§067 魔力暴走
模擬戦は相手パーティのシャーロット様が欠席となったため、俺は一回休み。
『Aクラス令嬢ペア』vs『レリア・メイビスペア』での一戦となった。
ルールとしては、自身の魔法適性による魔法攻撃は禁止。相手パーティのいずれかに対して一回でも魔法をクリーンヒットさせたパーティの勝利ということになった。
ただし、『魔法陣』の使用は禁止。
完全に俺を標的とした特別ルールだったが、この事実から、アリ先生に限らず、『魔法陣』という未知の魔法への理解はなかなか難しいものだと知る。
「は~い。両者、準備はいいですか~。それでは模擬戦スタート」
とても模擬戦の開始とは思えないトキノ先生の緩やかな声によって切って始まった戦い。
すぐさま魔法を構築したのは、令嬢パーティだった。
「――
「――
雷属性の中級魔法
魔法適性でない魔法は、通常であればかなり威力が落ちるはずだが、彼女達の放った魔法はそれなりの鋭さを保っていた。
令嬢達の性格の悪さゆえに完全に侮っていたが、彼女達だって王立学園の入学試験を突破し、Aクラスに配属されるような魔導士なのだ。
その実力は一介の魔導士よりも遥かに上。
しかも、先ほどのシャーロット様の激励が効いているのか、最初から全力の構えだ。
決して余裕の戦いではないと、俺は認識を改める。
そんな二人の令嬢の魔法の矛先はレリアだ。
模擬戦のルールが「相手パーティのいずれかに対して一回でも魔法をクリーンヒットさせること」である以上、一人に集中して攻撃した方がヒットの可能性が高い。
そして、第三席のメイビスを狙うよりは、魔法戦が得意とはいえないレリアを狙うべきという判断のようだ。
しかし、その判断は失策だった。
メイビスが完全に手空きとなることに加え、攻撃が一箇所に集中する結果、
「――|
メイビスの光属性の防御魔法により簡単に相殺されてしまう。
「くっ!」
続けて、余裕の笑みを浮かべながら攻撃魔法の詠唱を開始するメイビス。
レリアはそのフォローに回るために補助魔法を構築。
そんな二人を見て焦りの表情を浮かべる令嬢達。
「(負けるわけにはいきませんわ)」
「(かくなる上は、アリ先生から教えていただいた詠唱魔法で……)」
何やら言葉を交わし合った令嬢達は前後に散開すると、前衛の令嬢はメイビスの魔法を防ぐために防御魔法を構築。
一方の令嬢は前衛の令嬢が時間を稼いでいる間に何かしらの大魔法の詠唱を行うつもりのようだ。
「――『стоя на коленях』――」
その詠唱はどこかで聞いたことのある禍々しい響きのものだった。
「まずい!」
俺の隣で審判役を務めていたトキノ先生が叫ぶのと――ほぼ同時だった。
後衛の令嬢の身体が強い光に包まれたかと思ったら、黒い雷鳴が激しく荒れ狂ったのだ。
「な、なにこれ! 制御がき、利かない!」
どう考えても想定外の事態なのだろう。
後衛の令嬢は手に激しい雷鳴の塊を宿しながら叫び声を上げる。
次の瞬間には険しい表情を浮かべたトキノ先生が疾駆の如く駆け出していた。
向かうは当然後衛の令嬢の下。
令嬢は苦悶の表情を浮かべながらも、どうにか荒れ狂う魔力を抑えようとするが、まるで暴れ馬に乗っているかの如く、手に宿る魔法自体に身体を大きく揺さぶられている。
これはおそらく「魔力暴走」と言われるもの。
レリアの
「だ、誰か! 助けて!」
ついには令嬢の声が悲鳴へと変わる。
だが、前衛の令嬢は顔面蒼白で力なく地面に座り込んでしまっているし、レリアやメイビス達もとても彼女を助けられる状況にない。
それほどまでに令嬢の放つ魔力は禍々しく、強大だった。
そんな令嬢に果敢にも立ち向かったトキノ先生は自身の身体に防御魔法を展開しつつ、彼女の魔力をどうにか抑えつけようと猛進の上、覆いかぶさった瞬間だった。
(ドォォオオーーーン!)
――彼女の手中で高密度に圧縮されていた雷鳴の塊が無造作に射出されたのだ。
その軌道は大きく弧を描きながら草原を焦土に変えて進む。
そんな魔法の進む先には――レリアがいた。
「きゃぁ―――っ!」
レリアの悲鳴。
「――
俺は過去最速で『魔法陣』を展開するが……既にレリアの目前まで迫った雷鳴を捕らえることはできず……紙一重のところで二つの球体が交差した。
「……あぁ」
俺は無慈悲な結果に、声なき声を漏らす。
そんな思わず目を瞑りたくなるような瞬間――
「レリアちゃんっ!」
「――――!!」
――メイビスがレリアを突き飛ばしたのだ。
間一髪のところで雷魔法を躱した二人。
「レリア! メイビス!」
俺はすぐさま二人の下に駆け寄る。
すると、そこでは顔面蒼白で唇を震わせるレリアと、激しく息を切らしながらも優しくレリアを抱きしめているメイビスの姿があった。
二人とも……無事だった。
俺は安堵から急に力が抜けて、その場にへたり込む。
俺の魔法陣が……間に合わなかった。
俺のせいで……レリアを……大切な人を……失うところだった。
【速記術】を過信していたつもりはないが、己が未熟さを思い知り、その恐怖から手は未だにガクガクと震える。
気付いたら背中は汗でぐっしょりと濡れていた。
その後、シルフォリア様を含めて偉い人が何人も来られて、実況見分や事情聴取が行われた。
この一件は想像以上の大事になり、俺達も数時間の拘束を余儀なくされた。
俺が宿泊しているホテルに戻った時には、部屋を月明りが煌々と照らす時間になっていた。
こうして俺達は、記念すべき授業の初日を散々の結果で終えたのであった。
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