§112 過去
――わたくしはアウグスタニア皇国の第二皇女として生まれました。
皇位継承権も第一皇子、第二皇子、第一皇女、第三皇子に次ぐ第五位。
そのため、いつ勢力争いに巻き込まれてもおかしくない状況ではありましたが、母は非常に強い女性であったため、わたくしは勢力争いの大きな被害を受けることなく、元気に健やかに育ちました。
そんなわたくしには双子の妹がおりました。
名をレティシア・シェルガ・フォン・アウグスタニアと言います。
義兄、義妹を含めて兄弟姉妹の多かったわたくしですが、妹――シアとは母を同じくすることもあり、幼少の頃はいつも一緒にいた記憶があります。
そんなわたくし達に転機が訪れたのはちょうど十年前。
わたくし達姉妹の五歳の誕生日のことです。
この日はわたくし達の誕生日プレゼントを買うために、母と一緒に街に出ていました。
その帰路の道中――わたくし達は野盗に襲われました。
記憶に残っているのは、下卑た表情の男に母が首を絞められている姿。
火を放たれた馬車が激しく燃え上がる光景。
そして、男は最後にこう言いました。
「全員殺せ。ベルハルト・レイテス・フォン・アウグスタニア様の命である」
次にわたくしが目を覚ました時には、全てが終わったあとでした。
どういう因果かわかりませんが、わたくしはあの惨劇を生き延びることができたのです。
わたくしはすぐにその場を逃げました。
既に焦土と化した人の亡骸を見るのが怖かったというのもありますが、何よりも最後に男が放った言葉――ベルハルト・レイテス・フォン・アウグスタニア――という名が頭から離れなかったのです。
この名は、アウグスタニア皇国第二皇子のものです。
わたくしは子供ながらに悟りました。
わたくし達は暗殺されたのだと。
もし、わたくしが生きていると知られたらまた命を狙われる。
そう考えたわたくしは常日頃から懇意にしていた叔父様を頼ることにしました。
叔父様はとても親身にわたくしの身を案じてくれました。
内々に国王である父に話を通し、わたくしに偽りの姓と身分を与え、地方都市に移住させてくださいました。
もちろん第二皇子の処分も進言してくださったようですが、暗殺の証拠がわたくしの証言だけでは父もどうにも動けず、結局、例の暗殺事件は、表向きには、第二皇女であるわたくしは病死、それに気を病んだ母は自殺、第三皇女であるシアはそもそも出生の事実を抹消されて、全ては闇に葬られることになりました。
そうしてわたくしは、地方都市において、皇族としてではなく普通の女の子として、第二の人生を歩み始めたのでした。
しかし、いくら身分を偽っているとはいえ、悪目立ちをするのを避けたかったわたくしは、地方都市では基本的に引き籠もった生活をしていました。
この時に出会ったのが、『賢者物語』です。
持て余した時間、充実さを欠いた時間をわたくしは『賢者物語』を読み、自身の境遇をヒロインであるフィーネに重ね、冒険譚を疑似体験することで心を満たしていたのです。
そんなわたくしに更なる転機が訪れたのが、齢十二歳の『啓示の儀』です。
わたしは類まれなる固有魔法【無詠唱魔法】に選ばれました。
この固有魔法はご存じのとおり、魔法を詠唱無しで発動できるというもの。
この真価は貴方が一番よくわかっていると思いますが、わたくしはこの固有魔法を手に入れたおかげで、自らの身を守る力を得ました。
また、これとほぼ同時期にアウグスタニア皇国の第一皇子であるアルフレッド・フラム・フォン・アウグスタニア、つまりわたくしにとっての長兄が亡くなったという話が飛び込んできました。
この時点での皇位継承順位はわたくしが五歳の頃とは大きく変わっていました。
わたくし、妹が死亡、長兄であるアルフレッド兄様も死亡、第一皇女は他国の王族に娶られましたので、この時点での皇位継承順位・第一位は、第二皇子であるベルハルト兄様になります。
このとき、わたくしは直感的に思いました。
――アルフレッド兄様はベルハルト兄様に暗殺されたのだと。
ただ、この事実に確信が持てなかったわたくしは、従者のメアリーを使ってベルハルト兄様の身辺を調べさせました。
そうすると出るわ出るわの悪事の数々。
その中にはもちろん当時五歳だったわたくし達の暗殺計画も含まれていました。
どうやらベルハルト兄様は、とても魔力の高かった母の血を引いているわたくしと妹を特に警戒していたようです。
ただ、これらもまたベルハルト兄様を断罪するまでの証拠には至りませんでした。
あくまで状況が示しているもののみで、仮に言い逃れをされてしまっては、追求することができないもの。
しかし、このままではベルハルト兄様が皇位を継承してしまうことも事実。
そこでわたくしは――ベルハルト兄様を殺して、皇帝となることを決めたのです。
そのためにはまず皇族に復帰しなければなりません。
そこでわたくしは四方に手を回して、まず父上から皇族に復帰する算段を取り決めました。
当然わたくしは自身の最大限の武器である固有魔法【無詠唱魔法】を強調し、世界最高の魔導士たる器を有していることを殊更にアピールしました。
その甲斐もあってか、わたくしは父に認めてもらうことができ、皇族に復帰するに至りました。
しかし、そうなると、次なる問題が出てきます。
わたくしはまず自身の派閥を増強する必要があったのです。
わたくしは十年間、皇族から離れており、後ろ盾となる人脈が気付けていませんでした。
しかも、今まで死んだとされていた第二皇女がいきなり皇族に復帰したのですから、他派閥の兄弟や貴族からの風当たりは強く……。
そこでわたくしが目をつけたのが――皇立アウグスタニア魔導学園だったのです。
皇立アウグスタニア魔導学園は、皇国で随一と言っていいほどの超名門の魔導学園。
アウグスタニア皇国内の著名な魔導士はほぼ全てと言っていいほど皇立学園出身です。
そこで自身の実力を以て、有力貴族や学閥の支持者が集まれば、一大勢力として皇位継承戦争に台頭することができる。
そう考えたわたくしは、皇立学園に首席で合格して、王皇選抜戦で圧倒的な勝利を収めるというサクセスストーリーを描きました。
結果、わたくしは皇立学園に過去最高点で首席合格を果たし、王皇選抜戦では現時点では皇立学園の方が優勢という状況です。
そうして、明日こそが天王山。
「個人戦・首席戦となるわけですよ、ジル――」
そこまで話すとリーネはゆっくりと雛罌粟色の瞳を開けた。
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新作投稿記念ということで『§113』は隔日ではなく明日更新にします!
また、新作もコンテストの週間ランキングがあとちょっとで10位以内です!
必死に書いてますので応援してください!
〇タイトル
天才軍師令嬢の軍略無双 ~ゲーム世界に《意識だけ》転生した私、前世のゲーム知識で世界最強の国家を作ります~
https://kakuyomu.jp/works/16817330655511116098
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