議な雰囲気を纏っている。同い年だと思っていたが、まるで大人のような落ち着きがある。しかしその声を聞く限りでは年下のようにも思える。
好意のある少年について考えることも、さざ波の音の前には無力らしく、次第に睡魔が襲う。 うとうとしていると、突然ひざ掛けをあてられた。少年が帰ってきたとわかり、すっかり眠気が覚める。本人の前では睡魔なんか敵じゃない。
「どうか寝ないでおくれよ。人と話すのは久しぶりで、楽しみにしてるんだから。」
そう言って、少年は自身について語り始めた。
少年はヘズと言って、生まれも育ちもこの島である。生まれた時から目が見えない上に、訳あって父親は生まれてすぐ姿を消したそうだ。これだけでも彼の苦労の程は知れるのだが、不幸なことに母親は去年亡くなり、一年間一人暮らしをしている。家の近所は母親とよく歩いたため、買い物に行ったり海辺に来たりするための道は体が覚えたという。また、完全に一人という訳ではなく、学校の同級生がたまに遊びにやってきたり、近所の人が島のちょっとしたニュースを教えてくれるのだそうだ。だからといって悲しみが薄らぐというわけではないのは初対面でもわかる。
アストラもここに来た理由を話し、二人はしばらく喋った。
しかし一つだけ分からないことがあった。なぜ空を見上げていたのか。ヘズは寝転がっていた訳では無い。立ったまま、確かに顔を上に向けていた。それに、
──星が好きなんだね。気が合いそうだ。
この言葉が少しひっかかっていた。彼も星が好きなのか。星は見えずとも好きになれるものなのか。
聞いてはいけないような気がしたが、思い切って尋ねた。
「どうして空を見上げていたの?星は見えないでしょう。」
「…そうだね、一週間後もまた話を聞いてくれるなら、その時話すよ。」
やってしまった。やはり聞いてはいけないことだったようだ。これ以上話すには気まずかった。
「…そう。じゃあ、そろそろ帰ろうかな。道、教えてくれる?」
「あぁ、あそこに床屋があるだろう、そこを左に曲がって……」
少年は丁寧に道を教えてくれた。目が見えないとは思えないほど正確に。その顔は、悲しみを隠しているように見えたのは気のせいだろうか。
「じゃあ、またね。」
「うん、今日はありがとう。もう暗いだろうし、ホテルまで気をつけてね。」
二人は別れを告げ、それぞれ帰っていった。
それから毎晩、海辺に行って星空を見るついでに少年がいないか確かめた。──目的は逆かもしれないが。しかし来る日も来る日もヘズはおらず、次に会えたのは宣言通り一週間後の夜だった。
「久しぶり。毎日海辺に来てる訳じゃないんだね。話したいことが溜まっちゃって…」
「約束は守らなくちゃね。ここまで僕を気にかけてくれる人はなかなかいないから、話すよ。
「え…?」
話の途中にも関わらず、ヘズは口を開いた。
「先週の質問の答えだよ。一週間も待ってもらったからね。こんなこと人に話すのは初めてだから時間はかかっちゃったけど…一応聞くけど、まだ話してほしい?」
「うん。こっちだって一週間も悩ませて聞かない訳には行かないよ。お願い。」
「…それもそうだね。」
ヘズは深呼吸して、話し始めた。
「信じてもらえないかもしれないけどね、僕、星空だけは見えるんだ。理由は分からないけど、確かにこの目に映るんだよ。あの美しい星の瞬きが。だからね、毎日星空を眺めているんだ。それが僕の生きがいなんだ。」
アストラは驚きのあまり声も出なかった。
「でも、時々辛くなるんだよ。神様はどうして星空だけ見えるようにしたんだろうって。いっその事何も見えないほうが諦めもついたのに。僕にとっての希望の世界は、あんなに輝いているのに手が届かない。かといって僕の手が届く範囲の世界は、何も見えやしない。こんなに辛いことがあるのかな。まぁ、そんな僕を慰めるのも、星空だけなんだけどね。」
アストラは彼になんて言えばいいのか分からなかった。辛かったねと同情すれば良いのか、それとも諦めなければ希望はあると説いてやればいいのか。それでヘズの心が軽くなる訳ではないだろう。それでも…
「…それでも、諦めないでくれてよかった。私はヘズに会えてよかったと思ってる。まだ会ってちょっとしか経ってないけど、この前話したとき、楽しかったし…」
思わず言ってしまったが、アストラは我に返る。
「いや、あの…ごめん。ヘズは辛くて私の気持ちなんか話してる場合じゃないのに…」
「…ふふっ。正直に話してくれて嬉しい。僕も君と話すのは楽しいよ。君の言う通り、諦めなくて良かった。」
アストラの頬が紅くなる。
「あのさ、私も聞いて欲しいことがあるんだ。ヘズに比べたら大した悩みじゃないんだけど、いいかな。」
「うん。僕も君に話して気が楽になったし、僕でよければ聞かせて欲しい。」
「…ありがとう。悩みって言うのはね、私、自分に自信が無いことなの。ちょっと急だけど私の名前、アストラっていう名前はね、星の女神とされるアストライアーが由来なの。星は迷える人の道標となるし、その女神アストライアーは正義感が強かったと言われているの。だから、たくさんの人を正しい道に導ける強い子、になって欲しいから、両親は私にアストラって名をつけてくれたの。私はこの名前が嫌いな訳じゃなくて、むしろ素敵だって思ってるくらいなんだけど、アストライアーにならなきゃって頑張ってたら、疲れちゃってさ。馬鹿みたいだよね、勝手に頑張って勝手に疲れて…」
「そうだったのか…でも君は君のままでいいんじゃないかな。今は『アストライアー』じゃなく正真正銘の『アストラ』なんだろう?今の君、とても素敵だと思うよ。名前は気にすることないさ。気ままに生きる方が、ずっと楽だよ。ありのままの君になら、みんなもついて行きそうな気がするし。」
「ありがとう…ヘズ。確かに楽になったかも。」
アストラはまだ何か言いたげにヘズを見つめる。
「…あのさ、毎晩会うことは出来ないかな。」
「そりゃまたどうして?」
「いや、あの…前にも言ったけど、私はこの島にあと一週間しかいることは出来ないんだけど…ヘズに会うのがこれっきりなのは、その…嫌だなって思って…だからできるだけ会いたくて…」
「そうか、そうだったね…それは寂しいや。…じゃあ、僕からもお願いがある。…昼にこの島を案内して欲しいんだ。」
「え…?」
「僕は近所のお店とこの海辺しか道を知らないんだ。僕の目が悪いからって、お母さんは遠い所まで連れて行ってくれなかったからさ。でも、君が僕の目になって、迷える僕を導いてくれるなら、昼の島も楽しめると思うんだ。良かったらだけどお願いしたくてさ…」
「…いいの?毎日会うの。」
「うん。お願い。」
「…わかった。じゃあ、改めてこれからもよろしくね。」
「よろしく。」
二人は別れる──その瞬間、アストラは何も言わずにヘズの手を掴んだ。ヘズは驚いたが、何も言わなかった。一瞬の沈黙の後、ヘズがアストラの手を握り返す。その時アストラはヘズの腕を放ち、帰って行った。
家に着いたあとも、アストラの胸の高鳴りが止まることはなく、なかなか寝付けなかった。
翌日から二人は島内を回った。 地方の島に楽しい場所なんて無いに等しいものだが、二人にとっては歩いて回るだけで満足だった。昨晩のことは、お互い何も言わなかった。
陽が傾き、空が赤く色づき始めた頃、アストラはヘズに尋ねた。
「あのさ、夜はやっぱり海辺がいいの?夜の散歩も気持ちいいと思うんだけど。」
「…夜は用事があるんだ。だから、会えないかな。気持ちだけありがたくいただくよ。」
「そっか。わかった。」
用事ってなんだろう。アストラは聞こうと思ったが、この前のことを思い出し、何も聞かないでおくことにした。
時の流れは速く、あっという間に五日が過ぎた。
その時のヘズはいつもと様子が違った。何やら悲しげで、重い空気を纏っていた。気にせず楽しんで島を回ろうと思ったが、ヘズは終始表情を変えなかった。時々見せる笑顔も、作り笑いのようで嬉しさが無いように感じた。アストラは心配して声をかけようとしたが、先に喋り始めたのはヘズだった。
「話したいことがあるんだ。」
「…うん、何?」
「星空が、見えなくなってきてるんだ。」
「え…?」
アストラに出せる声はそれが限界だった。
「だいぶ前から目の様子がおかしかったんだ けど、ここ最近で本格的に悪化してるみたい。星空を憎むこともあったけど、唯一残された物が無くなるのはやっぱり辛いな。夜に君と会わなかったのも、星空を見たかったからなんだ。いつ最後がきてもおかしくないから。嘘ついてごめんね。」
「嘘なんて…そんなの気にするわけないじゃん…じゃあ、これからどうするの…?」
アストラは今にも泣きそうな声で聞いた。
「どうしようもないだろうな。たぶん、今日で見れるのは最後なんだ。不思議と分かるんだよ。だから、今日も夜は一人にさせて欲しい。でも、お願い。明日は昼じゃなくって夜に会って欲しい。君が島をでるまで時間がないから。都合のいいお願いばかりしてごめんね。」
アストラはとうとう、泣き始め、言葉が出なかった。それでもなんとか頷き、ヘズの思いに応えた。
次の日はちょうど新月の夜だった。
アストラが海辺に行くと、ヘズは初めて会った時と同じように、空を見上げていた。足音で気づいたのか、ヘズはアストラの方を向く。目が腫れていた。きっとたくさん泣いたのだろう。私の前では我慢していたのか。気づいてあげれなかったことを悔やむ。
「…やっぱり星は見えなくなったよ。真っ暗だ。思ってたより…ずっと、寂しい。僕は…もう…一人だ…」
ヘズの声は次第に震えていき、涙が溢れて止まらなかった。泣き声は空へと吸い込まれる。ヘズは、ただひたすらに無力で、どうする事も出来なかった。
「…私がいるよ。」
アストラはそう言ってヘズを思い切り抱きしめた。彼の全てを受け止めた。辛さも、哀しみも、怒りも、無力さも。彼の痛みを受け止めずにはいられなかった。ヘズも彼女の腕の中で、泣き続けた。
どれだけ時間が経っただろうか、ヘズは泣きやみ、顔を上げて言った。
「…ありがとう。もう…大丈夫だ。君とは会えなくなるだけさ、この世からいなくなる訳じゃない。星は見えなくたって、アストラがいるからね。…僕はアストラが好きだ。これからは君を想って生きていくよ。」
「私も、ヘズが好き。朝も昼も夜も、ヘズのことを考えるよ。またこの島に来るよ。来年も再来年も…何年経っても…だから、待ってて。」
「分かった。待ってるよ。…」
「…」
帰らなければならないことは分かっていたが、なかなか別れを切り出せずにいた。それでも、時はやってきた。
「…またね、アストラ。」
「…うん。またね、ヘズ。」
アストラが振り返り、歩き始める。
その時、ヘズの目にはひとつの星が映った。ヘズは混乱したが、すぐにアストラを呼び止めた。
「ねぇ!アストラ!星が見えた!たったのひとつだけど。ほら、あそこにあるやつ。なんの星だい?ひとつじゃ分からなくって。」
ヘズは興奮しながら暗闇に光るひとつの星を指さした。アストラは振り向いてヘズに言った。
「星?あっちには何も見えないけど…」
アストラはヘズの場所から確かめようと、ヘズに近づいた。
「でも…あんなに強い光、見えないはずないよ。あそこにあるんだって。ほら、だんだん大きくなってるよ。あんな星見たことない。」
「でも、ヘズが指さしてるの、私だよ。」
「え…?いや、そんなことある訳…」
光は近づいてきて、闇一面を照らすほど強く光った。眩しさのあまり顔を背ける。顔を上げたとき、輝きに包まれたアストラの姿が見えた。
「何?これが、君?」
ヘズの目から再び涙がこぼれ落ちる
「…こんなに美しかったのか、君は。」
「本当に、見えるの?じゃあ、私が指さしてるの、どこかわかる?」
「ああ、目だろう。瞳ってこんなに綺麗なんだね。吸い込まれそうだ。目だけじゃない、髪も、首も、手も足も、ぜんぶ…。言葉にできないや。…ようやく会えたんだね。はじめまして、アストラ。」
アストラも涙を流した。その涙は、深い温もりをもっていた。ふと、ここで初めてヘズに話しかけた時を思い出し、笑って言った。
「もう、はじめましてって、この前言ったよ。あの時に言ってくれても、良かったのに。」 ヘズも笑って答える。
「せっかく感動的だったのに。迷子の他人よりはじめて姿を見せた君に言った方がよっぽど賢明だね。もっと早く姿を見せてくれれば、お望み通りそう言ったのに。」
二人は可笑しさに耐えられず、笑いあった。空で瞬く幾千の星々が、静かに二人を照らしていた。
「それじゃあ、本当に、さよならだね。」
「さよなら、じゃないよ。また来るもん。」
「そうだね。じゃあ…またね。」
「うん、またね。」
お互いに背を向け、歩み出す。足音が次第に遠くなっていき、さざ波にかき消される。二人はもう、振り返らなかった。
翌日、アストラは島を出る前にもう一度だけ海辺にやってきた。まだ正午を過ぎていないというのに、肌が焼けるような暑さで、夜のような静かな美しさは微塵も感じられなかった。浜辺を見渡す。ヘズの家には、散歩の帰りに知ることはできたのだが、行かなかった。昨晩にもう別れたのだ。野暮なことはしないことにした。
帰りのフェリーで、ここ数日のことを思い返す。時間というのは不思議なもので、過ごしている時間はあっという間に過ぎ去るが、振り返れば思っていたより長かったように感じる。一瞬で終わったこの二週間も、永遠だったように思えた。いや、永遠の時間であることに間違いはない。あの瞬間は、胸の中で輝き続ける。
そして今もなお、私の胸の中で輝いている。ネオン街の光が淡く感じるほど強く。
ただ、あれからヘズに会うことは無かった。約束通り毎年島に行ったが、ヘズの姿は見当たらない。でも、思ったより気落ちしなかった。再びヘズに会ったら一番大切な瞬間が壊れてしまうのでは無いかと心配したからだ。人と紡いだ時間は、確かに美しいが、それを崩すのもまた、その人である。
これで良かったんだ。 物語の終わりは最高の形で幕を閉じ、それ以上は描かれない。だから、これで良かった。自分にそう言い聞かせ、星空を見上げる。
星空を見る行為が自然と体に染みてしまったことにアストラは気づいていない。
──今日は新月か。そういえば、ヘズと最後に会ったのも新月の日だっけ。
ふとそんなことを思ったその時だった。
「ようやく会えた。お待たせ、アストラ。」
アストラは振り返ると目に入ったのは、彼の顔──忘れるはずのない顔だ。
「何でここに…今までどれだけ探したと思ってるの。」
「…君の光が、消えなかったんだ。島を離れても、遠くで輝いてた。でも、空の星とは違う。君はこの世界にいる。手が届く星だって思ったらいてもたっても居られなくて、君の輝きを頼りに探すことにしたんだ。一年も経てば見つかるだろうって。でも、思ったより遠かったな。君の姿が変わっていて、びっくりしたよ。」
「当たり前でしょう…七年も経ったんだから。ヘズなんか、見た目以外まるで変わってないくせに。」
「君もだろう。綺麗になったこと以外前の君のままだ。…安心したよ。」
アストラの顔が紅くなる。ヘズの言う通り、見た目以外は何も変わっていないらしい。
二人は抱き合った。
その姿は、夜空に煌めくどの星よりも美しく、輝いていた。
fin
星の島の一等星 まるまる @Dr_camp_marumaru
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