第14話 みんなが幸せな道なんて

 5月になり、振り返れば1度目だった緊急事態宣言が解除。


 私は再び登校することになった。


 久しぶりの友達との会話。小学5年生の中でも、否応なしに感染症の話題が出てくる。


 10万円もらったら何が欲しい? って聞かれた。


 思いつかないなぁって答えた。


 お姉ちゃんの命より欲しいものなんてない。今はね。




 それから、世の中の流れというか空気は少し変化した。


 大きかったのは、政府が表明した飲食店と旅行会社の支援キャンペーン。


 利用者に補助金を出す制度は、そのあまりのお得さに、人の動きを活発化させた。


 私はこの後に感染症拡大の第二波を迎えることを知っている。


 その上でなら、この政策は「やめてほしい」って言えるだろう。


 でも、支援がなくて苦しむ人たちはいるはずだ。


 感染症じゃなくて、経済的な理由で命を落とす人だっているかもしれない。


 もしお姉ちゃんが例えば宿泊業のオーナーだったとして。経済的に苦しんだ末に命を落とす結果になるとしたら……。

 

 それならしょうがないよね、とはならないだろう。


 みんなが幸せな道なんてないのかもしれない。そんな風に思った。


「感染症も落ち着いてきたしさ。キャンペーンもやってるし、久しぶりに旅行でも行ってみる?」


 言い出したのはお母さんだった。


 これは私の知る未来でもそうだった。私たち家族で反対する人はいなくて、それでもテーマパークとかは避けようってことで、キャンプに行ったのだ。


 あの時の私は賛成した。今度は反対すれば、運命は変わる?


 いや、変わるというのは、いい方にも悪い方にもありえる。


 でも。


 お姉ちゃんが最終的に死んでしまう未来より、悪い未来なんてない。


 可能性があるなら賭けるべきだ。


「あのさ」


 私は家族のみんなに、ある提案を持ちかけた。

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