§121 厄災司教・月禍
――他方の観客席はというと。
私、シルフォリア・ローゼンクロイツは、突如として発生した闇のベールから回避するため、即座に飛行魔法を展開。
闇のベールが届かない上空へと離脱していた。
横を見ると、皇立学園のロードスも同様。
さすがにこの数の観客をあの闇のベールから守るのは不可能だった。
予測はしていた。
この魔法が誰のものかもわかっていた。
でも、彼女なら大司教の娘の決意を見て……踏みとどまってくれるのではないかと淡い期待を抱いていた。
ただ、その懸けは、私の負けだったようだ。
「――――くっ」
その事実に私は思わず声を漏らす。
しかし、そんな後悔に浸っている猶予など、私には残されていなかった。
闘技場の遙か上空から、突如、何かが超高速で飛来してくるのを感じ取ったのだ。
「――重力魔法・|天女の舞・流星――」
紡がれる魔法名。
(ドシャーン!)
同時に外界からの攻撃を防ぐために会場全体を包み込むように展開していた防御結界に穴が開いた。
「ああ、結界が……」
そんな声を上げるロードスを横目に、開いた穴から優雅にも舞い降りる何者かの姿。
それは墨を落としたような漆黒の髪を自身の身長以上に伸ばした女性だった。
金と銀の刺繍が施された黒い着物を身に纏い、手には着物と同色の飾り扇子。
瞳は冷たさを感じさせる紫色。
飾り扇子で口元を隠しているため表情は読み取れないが、強者特有の余裕が窺える。
「……新・創世教か」
私がそう口にした瞬間、強力な重力波が私とロードスを襲った。
私はその重力をどうにか耐えるが、元々戦闘向きではないロードスは地上へと突き落とされる。
目の前に立つ女は、私を睨み付けるように言う。
「頭が高いぞ、創造の六天魔導士。厄災司教『月禍』――カグヤ・ヨザクラ――の御前であるぞ」
「……カグヤ・ヨザクラ。シエラとはまた別の厄災司教か」
「妾をあんな小娘と一緒にするな。あっちの六天魔導士と同様に地に伏せさせるぞ」
そう言って地上を見下ろすカグヤ・ヨザクラと名乗る女。
見ると、ロードスが地上に叩き付けられ、その周辺にはクレーターのように何かがめり込んだような跡が見て取れた。
「重力を操る魔法か……」
「小細工などするでないぞ。今、この場は妾の支配下にある。会場の全観客が人質であることを忘れるでないぞ」
「なるほど。メイビスとつながっていたのはお前か。よくもまあ……私の可愛い教え子をたぶらかしてくれたな」
「たぶらかす? あの女は元よりこちら側の人間だ。そんな人間をほいほい受け入れた学園長たる貴様の過失であるぞ」
「元よりそちら側? 本当にそうかな?」
「何が言いたい?」
「どうなるかは最後までわからないということさ」
そうして、私とカグヤは睨み合う。
どうやらこのカグヤという厄災司教はシエラとはかなり違うタイプの厄災司教のようだ。
シエラのような暖簾に腕押しのようなタイプだとどうにもこの状況は最悪だったのだが……こやつなら討てる。
あとはタイミングさえあれば……
「月禍様、ご報告があります」
そんなことを考えていると、地上、闇のベールから外れた場所から声が聞こえた。
私はそちらに視線を向ける。
すると、そこには皇立学園第三席のロイ・アルヴレート・フォン・アウグスタニアの姿があった。
その事実に衝撃を受ける。
既にアウグスタニア皇国にも新・創世教の手が伸びているのか?
「なんだ? レリア・シルメリアはどうした? 彼女を確保するのがお前の任務ではなかったか?」
包丁のように鋭い眼光がロイを射貫く。
「は、いえ、はい……」
そんなカグヤの威圧感に、しどろもどろになるロイ。
「入院しているはずだった病室に彼女の姿は無く、予定よりも遅れて彼女を発見したのですが、激しい抵抗を受けまして……メイビスの固有魔法の中に……逃げられました」
「は?」
その瞬間、ロイの身体は爆散した……。
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その中にSSのリンクが付いてますので、是非読んでみてください。
毎度のことながら、SSとは思えないほどのボリュームになってしまいましたが、本作をここまで読んでいただいている皆様にはきっと楽しんでいただける内容になっていると思います。
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