unnatural

@osakanalven

第1話

特別という言葉に何も感じなくなったのはいつからだろう?


生まれながらにしてオレは特別な力を持っていた。それを力と呼んでいいかは定かではないが周囲は決して得ることがない。特別な何かがあった。


一般的に特別な存在は周囲から尊敬され、称賛を受ける。そして、そうであり続けることに感謝される。動物はそうなるために日々努力をし、いつかは一目を置かれるのだと信じ続ける。


しかし、その特別が圧倒的だった場合、その力を誇り続けるだろうか?

それはおそらく不可能だ。


例えば、人類が行う陸上競技の100メートル走の最高タイムは9秒後半と言われている。もし、自分がこれを2秒で走り切れる力をもってたとしてこの競技に参加するだろうか?


十中八九そんな愚か者はいないだろう。


100メートル走を2秒で走れる人間を見た周りが何を思うかなんてことは火を見るよりも明らかだ。


常軌を逸しているなんて沙汰じゃない、称賛を通り越して恐怖、それは人間ではない、そう思うに決まっている。


周囲と極端に違う存在は輪の中から排除され孤独に生きる道を強制的に歩まされる。そして、それは特別ではなく異質な存在とされてしまうのだ。


オレもその異質な存在に分類された1匹だ。1匹と称していいのかは不明だが1人と言うよりかは適切だろう。いや、もしかしたらどちらでも正しいのかもしれない。正しくて間違っているのだ。


オレは雄のライオンとして此の世に誕生した。母親からレオと名付けられ、総勢10匹の群れで暮らしてきた。雄のライオンは通常2〜3歳で群れ追い出されるがオレは生まれてすぐに追い出された。理由は単純、オレが人間になれてしまったからだ。


人間になれるといっても自力でなって自力で元に戻れる訳ではない。そうであればオレは一度もならずに生涯を終えただろう。群れからだって大人になるまでに追い出されずにすんだ。でも、それがならなかったのは逆らえない条件が存在していたからだ。


条件は至って簡単だ。ライオンから人間になるための条件は水面に映る自分の姿を見てしまうこと。回避のしようがありそうなものなのだが意外と難しいことだ。ライオンは人間と違って手ですくい水を飲むことはできない。必然的に顔を水面に近づけて自分を凝視しなければならない。これが、草食動物であったなら目が側面に付いているからこんな悩みはなかっただろう。


それなら目を閉じて水を飲めばいいって?そう簡単にもいかないのだ。なぜなら、ライオンの飲み水である川には大抵ワニが生息しているからだ。何度もそれで死にかけた。あいつらの戦闘力は動物でもトップクラスだ。そのうえ、水の中から狙うという卑怯な手を使う。少しの水面の揺れでも警戒しなければいけないのに目を閉じるなんて言語道断だ。


そして、人間からライオンに戻る方法だが、これはもっと簡単だ。さらに言うと回避のしようがない。次の日を迎えればいいだけなのだ。人間でい続けたいと思ったことが一度もないため、この条件には文句はない。


むしろ、戻してくれる優しさがあることに感謝している。

まあ、こんな感じに説明がだいぶ長くなってしまったが、オレはライオンとしても人間としても異質な存在なのだ。そして、この物語はそんなオレが2つの立場通して見えた世界がどんなものなのか考える話だ。

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