第15話 とある県

 この一ヶ月。私は旅行雑誌を読み漁っていた。


 ある作戦が浮かんでいたからだ。


 ひとまず、大きなターニングポイントになるのは2021年の6月。お姉ちゃんはこのタイミングで感染するとする。


 感染ルートは不明。けど少なくとも言えるのは、お姉ちゃんは普通に生活していたのに、感染してしまったという事実。


 ということは、普通に生活するよりも感染する確率を下げればいい。


 例えば、感染者の少ない場所への移動。


 2021年6月は、3度目の緊急事態宣言がいくつかの県で延長された。


 私やお姉ちゃんの住む県もそのうちの一つ。


 ということは、そもそも感染のリスクは高かったと言える。


 なら、もしあの時、別の県にいれば感染しなかった。そういうことになるんじゃないだろうか。


 私はお姉ちゃんが感染したことでニュースを見ていたから、おおよそ覚えている。


 あの時、感染者が多かった場所と、そうでなかった場所を。


 

 

 私は「とある県」への旅行を猛烈にプッシュした。


 私の知る2021年6月、その県は感染者がゼロを記録していた県。もちろん、東京などの大都市圏からも離れた県だ。


 一ヶ月間、その準備に集中していたのもあり、私のプレゼンで家族のみんなが興味を持った。


 そして、旅行先に選ばれることに成功し、みんなで楽しい思い出を作ることができた。


 また来たいね。お父さんがそう言った。みんなが頷いた。……私の期待通りに。


 これで、来年。お姉ちゃんが死ぬタイミングで、もう一度この県にくることを提案する下準備ができた。


 また来ようね。お姉ちゃん。2021年の6月に。


 そしたらこの先もずっと、一緒にいろんなとこ行けるから。


 心の中で、そう呟いた。

 

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