§093 ルール説明

「――は~い! それでは両校の学園長からありがたいお言葉も頂戴したことですし、ここからはこの私がこの場を仕切らせてもらいましょうゾ!」


 壇上に上がった少女はそう宣言すると、シルフォリア様同様に片手を蒼天に向かって掲げて、ピースサインを作ってみる。


「「「「うぉぉぉぉぉ――――っっっ!」」」」


 すると、それに呼応するように男くさい声が会場に木霊した。

 両学園長の演説の時とはまた違った熱気に包まれる会場。


 そんな声援に笑顔で応えた彼女は、目元で横ピースを作ると、あざと可愛い表情でウインクを決めてみせた。


「――私は王立セレスティア魔導学園・放送部三年のカレン・ビアンフェ! 栄えある王皇選抜戦の司会、実況、解説の一人三役を務めさせていただきますゾ! 皆、応援よろしくお願いしましょうゾ!」


「「「「うぉぉぉぉぉ――――っっっ!」」」」


 地鳴りのような声が響き渡る会場。

 この歓声からもわかるとおり、彼女は王立学園ではかなり有名な人物らしい。


「あの人は有名な人なのか?」


 俺は傍らのメイビスに彼女のことを聞いてみる。

 すると彼女はまるで残念なものを見るような目で俺を見つめてきた。


「貴方は本当にレリアちゃんにしか興味ないのですね。まあ、ジルベール君らしいと言えば、ジルベール君らしいですが」


 そう言ってメイビスは軽く肩を竦める。


「彼女はカレン・ビアンフェ先輩。癖になる特徴的な語尾と、物怖じしない性格から、こういったイベント事には引っ張りだこの、いわば学園のアイドルです。学園祭のミスコンで二年続けて優勝している超有名人ですよ」


 メイビスの反応を見るに、どうやら彼女の存在を知らない俺は非常識の部類に入るようだ。

 俺は改めてカレン先輩に目を向ける。


 黒髪のポニーテールに、谷間がのぞくほどに着崩された制服。

 屈託のない太陽のような笑顔に、チラリとの覗く八重歯。


 可愛さで言えばレリアやメイビスも十分負けていないと思うが、カレン先輩は少し派手目の様相のせいか、見る者を虜にしてしまうような華のようなものがあるように感じた。


 その華こそがまさに学園のアイドルたる所以なのだろう。


「カーレーン! カーレーン! カーレーン!」


 それを証拠に客席からはカレン先輩コールが始まっている。


 他国の首脳も来賓として列席されているのに、いささか礼節を欠く気がしないでもないが、王皇選抜戦もという位置付けのようだし、これはこれで無礼講なのだろう。


「みんな、声援ありがとうございますだゾ! さてさて、このままだと私のワンマンライブになってしまいそうなので、自己紹介はこれくらいにして、早速、王皇選抜戦の解説に移らせていただきましょうゾ!」


 俺はせっかくの機会なので、持参していた王皇選抜戦の説明書を広げる。


 一応予習はしてきたつもりだが、メイビスはこの程度の説明書なら丸暗記しているのだろうし、足を引っ張らないためにも、復習も兼ねて読んでおくに越したことはない。


「まず日程についてですが、王皇選抜戦は全部で三日間の日程で開催されますゾ! そして、行われる競技は大きく分けて『集団戦』と『個人戦』の二種目! これらの競技でポイントを取り合って、最終的に合計点数が多かった学園が栄えある王皇選抜戦の勝者となりますゾ! ――さて、ここからは少し細かい話になるので、映像を使って説明させていただきますゾ!」


 カレン先輩がそう言うと特設ステージの後方に設置されていた超ド級の大きさを誇る映像結晶クリスタに映像が映し出された。

 どうやらあの映像結晶クリスタがオーロラビジョンの役割を果たすようだ。


 彼女はそれを指差しながら解説を始める。


「――まず、初日に開催されるのは『集団戦』ですゾ!」」


 そう言ってカレン先輩は集団戦の解説を始めたため、俺も説明書の該当ページに目を落とす。


 集団戦とは各校の代表選手である首席、次席、第三席が一つのチームとなって競い合う種目のことだ。


 チーム戦によるバトルロワイアルをイメージするとわかりやすいが、王皇選抜戦の集団戦はそこに更なる趣向が凝らされている。


「集団戦には、と呼ばれる、試合を盛り上げるシステムが導入されているゾ!」


 そう。例えば、去年の集団戦は『王様ゲーム』という試合方式が採用されていた。


 これは各チームで独自に王様を決めた上でバトルロワイアルを行い、王様が先に倒されたチームの負けという方式だ。


 試合方式は年によって様々だが、共通して言えるのは、魔法の実力が必要なのは当然のこととして、戦略的な部分が非常に重要になるということだ。


 昨年の王様ゲームであれば、相手のチームの王様が誰かわからない以上、いかに相手の意表を付く王様を選定し、いかに相手の王様を看破するかの知略戦的要素が非常に強い。


 集団戦の試合形式の発表は開会式で行われるため、開会式の終了から集団戦開始までの数時間の間に、その試合方式を正確に理解し、緻密な作戦を立てることが集団戦を制する肝と言える。


「集団戦の勝者には、五〇ポイントが付与されることになりますゾ! なお、今年の競技内容は後ほど発表させてもらうから期待して待っていてほしいのだゾ!」


「「「「うぉぉぉぉぉ――――っっっ!」」」」


 鳴りやまぬ歓声から、各校の代表選手が一堂に会する集団戦の注目度が窺える。


「――続いて、二日目と三日目の二日間にわたって開催される『個人戦』について説明させていただきましょうゾ!」


 そうしてカレン先輩の解説は個人戦へと移る。


 個人戦とは代表選手が一対一で決闘を行う種目のことだ。

 個人戦には第三席戦、次席戦、首席戦の三試合があり、第三席戦と次席戦は二日目、首席戦は三日目に開催される。


「各試合の勝者には、それぞれ第三席戦・一〇〇ポイント、次席戦・一〇〇ポイント、首席戦・二〇〇ポイントが付与されることになっておりますゾ! また、個人戦についても、集団戦と同様にが定められておりますゾ!」


 個人戦でいう試合方式とは、端的に言えば、勝敗の決定方法だ。

 例えば、去年に採用された試合方式に『シンボル落とし』というものがあった。

 これは、自身の身体にシンボルとなるものを身につけ、それを破壊された方が負けというルールだ。

 この他にも、どちらかが倒れるまで勝敗がつかない『デスマッチ』や、相手を会場の外に退出させる『場外飛ばし』などがあり、これらは試合前にランダムで決定されるとのことだ。


 勝者ポイントを見ればわかるとおり、個人戦のポイントは集団戦のポイントとは比較にならない。

 つまり、個人戦は王皇選抜戦の勝敗を直接左右する大一番であり、王皇選抜戦を王皇選抜戦たらしめると言っても過言ではないメインイベントなのだ。


 個人戦は、戦略がメインの集団戦とは異なり、個の実力が重視される。

 そのため、この個人戦で注目を浴びた選手には王国から先んじて宮廷魔導騎士団へのスカウトがなされるという話だ。


 と、結局は自身で予習してきた内容を反復するだけになってしまったが、ちょうどカレン先輩の解説も終わったようだ。


「さて、少し細かい話になってしまいましたが、カレンの説明で理解していただけましたでしょうか?」


 不安そうな上目遣いをしつつ、甘えたような声を出すカレン先輩。

 なんともあざとい仕草だが、カレン先輩応援団には効果は抜群だったようだ。


「「「「うぉぉぉぉぉ――――っっっ!」」」」


 会場を揺らすほどの歓声で応えるカレン応援団の面々。

 その歓声を受けたカレン先輩は満足そうな笑みを湛えると、指を蒼天に高らかにかざす。


「それならよかったですゾ! ではでは、会場もかな~り盛り上がってきたことですし、ここからは各校の代表選手の紹介に移らせていただきましょうゾ! 実は代表選手の方々には既にバックヤードに控えてもらっていますので、これから第三席から順に壇上に上がってもらいましょうゾ!」


 こうして、ついに俺達にも声がかかる。


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