第9章【ダンジョン攻略】

§068 学外演習

 入学から二週間ほど過ぎたある日。

 シルフォリア様が受け持つ『魔法実技』の授業が急遽、学外での演習に変更された。


 学外演習の具体的な内容は――ダンジョン攻略――。


 シルフォリア様の説明を要約すると、Sクラスのメンバーは既に魔法による戦闘に耐えうる素養があるため、その素養を伸ばすためにも、より実践的な魔法演習を行う必要があるとのことだ。


 そこで白羽の矢が立てられたのが『ダンジョン』だ。


 ダンジョンとは世界に無数に存在する地下迷宮のこと。

 誰が作ったのか、なぜ作られたのかは全くの不明。

 共通して言えることは、ダンジョンには魔物が巣食い、より深い階層に行けば行くほどその魔物は強くなるということだ。

 最深部には何でも願いが叶うお宝が眠っているという話だが、未だに最深部に辿り着いた者はいないため、あくまで噂でしかない。


 俺達に課せられた課題は、そんなダンジョンのうち、比較的難易度が低いとされる我がユーフィリア王国とアウグスタニア皇国のちょうど境にある『深淵の扉』というダンジョンに挑戦し、地下十階層にある宝玉を持ち帰るというものだ。


 シルフォリア様によると『深淵の扉』は既に三十階層までの攻略が完了しているため、十階層程度ではそこまで危険はないとのことだ。


 なお、学外演習の場合は、制服の着用義務はなく、各自好きな服装での参加が可能とのことだ。


 そんなこともあって、俺は普段気慣れた黒色の外套、レリアは見慣れた修道服で学外演習に臨むことになった。


「さて、資料は行き渡ったかな? その資料に書いてあるとおり、今回は三人一組のパーティで臨んでもらう」


 シルフォリア様の転移魔法で、『深淵の扉』のすぐ近くまでに移動させられていた俺達は、シルフォリア様から資料の配付を受ける。


 配付された資料は、十階層までに出現する魔物の一覧、各階層のマップ、パーティの組分けが記載された紙だった。


 俺はまずパーティの組分けが記載された紙に視線を落とす。


【Cパーティ】

 ・ジルベール・ヴァルター

 ・メイビス・リーエル

 ・レリア・シルメリア


 どうやら今回は『適性外魔法研究』の時と同じパーティになるようだ。


 俺は隣にいたレリアに声をかける。


「レリア、今回も同じパーティみたいだな」


「はい。ジルベール様と同じパーティで安心しました。ジルベール様と一緒ならダンジョンも難なく攻略できそうですね! 私も精一杯頑張ります!」


 そう言って胸の前で両手にギュッと力を込めながら凛々しげに頷くレリア。


 レリアの得意魔法は世界奉還シルメリアを除けば基本的に補助魔法だ。

 俺はどちらかといえば攻撃魔法を得意とするタイプなので、レリアと一緒のパーティということは必然的に俺が魔物を倒す役になるだろう。


「基本的に俺が前衛で魔物の対処をやるよ。レリアは後衛で援護してくれると助かる」


「……援護。わかりました」


 レリアも自身の得意魔法を理解しているはずなので、なんとなく快い返事が返ってくると思っていたのだが、どういうわけかレリアの返事は歯切れの悪いもの。

 その点が少し気になった俺はレリアに再度問いかける。


「どうした? 体調でも悪いのか?」


「い、いえ、大丈夫です! 援護は任せてください!」


 そう言って笑みを湛えるレリア。

 どうやら俺の杞憂だったようだ。


 そんな会話をしていると、もう一人のパーティメンバーであるメイビスも話しかけてきた。


「またジルベール君とレリアちゃんとご一緒できますね。よろしくお願いします」


 俺は自然な流れでメイビスにも目を向ける。

 そして、軽快に挨拶を交わすつもりだった。


「おっふ」


 しかし、俺は慮外にも変な声を漏らしてしまった。


 というのも、目の前に現れたメイビスが普段とは異なり、可愛らしい姿だったからだ。


 純白のブラウスに、紫チェックのハイウエストのスカートというイメージどおりの清楚な出で立ち。

 腰に黒色のベルトを巻いているため、細見のウエストが際立って細く見える。

 ニーハイのブーツが更に女の子らしさを演出し、胸にかかる紅玉をあしらったペンダントがまさにお嬢様の休日ファッションという感じだ。


 そんな私服姿のメイビスは、何かを警戒するように周りを見回すと、少し小声になって俺とレリアにある提案をしてきた。


「あの、これから三人で作戦会議をすることになると思いますが、ここはどうにも人目が多くて落ち着きませんので、場所を変えませんか?」


 メイビスは気まずそうに言う。

 人目が多くてということで、俺は辺りを見回すと、メイビスが美少女ゆえに皆の注目の的になることはいつもと同じなのだが、今日は男達の色めき立ち度合いのレベルが違った。


 これは言うまでもなく、普段は黒服に身を包んでいるメイビスが、今日は私服姿で学外演習に臨んでいる影響だった。


 確かに普段は制服姿の子がプライベートなどで見せる私服姿が可愛く見える心理は、朴念仁の俺でも納得ができるところだ。


 彼女の出す荘厳なオーラ故か、いたずらに声をかけてくる者はさすがにいないが、俺もこの状況では居心地が悪い。


「わかった。場所を変えようか」


 そうして俺達三人は皆が集まっている場所よりも少し森の中にある岩場へと移動した。


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