ツーアウト・ランナー一塁

「四番、サード、左様奈良さようなら


 左様奈良さようならが、左バッターボックスに入ります。今シーズン、正武との対戦ではまだヒットがありませんが、今日は猛打賞を記録。最近5試合では打率四割を超えて絶好調です。


『バッテリーは慎重に攻めていきたいですね。決め球の双三極疾風竜巻ダブル・トリプル・ハリケーンを投げるのが、体力的に厳しいですからね』


 正武、ワインドアップで投げます、一球目!


「ボール!」


 あっと外に大きくそれました!


『すっぽ抜けましたね』


 肩でおおきく息をしています正武。疲労が隠せません。


 ここでベンチをちらっと見まして、そして……? キャッチャーにサインを送っているのか。ふたたびワインドアップでキャッチャーは真ん中に構えます。


究極光速突破アルティメット・タキオン・バスター!!」


 あーっと、これはどうしたことか! 投げたボールの周囲が、空間が、ねじ曲がっております! ボールはどこだ! 消えてしまったのか! 空間の歪みだけが一直線キャッチャーミットに向かっていくぅ!


「ストライク!」


「オオオオオ!!」

「すげー!」

「なんだ今のは!?」


 ボールが……ボールがキャッチャーミットにおさまっています! ストライクの判定です!


『これは!? いや、しかし、そんなことが……』


 阿野和座あのわざさん、今のボールをご存じですか!?


『一般的には”物体は光の速さを超えられない”という法則がありますよね。対してですね、光より速い粒子、”タキオン”というものが仮説であるんですね』


 光より速いものが存在するんですか?


『あくまで仮想、仮定の存在だったんです。歴史上タキオンが観測されたことはないんですね。今まではね!』


 スピードガンは計測不能と表示されています。まさに魔球! 双三極疾風竜巻ダブル・トリプル・ハリケーンを超える魔球です!


『こんなところでタキオンを見られるとは驚きしかありませんね! 大発見ですね!』


 人類とタキオンのファーストコンタクトが、一人のピッチャーによってもたらされました! 未知の領域に、バッター左様奈良さようならが立ち向かいます!


究極光速突破アルティメット・タキオン・バスター!!」

「ストライク!」


 またも真ん中に決まりました! しかも制球に乱れがありません!


『ちょっと正武の息づかいが変わってきていますね』


 たしかに、先ほどは肩で息をしていましたが……今はとても落ち着いているように見えます。これはいったい?


『あくまで私の予想なんですけれども、タキオンを使うことによって、因果律が乱れているのかもしれませんね』


 といいますと?


『ボールを投げる、つまり運動をすると人間は疲労がたまります。しかし究極光速突破アルティメット・タキオン・バスターは因果律を狂わせるのでしょう。つまり……投げれば投げるほどスタミナが回復する!』


 なるほど、バッターにとっては悪夢のようなボールですね!


「あと一球! あと一球!」


 人類には速すぎる魔球、究極光速突破アルティメット・タキオン・バスター! 次も続けていくのでしょうか! ワンボールツーストライク、どうする左様奈良さようなら


「あと一球! あと一球!」

「ホームラン、ホームラン、左様奈良さようなら!」



「……点火イグニッション!」


 おっと左様奈良さようならの体がわずかに、燃えるように光っております!


『投げてこい、打ってやると言っているように思いますね!』


「さあ来い!」

「打てるものなら打ってみろ! 究極光速突破アルティメット・タキオン・バスター!!」


 投げました、究極光速突破アルティメット・タキオン・バスター! 左様奈良さようならバットを振って……すさまじい光を放ちます! しかしどうだ! その光は、光速を超えるタキオンに届くのか!


無限光アイン・ソフ・オウル!」


 あーっと、光と歪みがぶつかり合った! お互いが接触点に向かって吸い込まれていく! しかし何かが飛び散るといった様子はありません、ただただ収縮していくように見えます! 


『魂と魂がぶつかり合う、真っ向勝負ですね!』


「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」


 じょじょにボールの形が見えてきて……おっと、黒い球体が現れました! そして輪郭から光があふれ出ています! まるで皆既日食のコロナのようです!


終結エンド・オブ・ゲーム!!」

「な、なにぃ!?」


 おーっと左様奈良さようならバットを振りぬいた! 球体が高ーく上がった!  天の川が輝く空へと突き抜けます!

 外野手、見上げた! 追いかけません! これはいった、いったあ!!


「ホームラン!」


「ワアアアアアアアアア!!」

左様奈良さようならーー!!」

「すげーぞ左様奈良さようならーー!!」

「よくやったーーーー!!」


 なんとなんと! 左様奈良さようならの逆転サヨナラツーランホームラン! 四番の一振りが、光速の向こう側、タキオンの世界を打ち砕きました!


『タキオンはエネルギーが大きいほど光速に近づくと言われています。左様奈良さようならは無限のエネルギーをバットからボールに注ぎました。無限をもって引きずり込みましたね、光速の世界に!』


「ゲームセット!」


 七月七日のバッカーズ対フロンツは、バッカーズの勝利! 劇的な幕切れとなりました。しかし、しかし、これは三連戦の一試合目であります。明日、またどんなドラマが生まれるのか、今から楽しみであります!


『まったくその通りですね!』


 本日の実況はわたくし穴雲あなぐもが、解説は阿野和座あのわざさんでお送りしました!





 七月八日、バッカーズ対フロンツの試合は一回の裏、バッカーズ満塁のチャンスを迎えています。バッターは昨日サヨナラホームランを打ちました、左様奈良さようならです。


穴雲あなぐもさん、こちらベンチリポートです』


 はいどうぞ。


『そのサヨナラホームランなんですが、今朝、ホームランボールを拾った若いご夫婦が球場をおとずれました』


 あれを拾った方がいたんですか!


左様奈良さようなら選手も驚いていましたが、こころよくボールにサインをしたと。ご夫婦は”応援しています”と、たいへん喜んでいる様子でした。以上です』


 そのご夫婦も、どこかでこの試合を見ていらっしゃるでしょうか。さあ左様奈良さようならが今日、最初のバッターボックスに入ります!


「ホームラン、ホームラン左様奈良さようなら!」


 初球からもっていった! 大きいぞ! 大きいぞ! 大きいぞー!


「ワアアアアァァァ!」




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超プロ野球ナイター ~アルティメットスーパープロフェッショナルベースボール~ フロンツ対バッカーズ(ナイトゲーム)九回裏1-2 佐倉じゅうがつ @JugatsuSakura

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