第5話 ニュース
1月の14日を過ぎて。外国でどうも変なウイルスが広まっているらしいと噂がたった。
「怖いね。日本は大丈夫かな」
お姉ちゃんの言葉に、大丈夫じゃないよ、と思ったが口には出せなかった。
でも「手洗いうがいはしっかりやろうよ」って言った。
お姉ちゃんは「そうねえ。インフルエンザもあるしね」と笑って、一緒に洗面所に行った。
私にはこんなことしかできないのか。
全てを知っていても、その程度を積み重ねていくしかないのか?
「あんたたちー。ハンカチとか、古くなったやつ捨てるわよ」
棚を整理していたお母さんに、私は「待って」と声をかけた。
ゴムがヨレヨレになったマスクが“捨てるものリスト”に含まれていた。
私はそれらを全て拾い上げた。
「そんなものどうするのよ。新しいのなら買ってあげるわよ」
お母さんの言葉に、私は首を横に振って、古びたマスクを自分の部屋に運んだ。
これから、確かマスクが貴重品になる。
最初の感染拡大が過ぎてからは品薄が解消されるし、最初の感染拡大ではお姉ちゃんは感染しなかったから、マスクの確保によってお姉ちゃんの死が避けられるわけではないかもしれない。
でも、できることはなんでもしたかった。
1年半後。2021年の6月でさえ、人類はウイルスを攻略できていなかった。
できることをしていくしかないんだ。
今の私にできることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます