第6話 不正解だとわかっているのに

 2月に入る。私は具体的なことが何もできないまま、運命の日がやってきた。


 クルーズ船の入港。パンデミックの序章だ。


 政府の対応がニュースで流される。


 外国からの入国制限はいまだに設けていない。


 未来の目で見れば、結果として失敗だったことの数々。


 未来の世の中は批判が目立ったけど、あくまで結果を見てからの話。


 当時はわかっている範囲で、最善を尽くしていたつもりのはずだ。


 後出しジャンケンであれこれ言う人たちの存在が目についた。


 でも、わかっていながら何もできない自分が、一番の害悪じゃないかと思えた。

 

 このままお姉ちゃんが死ねば、私は見殺しにしたも同然。私の責任だ。


 どうすれば2021年の6月にお姉ちゃんが死ぬのを回避できる?


 お姉ちゃんの感染ルートは不明だった。その時を迎えてからじゃ遅い。


 そもそも運命が同じ道を辿るとも限らない。お姉ちゃんが感染するのは今年かもしれない。


 わからないなら今から手を打たないと。


 まずはマスクをたくさん買って、消毒液を買って……。


 そんなことを考えながらハッとした。

 

 思い出したのだ。


 2020年に起きたマスクや消毒液の買い溜め。転売が相次いだこと。


 未来のお姉ちゃんは「ああいう、自分のことしか考えない人にはなりたくないわねえ」と言っていた。


 世界中でたくさんの人が亡くなるのに。

 

 未来を逆手にとって自分たちだけ助かろうとする。


 それは、きっと違う。


 違うと思った。

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