第10章【王皇選抜戦】

§090 目覚めの朝

 窓から差し込む太陽の光。

 そんな心地のよい温かさを受けて、俺はゆっくりと瞼を開いた。


 そこはいつもと変わらない学生寮の一室。

 ただ、壁にかかるカレンダーに目を向けると、今日を指し示す日には大きく赤色の丸が書き込まれている。


 ――そう。今日から王皇選抜戦が始まるのだ。


 そう意識した途端に、気分は高揚し、意識が一気に覚醒へと向かう。


 俺は身体を起こして、視線を隣のスペースへと動かしてみる。

 どうやら相部屋のユリウスはまだ深い眠りの中のようだ。


 時計に目をやると、予定していた起床時間よりも、一時間ほど早かった。

 やはり無意識のうちに興奮していたようだ。

 こんなにも早起きしてしまったのは、子供の頃の楽しみにしていた遠足の日以来のことかもしれない。


 俺は昂る気持ちを少しでも抑えようと、ユリウスに気を遣いながらも、窓を開け放つ。


 すると、春の陽気が一気に身体を包み込み、爽やかさを感じられるほどに清々しい風が頬を撫ぜた。


「なんだ、ジルベール。もう起きてるのか」


 背後からユリウスの声が聞こえた。

 振り返ると、眠い目を擦りながら、身体を起こすユリウスの姿があった。

 かなり気を遣っていたつもりだが、どうやら窓の開閉の音で起こしてしまったようだ。


「どうにも胸が高鳴って、目が覚めちゃってさ」


 俺は苦笑して見せる。

 そんな俺の反応を受けてユリウスも微笑む。


「まあ、気持ちはわかるけどな。あれだけの来賓の前で試合をするんだ。緊張するなという方がどうかしている」


 そこまで言って一息置くと、ユリウスは興味深げな表情を湛える。


「それで、は完成したのか?」


「実戦で使えるレベルかは微妙だけどどうにか間に合ったよ。形にできたのはメイビスのおかげさ」


「それはよかった。戦いの幅が広がるのに悪いことなんてないさ」


 そう言ってユリウスは気を利かせてくれたのか、熱いコーヒーを入れてくれた。

 俺達はそれを無言で啜る。


 今思うと、ユリウスとこんな感じに卓を囲む日が来るなど、夢にも思わなかった。

 人生とはわからないものだと、俺はクスリと笑う。

 そんな俺を見たユリウスが不思議そうな表情を浮かべる。


「何を笑ってるんだ? 緊張で気でも触れたか?」


「まさか。ユリウスとこうやって一緒にコーヒーを飲む日が来るなんて夢にも思ってなかったから、なんだかおかしくて」


「ああ、確かにな。おそらく相部屋にならなかったら、こうはなってないだろうな」


「アイリスを好きになってなかったらの間違いだろ?」


 そう言って二人は笑い声を上げる。


「王皇選抜戦が終わったら祝勝会をやりたいな。もちろんアイリスやメイビスも誘って」


「そのためには勝たなきゃだけどな」


「確かに」


 そうして、コーヒーを飲み終えた俺は席を立つ。


「もう行くよ」


 そんな俺を席に座りながら見つめるユリウス。

 そして、しばしの沈黙の末、ユリウスは言葉少なげに言った。


「勝てよ」


 ユリウスから改まってこの言葉を言われると、本当に俺は皆の期待を背負っているのだなと実感する。

 プレッシャーに感じるのはもちろんなのだが、それ以上に俺はその期待に応えたいと思う。


 俺はドアに手をかけ、半身振り返ると、静かなる闘志を湛えて言った。


「勝つさ」


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