§115 試合方式
「――さぁさぁ、ついに代表選手が出揃いましたー! 泣いても笑っても今日が最後の王皇選抜戦! その天王山とも呼べる個人戦・首席戦がついについに開幕しますゾ! みんな、今日も盛り上がっていきましょうゾー!!」
「「「「うぉぉぉぉぉ――――っっっ!」」」」
もはや耳慣れたカレン先輩のアナウンスに早速ボルテージが上がる観客席。
「現在の王皇選抜戦のポイントは、『王立学園一○○ vs 一五○皇立学園』の状況! そして、首席戦で獲得できるポイント数が二○○ポイントなので、この首席戦を制した学園がすなわち王皇選抜戦の勝利校となりますゾ! さて、今回は首席戦ということですので、しっかりと選手の紹介をさせていただきましょうゾ! まず――王立学園・首席ジルベール・ヴァルター選手!」
カレン先輩は俺の方に大きく手を向ける。
「ジルベール選手はご存じのとおり、固有魔法は【速記術】、得意魔法は『魔法陣』と過去に例を見ないタイプの魔導士ですゾ! ただ、その実力は疑いようがなく、先ほど映像でも紹介させていただきましたが、集団戦の直後、超高速で発動した『魔法陣』でエリミリーネ選手を救っています! その姿はまさに姫君を守り抜く王子様のよう! 私はこれに恋の予感を感じましたゾ! 首席戦では二人の関係性にも注目していきたいところですゾ!」
しっかりと紹介すると言っておきながら、完全にカレン先輩の趣味に依存した紹介になっていることに俺は落胆を禁じ得なかった。
薄々気付いていたが、カレン先輩は何でも恋愛に結びつけて考える傾向にあるようだ。
そもそも恋の予感ってなんだ。
でも、今回に限ってはあながち間違いでないところが絶妙にやりづらい。
できればこれ以上はそこには触れないでほしいと、俺は心の底から願うのであった。
「続いて――皇立学園・首席エリミリーネ・シェルガ・フォン・アウグスタニア選手! エリミリーネ選手の固有魔法はご存じのとおり【無詠唱魔法】、得意魔法は、悪魔を象った灼熱の炎を顕現させる火属性魔法――
こんなカレン先輩の言葉に一瞬リーネから殺気が放たれたような気がしたが、カレン先輩の心臓にはどうやら剛毛が生えているようだ。
そんなこと意にも介さず、解説を続ける。
「つまり、今回の首席戦では――世界最速の魔導士同士が戦うことになるわけですゾ! こんな王皇選抜戦がかつてあったでしょうか! 私は今から興奮が抑えられません! きっとこの二人であれば歴史的な決闘を演出してくれるはずですゾ! というわけで、いよいよ『試合方式』の決定に移ろうと思います! 両選手、前へどうゾ!」
第三席戦の時と同様に、闘技場の中にサイコロ状の魔導具が出現した。
「いよいよですわね」
「ああ、できるだけ穏便な試合形式が出てほしいものだな」
「わたくしは盛り上がるものがいいですわ。せっかくジルと本気で戦えるのですもん」
「ゲイルとフィーネのようにだろ? 大丈夫。俺達なら最高の試合にできるよ」
「ええ、楽しみです」
「――それでは両選手、魔導具に手をかざしてください」
カレン先輩の宣言と同時に、俺とリーネはそれぞれの想いを込めて、魔導具に手をかざす。
次の瞬間、サイコロ状の魔導具が光り輝き、そして、首席戦の試合方式が決定した。
「――個人戦・首席戦の試合方式は――
聞いたことがない単語だった。
語感から意味を推察することもできず、俺は首を傾げる。
リーネも同様のようで、代表選手二人で顔を見合わせていた。
そんな俺達を見て、ここぞとばかりにカレン先輩の解説が入る。
「皆様がポカン顔なので、早速解説に移らせていただきましょうゾ! 『
「「お互いの大切なものを賭ける?!」」
この言葉には俺もリーネも同様の反応だった。
まさかこんな試合方式が存在するとは思っていなかった。
それに賭けるものって……平民の俺が賭けられるものなんて高が知れているのだが……。
「あ、ジルベール選手! 自分には賭けられるものなんてないんだけど……みたいな顔をしてますゾ! ですが、そこは安心してください! この『賭ける』というのは、正しくは『懸ける』! 物を賭けるというよりは、お互いの願いを懸けて戦うという意味なのですゾ!」
「願いを懸けて戦う?」
「勝った方の願いを叶える権利だと思ってもらえればいいですゾ! 例えば、賭けるの場合、『俺の剣を賭ける』というようなシーンを目にすることがあると思いますが、懸けるの場合、『俺と結婚してくれ』のように相手への望みを勝った時の報酬として要求できるのですゾ!」
「俺と結婚してくれ……って」
あまりにもタイムリーな例え話に、俺の肝は一瞬にして冷える。
同時に横のリーネに目を向けると、リーネも何か思うところがあるのか、どこか気まずそうに頬を赤らめている。
「何も懸けないというのもありなのか?」
俺のそんな空気の読めない質問に、あからさまに顔をしかめるカレン先輩。
「まあ、何も望まないことを望むと解釈してルール上、ダメではないのですが……この大盛り上がりの首席戦でほんとにそんなことします?」
今までのハイテンションな声から打って変わって、明らかに声の温度が下がったカレン先輩。
彼女からまるで軽蔑するような視線を向けられて、俺とリーネは顔を見合わせる。
「……どうしたものか」
「そうですねぇ。確かにせっかくのお祭りのルールですので、何も懸けないのも味気ない気がしますが……」
そう言ってリーネは指を顔に当ててしばし黙考した後、司会のカレン先輩に声をかける。
「司会さん、過去にはどのようなものが懸けられたのか、参考までに教えていただいても?」
「はいはい、少々お待ちください! 確かおあつらえ向きの過去例があったはずですゾ!」
そう言って運営から渡された資料に目を通すカレン先輩。
「えぇーと、過去にこの試合方式が用いられたのは三回! その懸け内容はいずれも恋愛に関するものですゾ! 先ほど申し上げましたように、『私と結婚してくれ』という直接的なプロポーズはもちろんのこと、中にはある女性を取り合って恋敵同士で戦ったというものもあるそうです! そういえば、お二人は開会式の前からご面識があるようでしたよね? お二人はもしかして……そういう関係だったりとかは?」
開会式でのやり取りを覚えているとか、本当に目ざとすぎるカレン先輩。
俺はどうにかこの場を収めようと口を開きかけるが、先にリーネが口を開いた。
「別に特別な関係ではありませんよ。わたくしにとってジルは命の恩人であり、同時に好敵手であるだけです」
軽く瞑目しているリーネは、あくまで冷静にカレン先輩の言葉を躱す。
しかし、この言葉にもカレン先輩の目が光る。
「……ジル。普段からそのようにお呼びになっているのですか?」
「ふぇっ?!」
リーネはさも平然と答えたつもりだったようだが、何でも恋愛に結びつけようとする恋愛脳のカレン先輩は誤魔化せなかったようだ。
不覚にも『ジル』という普段の呼び方を公衆の面前で披露してしまったリーネの顔は見る見る紅潮していく。
「ジ、ジルは本当に友人であって、決してそういう関係では……」
「そういうとは、どういう関係でしょうか?」
「そ、それは、えっと……なんというか……ジルとは『
「ほほぉ。
もはや墓穴を掘りまくりのリーネは顔を茹で蛸のように真っ赤にして、しどろもどろになる。
リーネは恋愛が絡むとポンコツになることはわかっていたが、普段の気高く聡明な彼女からは想像もつかない醜態に、俺は早急に割って入る決断をする。
「カレン先輩。彼女は共通の趣味を持つ友人で、それ以上でもそれ以下の関係でもありません。これ以上の追求は控えていただければと」
それ以上の関係であることは否定しないが、この場でそれ以上のことを言う必要はない。
リーネには悪いが俺達はあくまで友人であると強調させてもらう。
しかし、一度火がついたカレン先輩を止めるのは容易ではなかった。
皆も知りたいですよね? 知りたいですよね? と観衆を巻き込み、言葉巧みに俺達から言質を引きだそうとしてくる。
「先ほどのエリミリーネ選手の発言からすると、
「――わかりました」
カレン先輩の言葉を遮るように言葉を放ったのは、リーネだった。
「わたくしが勝ったら――ジルと一日デートする権利をもらいます」
「え?」
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