§117 首席戦・開始
カレン先輩が宣言すると同時に、二人は動いていた。
両者が相手を穿つかのように、俺はリーネに向かって指を差し向け、リーネは俺に向かって手のひらをかざす
同時に俺の後方には真紅の文字の魔法陣が、リーネの後方には悪魔を象った灼熱の炎が顕現する。
「――
「――
そして、魔法名の宣言と同時に、それぞれから炎の弾丸が射出される。
(ドゴーン!)
放たれたほとばしる火炎弾が、ちょうど二人の距離の真ん中でぶつかり合う。
時間にするとほんとに瞬きをするかの如き刹那の攻防。
そんな凝縮された時の中で、俺はどうにかリーネの速度を上回ろうと、大量の魔法陣を顕現させる。
しかし、それはリーネも同様。
俺と同数の火炎弾を俺と同じ速度で練り、そして放つ。
「――
「――
衝突による爆発が幾度となく生じ、時折弾ける火花が闘技場を舞う。
しかし、そのいずれもが相手を穿つことがなかった。
瞬きの間に、数十の『魔法陣』を顕現させるが、その全てがすぐさま撃ち落とされる。
フェイントなどを織り交ぜて技巧を尽くすが、その全てがリーネには届かない。
全くの互角。
そう評する以外の言葉がない状況だった。
おそらく試合はまだ始まって五分と経過していない。
けれど、あまりにも凝縮された時間を体感することによって、既にこの応酬が三十分ほど続いていると錯覚してしまう。
観客も俺達ほどではないにしろ、同様の濃密さを味わっているのかもしれない。
最初はあれだけ騒いでいたはずなのに、いつの間にか攻防の行方を固唾を飲んで見守っている。
その事実に俺の気持ちは更に高揚する。
俺はそんな感情の高ぶりに応えるように、魔法陣を描く速度を更に速める。
そんな魔法陣の全て受けきったリーネは、実に楽しそうに笑った。
「わたくしの魔法をここまで防いだのは貴方が初めてです。このままでは朝まで戦っても勝負は付きそうにないですね」
俺も全く同じ感想を抱いていた。
力、速度ともに完全に拮抗している。
このままでは勝負がつきそうにない。
しかし、俺はそれの先を見据える。
皇族であるリーネに魔力量で勝るとは思っていない。
そうなるといたずらに試合が長引いているこの展開は俺にとってはマイナスだ。
換言すれば、リーネの術中にはまっているとも言える。
リーネはあんな感じだが、集団戦であのメイビスをも手玉に取った才媛だ。
相手の土俵に乗るのは得策ではない。
となると、狙うは一撃必殺の上級魔法。
俺は自らの手札の中から、最強の魔法――
これは
クラウンに一撃を与えることに成功したこの技であれば、リーネの魔法を上回れる。
「朝まで付き合うのは一向に構わないのだが、それでは観客が退屈してしまうからな。俺は勝負を決めさせてもらうよ」
そう言ってリーネに向かって指を差し向けると、リーネの足元に二種類の魔法陣が重畳して展開。
同時に
球体は空を赤く染め上げながら、
「これが俺の最強の魔法だ! ――
轟音を立てながら尾を引くそれはさながら隕石のよう。
そんな世界を穿つほどの巨大な火の玉に、会場からも「おお」とどよめきの声が上がる。
「おっと、ここでジルベール選手が必殺とも呼べる魔法を展開! これは隕石魔法でしょうか! こんなものを食らったらひとたまりもありません! これはエリミリーネ選手、絶体絶命ですゾ!」
カレン先輩がそう評するほどに、誰もが俺の勝利を確信した。
しかし、リーネは「絶対絶命?」と反芻すると、口の端を緩めて笑った。
同時に彼女の纏うオーラは一変し、彼女を中心に熱波にも似た風が渦巻き出す。
金色の髪は激しく舞い上がり、瞳の色と同色の真紅のドレスもばさばさと音を立ててたなびく。
それは彼女の持つ最高の魔法が発動することを予感させるものだった。
俺が攻撃をしているはずなのに、その形勢が一瞬にして覆されたような空気。
それはそのまま悪寒となって俺の背筋を凍らせる。
「まったく、ここに立つのが誰かをまだ皆さんわかっていないようですわね」
そう言ってリーネは雛罌粟色の瞳をゆっくりと開く。
「わたくしはエリミリーネ・シェルガ・フォン・アウグスタニア。アウグスタニア皇国の歴史に名を刻む皇帝となる存在でしてよ」
リーネは胸の下で腕を組んだまま、静かに魔法名を告げた。
「――
途端、先ほどとは比べものにならない大きさの炎の怪物が会場に顕現した。
同時に灼熱の業火が会場を包み込む。
まるで蛇が這うように橙色の炎が闘技場内を走り、会場内の気温が急激に上昇する。
あまりの高温にリーネの姿すらも揺らめいて見える。
いくら俺が火属性魔法に耐性があるとしても、あの魔法の攻撃を受けたらひとたまりもない。
そう確信させるほどに、圧倒的な力を感じさせる魔法だった。
まずリーネは上空から飛来する隕石を処理する選択肢を取る。
リーネが遙か蒼天に向かって手のひらをかざすと、それに連動するように炎の怪物もまた上を向く。
だが、俺だって最強の魔法が負けるとは思っていない。
火の玉は加速度的に速度を上げ、もはや音速の域に達しているのだ。
「――
「――
俺とリーネは同時にそう叫んで手を大きく降り下ろす。
同時に俺の隕石は激しく燃え上がり、リーネの怪物もガァァ―――ッという凄まじい叫び声とともに、炎の玉を吹く。
お互いの一閃は宙を駆け、真正面から衝突する。
(ドゴォォオオ――――ン!)
世界の終焉かと思えるほどの爆音。
空は夕焼けよりも濃い朱色に染まり、砕け散った隕石の残骸が闘技場に降り注ぐ。
降りかかる粉塵と火の粉を手で防ぎながら、俺とリーネはそれぞれ空を見上げる。
「両者の魔法は相殺! 相殺です! またもや仕切り直しですゾ!」
カレン先輩のアナウンスが響く。
それを見て二人は笑う。
「今ので仕留めきれないとはな」
「まだまだこれからですわ」
二人は休むことなく魔法を展開し続ける。
ただ、お互いの最強の魔法によって会場内の気温は急激に上昇していた。
しかも、それは暑いという体感的なものではなく、焚き火の前に無理矢理立たされているような命の危険を感じるもの。
――そろそろ頃合いだと思った。
魔法の発動速度という点では、俺とリーネは全くの互角だった。
しかし、リーネの奥の手とも言える――
音速と化した
そうなると俺が取り得る選択肢は一つ。
――魔法の発動速度でリーネ上回ることだ。
この点、俺には秘策と呼べるものがあった。
俺はリーネのある弱点に気付いていたのだ。
「――
俺は魔法名と唱え、新たな魔法陣を顕現させる。
それは俺が今まで発動していた魔法陣とは対照的に、青色の文字によって描かれたものあった。
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