§108 二固有魔法の保有者
試合再開とともに、私、レリア・シルメリアは疾駆します。
私が『エスペランサ』を介して発動できる魔法は二つ。
一つ目は『シルメリウス・アクター』。
自身の身体能力を飛躍的に向上させる補助魔法です。
見た目通り、身体能力の高くない私ですが、そんな私でも一般の冒険者にも負けず劣らずの体術が可能になります。
二つ目は『シルメリウス・バレット』。
圧縮した魔力を杖の先から高速で射出する長距離攻撃型の魔法です。
先ほどロイ様に一撃を見舞ったのもこの魔法。
まさに攻撃の要と言えるものです。
ジルベール様の
このように私の魔法戦闘はエスペランサの導入によって飛躍的に広がりました。
これらの魔法を組み合わせれば、近距離から長距離の魔法戦闘のいずれも対応は可能。
そんな魔導杖による魔法――エスペランサシリーズを武器に、私はロイ様に戦いを挑みます。
「――シルメリウス・バレット――!!」
私は可能な限り距離を詰め、高速で魔力の球体を射出します。
これらは正確に言えば、その場で魔法を発動しているわけではなく、事前に仕込んでおいた魔力を射出しているだけ。
そのため、実質的には無詠唱と同じ速度で魔法を放つことができます。
これこそが魔導具を駆使した戦闘の真骨頂と言えるでしょう。
ロイ様の固有魔法では闇属性魔法を防げないことは先ほどの説明でわかりました。
私の魔法は基本的に全て闇属性のものになりますので、ロイ様の切り札とも言える固有魔法を封じたものと同義。
この勝負――勝てます!
「――シルメリウス・バレット――!!」
「――シルメリウス・バレット――!!」
「――シルメリウス・バレット――!!」
私は続けざまに魔力弾を射出します。
その球体は真っ直ぐにロイ様に向かい、私は直撃を確信しました。
「当たれ―――ッッ!!」
私は思わず大声を張り上げますが、同時にロイ様の詠唱が完成していました。
「――鎖魔法【
ロイ様が魔法名を唱えた途端、彼の周囲を取り囲むように異空間のような歪みが生じ、その中から漆黒の鎖が勢いよく射出されました。
(ズシャ!)
同時にリンゴが潰れるような異音とともに、私の放った魔力弾は撃ち落とされました。
「……まさか」
私は思わず声を漏らしてしまいました。
ロイ様が放った鎖の魔法。
その魔法は纏っているオーラから闇属性魔法であることは間違いありません。
しかし、私は殊、闇魔法についてはそれなりに造詣があるつもりでしたが、その闇魔法を見たことが無かったからです。
強いて言えば、以前、私とジルベール様をつないでいた魔導具『常闇の手枷』に似ているような気がしますが、それよりも更に高位の魔法であることが目に見えてわかります。
「その魔法は……」
私は足を止めると、ロイ様に問いかけます。
「ふはは。その驚きよう、実に愉快だね。これはね、僕の固有魔法【
「【
「おいおい、僕を嘘つき呼ばわりとは不敬なやつだな。両方とも正式な僕の固有魔法だよ」
「そんな。固有魔法を二つ持つものなど……」
「それがいるんだよ。――僕はね、
「……
「ああ、君は僕の固有魔法を封じたつもりだったのかもしれないけど、残念ながら僕には固有魔法が二つあるんだ。一つが闇属性魔法以外の攻撃を無力化する
そう言って尊大にも両手を広げるロイ様。
「そんな神に選ばれし僕に、魔導具に頼るしかない君のような平民の魔法が届くわけがないだろう」
そう言うと同時に空中に複数の楔を宿した鎖が顕現。
そして、ロイ様が軽く手を振り下ろすと、その鎖はものすごい速度でこちらに向かってきました。
私は咄嗟に身体を返してそれをすんでのところで躱しますが、楔が掠った左頬からじんわりと温かい液体が流れ出ます。
その後、次々と襲いくる鎖の雨。
私はシルメリウス・アクターの効果でどうにか右に左に身体を回転させ、時にはエスペランサで鎖をなぎ払いながら回避を続けますがじり貧。
とても反撃ができるような隙はありません。
躱した鎖が貫いた地面には凝縮された点攻撃による風穴が開き、直撃を受けたら致命傷となりかねません。
ロイ様は私をなぶるのが趣味なのか、どうやらまだ本気は出していない様子。
それでもいずれ私はあの鎖に捕らえられてしまうでしょう。
私は逆転の一手を模索します。
そして、私は一つの解を導き出しました。
――あの魔法を使うしかない。
実はエスペランサシリーズにはもう一つ最終手段とも言える魔法が存在するのです。
しかし、この魔法はシルフォリア様から使用を禁止されていました。
私はその時の会話を思い出します――
「エスペランサは特殊な魔導杖だ。エスペランサは――貯蔵した魔力を自在に引き出し使える――と説明したが、厳密にはこの説明は間違っている」
「というと?」
「魔導士がエスペランサに魔力を貯蔵するわけではない、エスペランザが魔導士の魔力を貯蔵するのだ。この違いがレリアならわかるだろう」
「エスペランサに魔導士が使役されているという意味ですか?」
「理解が早くて助かる。まったくもってそのとおりで、エスペランサは魔導士の魔力を養分にして活動している生き物と考えた方がいい。そして、生き物であれば、当然、好き嫌いがあるのだ。エスペランサはどうやら美食家のようで、
「……強い想い」
「君が
「――『魔法の力は感情に大きく左右される』――というものでしたかと」
「そのとおり。これは古より伝えられし魔導の真髄。つまり、『感情』というのは魔法に匹敵する力を秘めているということだ。そして、君は『魔力』のみならず、『感情』についても、人よりも圧倒的に秀でた強い想いというものがある。もし、それを制御することができれば、エスペランサシリーズ最後の一つである――『シルメリウス・エクスプロージョン』――が使える。しかし、この魔法は諸刃の剣だ。覚悟無き者に使いこなせる代物ではない。そのことを肝に銘じるように」
――そこまで想起すると、私は目をゆっくりと開けます。
どうやらほんの少しだけ私の認識に記憶違いがあったようです。
シルフォリア様は一方的に「使用禁止」とは言っていなかった。
ただ、「覚悟無き者に使いこなせる代物ではない」と言っていただけ。
ということは、裏を返せば、覚悟さえあれば……私の想いがエスペランサの制御を上回れば、この魔法は成功させられる。
私はこの戦いに至るまでの過程を通して、いろいろと考えさせられました。
先ほどの『呪われた聖女』の一件を通じて、今まで足りなかった覚悟も固めた。
そして、ジルベール様を想う気持ちは誰にも負けない自信がある。
条件は満たした。
あとは……この魔法をロイ様に直撃させるだけ。
そのためには、至近距離まで近付くか、何かしらの方法でロイ様を足止めする必要があります。
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