第16話 ワクチンを前倒しさせる未来

 旅行から戻ってきて、なんだかやれることはやり尽くした感じになった。


 未来が、私の知っている通りに進んでゆくのなら。お姉ちゃんが感染する2021年6月まで、ひとまずやることはない。


 後は自分の経験してきた10か月間をただ待つだけ。


 今までは必死すぎて気付かなかったが、これがなかなか暇だった。


 そうなると欲が出てきた。もっと大きなことができないだろうか。


 つまり、感染拡大そのものを抑え込めないかということだ。


 お姉ちゃんが助かって欲しいのはもちろん。それが最優先だ。


 しかしお姉ちゃんが助かった上で、もっと大勢が助かる道があるのなら、もちろんその方がいい。


 テレビで流れた「国内の死者1000人超え(クルーズ船を除く)」のニュース。


 1000は数字じゃない。人の数だ。それぞれに家族や、大切な人がいる。


 私は再び考え始めた。大規模な感染阻止の方法を。


 アメリカではワクチンの開発が莫大な予算をかけ、急ピッチで行われている。


 確か欧米での承認が12月の初旬。今が8月だから、そう先の話じゃない。


 もしも、日本で行われるワクチン接種が前倒しになったら、第三波は防げるのだろうか。


 そうなればお姉ちゃんよりも前に亡くなる人の数は減らせる。


 6月までにお姉ちゃんまでワクチンが行き渡れば、お姉ちゃんの生存確率も上がるだろう。

 

 国内のワクチン普及を前倒しにさせる手。


 そんな手はあるのだろうか?


 ——っ。


 ——あれ?


 考えていたら、目の前が霞んだ。


 頭がフラフラする。


 異変を感じて、体温計を脇に挟んだ。


 39度の体温を記録していた。

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