§107 動き出す策謀
――所変わって王立学園の保健室にて。
私、メイビス・リーエルは、赤と青の双眸をスッと開けると、ベッドからゆっくりと身体を起こします。
そして、私は手の開閉をして、自身に魔力が戻っていることを確認します。
「魔力量を一時的に0にする魔導具。どうやらうまくいったみたいですね」
そう独りごちると、私は傍らに座るエクセラ先生に目を向けます。
すると、エクセラ先生は椅子に腰かけたままくぅーくぅーと静かな寝息を立てていました。
「睡眠薬が効いたようですね」
私は微かな笑みを浮かべます。
そう。私が怪我をしたふりをしたのは演技。
全ては校舎内がもぬけの空になる王皇選抜戦・個人戦の開始に合わせて、
私は皇立学園チームが開始と同時に攻め入ってくることを知っていました。
だって、あれは私が立てた作戦なのですから。
私は皇立学園の第三席であるロイ・アルヴレート・フォン・アウグスタニアと通じて、集団戦で怪我をするふりをすることに決めていました。
こうすれば、私は個人戦を棄権することができますし、ロイは私と戦わなくて済む。
ただ、私も『
なので、私は私の代わりに第三席戦を戦ってくれるスケープゴートを準備する必要があったのです。
そうして白羽の矢が立ったのが――レリア・シルメリア。
彼女には戦闘の才はありません。
けれど、ジルベール君に強い執着を持っています。
私はそれを利用しようと考えました。
試合方式を決定する魔導具に細工をして、第三席戦の決着が最大限長引くであろう『
これでレリアちゃんが少しでも粘ってくれれば、私が『
そう考えたのです。
まあ、一つ誤算があったとすれば、エリミリーネ皇女殿下の攻撃が私の想像を遙かに上回るものだったということでしょうか。
私はロイから攻撃(演技)を受けることに備え、事前に水属性の防御魔法を展開する準備をしていました。
それが結果として功を奏し、エリミリーネ皇女殿下の【無詠唱魔法】による攻撃が到達する直前に運良く防御魔法を展開することができたのですが……。
私はまだ少しだけ痛む火傷を軽く撫ぜます。
アイリスちゃんの治癒魔法をもってしても一日では治せない重症。
しかも、私とは相性の悪いはずの火属性魔法で……。
あれの直撃を受けていたら、私はどうなっていたのだろうと寒気がします。
まあ…………それでも最後に勝つのは私です。
私が立てた作戦は、全てが滞りなく進みました。
そんな安堵の気持ちから、私はふぅと溜め息を漏らします。
……やっとここまで来られた。
……ついに私の悲願が達成されるのです。
私の悲願。
それは――エリミリーネ・シェルガ・フォン・アウグスタニアを殺すこと。
私は全てを嘘で塗り固めて、メイビス・リーエルとして、これまで生きてきたのです。
でも……それももう終わり……。
『
あとは、首席戦が始まるまでに月禍様のご指示とおりに封印解除を行うだけ。
「さて、目的の場所に向かいましょうか」
私はゆっくりとベッドから降りると、もう袖を通すのも最後となるであろう黒服に身を包みます。
そうして、保健室の扉に手をかけようとしたその瞬間――
(帰れ、帰れ、帰れ)
保健室に備え付けられた
私は何事かと思って、王皇選抜戦・第三席戦をリアルタイムで映し出している
そして、私の視界に飛び込んできたもの。
それはレリアちゃんが罵声を浴び、暗く視線を落としている姿でした。
どうして?
何が起きているの?
私は自分の目的も忘れて、思わず
次の瞬間に飛び込んできたのは、
――私は『終焉の大禍』の大罪人オーディナル・シルメリアの娘です!――
そんな悲壮と哀愁と、そして決意を帯びたレリアちゃんの声でした。
「え」
その言葉に私は思わず言葉を失ってしまいました。
レリアちゃんがオーディナル・シルメリアの娘?
しかし、この事実は私の中ではストンと落ちるものでした。
なるほど。そういうことだったのですね。
だから新・創世教はレリアちゃんを欲しがっていたのか。
名字、月禍様の言葉、魔法適性。
気付ける場面などいくらでもあったのに……自身の短慮を悔やみます。
でも……そんなことを王皇選抜戦・第三席戦の……このタイミングで言わなくてもいいじゃないですか……。
別に隠そうと思えば隠せたことを……観客の前で……。
ただ、私の頭脳はすぐに正解を導き出してしまいました。
「……ああ、私のせいですね」
私がレリアちゃんをけしかけたから。
私がレリアちゃんを代理の代表選手に選んだから。
私がレリアちゃんが焦るように振る舞ったから。
だからレリアちゃんは言いたくもない事実を暴露させられて……。
私はゆらりと立ち上がると、
「――
同時に第三席戦を映し出していた
しかし、粉々にしてもまるで割れた鏡に自身の姿が映り込むように、尚も第三席戦の映像を映し続ける
それは私がこの事実から目を背けることを許さないと神が言っているかのよう。
「――――くっ」
私は思いっきり唇を噛むと、その一欠片を制服のポケットに入れます。
私にはもう……関係のないことです……。
たとえレリアちゃんが……どうなろうと……。
「さて、目的の場所に向かいましょうか」
私は自分自身の魂にそう宣言して、ゆっくりと歩み出します。
――全ては私の過去を取り戻すために。
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