第18話 来ないで

 来ないで!


 私はベッドから体を起こし、力一杯叫んだ。


「ど、どうしたのよ急に大きな声を出して。もうご飯の時間なのに降りてこないから。具合でも悪いの?」


 入るわよ、の声。私は再び叫んだ。開けないで、と。


「体調が悪いの。もしかしたらお姉ちゃんにうつしちゃうかもしれない。

 だから来ないで」


「え、そうなの? でも熱があるなら、お粥くらい作ってきてあげるわよ。部屋にはマスクして入るし」


「だめ。だめだよ。お姉ちゃんには絶対うつしたくない」


「——どうしたのよ、本当に」


「お姉ちゃんが死んじゃうかもしれないもん」


 私の言葉は、お姉ちゃんの耳にどう聞こえただろう。


 お姉ちゃんは自分が死ぬ未来を知らない。知っているのは私だけ。


 不愉快に聞こえたかもしれない。でも、怒ってここを立ち去ってくれるなら、それでもいい。


 お姉ちゃんが助かるならそれでもいい。そう思った。


 外から聞こえる足音が遠ざかってゆく。


 よかった。そう思っていたら、数分もせずに、再び足音が私の部屋の前まで戻ってきた。


 そしてお姉ちゃんは。


「入るわね」


 そう言って、部屋のノブを回した。

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