§096 作戦会議
「いい加減にしてくれないかな。この僕がせっかく作戦会議とやらに付き合ってあげているのに、首席の君がその体たらく。時間の無駄だったよ」
セドリックはそう言っておもむろに立ち上がると、バンッと音を立てて選手控室から出て行ってしまった。
それを見守っていたメイビスが深いため息を漏らす。
「今のはジルベール君が悪いですよ」
「……ああ。すまん」
なぜこのような状況になったかと言うと、俺達、王立学園チームは開会式を終えた後、『集団戦』の作戦会議を行うために選手控室に集合していたのだ。
メンバーは、俺、セドリック、メイビスの三人。
こういう場に滅多に顔を出すことのないセドリックだったが、メイビスがどうしてもとお願いしたことにより、どうにか来てくれていた。
それにもかかわらず俺の頭は別のことでいっぱいで、作戦会議が上の空になってしまっていたのだ。
別のこととはもちろんリーネのことだ。
今回の件は状況が状況だけに、どちらが悪いとも言えない。
言うなれば、偶然に偶然が重なった運命的な産物とでも言えるだろうか。
ただ、どちらが悪いとも言えないだけで、俺に責任がないわけではない。
リーネは確かに早とちりのしやすい性格だ。
けれど、ここまで話をややこしくしてしまったのは、俺の煮え切らない性格によるところも大きい。
リーネは「運命の出会いだと不覚にも胸をときめかせて」と言っていた。
少なくとも俺がリーネのことを傷つけてしまったことは事実。
そんなモヤモヤが心の痼りとなって、頭から離れなくなっていたのだ。
「ジルベール君、開会式が終わった時からおかしいですよ? 何かありましたか?」
俺が精細を欠いている理由が開会式にあることをなんとなく気付いているのだろう。
メイビスはそう尋ねつつ、俺の顔を覗き込んでくる。
俺はリーネのことをメイビスに話すべきなのかを正直迷った。
しかも、俺はその時リーネが皇立学園の首席で、アウグスタニア皇国の第二皇女であることなど露も知らなかったのだから、通りすがりの冒険者として伝えていたし。
そんなこともあって、この複雑な状況を集団戦までの短時間で簡潔に説明できる自信がなかった。
あと……レリアという想い人がいながら、偶然と言い訳しながらも密会を重ねていたことの後ろめたさが、口を重くしていた。
しかし、さすがに相手の首席の情報を知っているにもかかわらず、同じ王立学園チームにその情報を共有しないわけにもいかない。
そう考えて俺は、詳細はとりあえず省いて、ダンジョンのボス級魔物を討伐した際に協力してくれた冒険者が実はリーネだったことをメイビスに伝えた。
すると、メイビスは「なんでそんな重要なことを黙ってたんですか!」と珍しく声を荒げていたが、俺だってリーネがまさか皇立学園の首席で、しかも、アウグスタニア皇国の皇女殿下だなんて夢にも思わなかったのだから仕方ないじゃないかと思う。
そう言うと、メイビスは明らかに腑に落ちてない表情を浮かべていたが、「そうですね……」と一言述べただけで、それ以上追求してくることはなかった。
「とりあえず、もう集団戦まで時間がありませんので集中してもらわなきゃ困ります。セドリック君は性格上、ああなってしまっては時間までに連れ戻すのは至難でしょう。そのため、致し方ないですが、私とジルベール君の二人で作戦会議を行うことにします」
そこまで言うと、メイビスは『集団戦』の試合方式のおさらいを始めた。
「今年の集団戦の試合方式は――『宝壊し』――です。これは端的に言えば、広大なフィールドにおいて、相手陣営の所持する宝を破壊することで勝負を決するバトルロワイアルです。ただ、これでは単なる『シンボル壊し』と同じ。この『宝壊し』の大きな特徴は、ポイント制の競技というところです」
「ああ、相手チームの全員を戦闘不能にするか、相手チームの宝を壊した時点で試合は終了。そのチームを勝利チームとして五十ポイントが入るというのは通常の『シンボル壊し』と同じ。ただ、この『宝壊し』は、各チームの宝とは別にフィールド内に『マーカー』と呼ばれる魔導具が設置されており、マーカーを破壊すると破壊したチームにポイントが加算されるんだよな?」
「そのとおりです」
「マーカーを壊した際のポイントがいくらかはランダムとのことですが、過去の傾向を見る限りはそこまで低いポイントはなさそうです」
そこまで説明したメイビスは、軽い詠唱の上、空間からチェス盤のような魔導具を取り出す。
「――それでは、ここからは私が考えた作戦をお伝えします」
そんな相変わらずのメイビス節の下、俺達の作戦会議はスタートした。
――集団戦の開始まであと一時間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます