ブラッド・フォックス
キリュー
Prologue 0
何処かのスラム街。その裏路地にてゴミを漁る少年が居た。今日の収穫は誰かが捨てた生ゴミと殺した通行人から奪ったほんの少しの金。その少年は記憶が無かった。気がついた時にはこの街にいた。頼れる大人も居ない。みんな敵。生きる為には誰かを殺してそこから何かを奪うしか無かった。
捨てたてなのかまだ腐っていない果物の芯に残った果肉を削り取りながら食事に勤しんでいた時だった。ふと、後ろに誰かの気配を感じた。振り返るとそこに居たのは若干金髪気味な頭の中年男性がこちらを見ていた。「おじさん、誰?」
特に考えが有って問い掛けた訳ではない。目の前の男から殺意が無いのは明白。ならさっさと殺して奪わなければと思う。現に少年の近くにはさっき殺したであろう通行人の死体が転がっていた。奪う奪わないに関係なく、早く殺さないと騒ぎを起こされる可能性があるからだ。だが、何故か殺そうと思えない。体が動かない。少年の知らない所で本能が感じ取っていた。この男にはどうやっても勝てないと。
そんな時、中年男が声をかけてきた。
「少年、俺と来ないか?」
男の問い掛けに少年が出した答えは―。
◇
とあるビルの地下駐車場。そこには二人の男が対峙していた。正確にはそのうちの片方の後ろにはアタッシュケースを大事そうに抱えながら腰を抜かした小太りの男が目の前の襲撃者に怯えていた。
「ひぃ…!頼む!
ガタガタと震えながら、護衛に雇った熱血そうな男、天宮にすがる。
「安心してください!貴方のことは俺が必ず守ります!!」
宛ら少年漫画の主人公の様な男を前に襲撃者は、ただ静かに近づいて行った。
「お前が噂の殺し屋か…」
「だったらなんだ…」
天宮の問いにぶっきらぼうに答える襲撃者。目の前に迫り来る男を見た瞬間、とてつもないプレッシャーが天宮を襲う。
時間にして約30秒。短い様で長い静寂は突如として破られ、始まる激しい戦い。襲撃者が繰り出すナイフや銃撃を掠めながら拳を放つ天宮。
「(こいつ…!動きが速い!)」
しかし、彼の攻撃は全て躱わされてしまう。
徐々に傷だらけになる天宮。刹那、銃弾が彼の肩を撃ち抜いた。
「…ぐ、ぐうぁぁぁぁぁぁっ!!」
激痛と疲労で遂に膝をついてしまう。襲撃者は苦しむ天宮を無視してターゲットの男に詰め寄る。小太りの男は酷く怯えて泣きながら必死に命乞いをする。
「お願いだぁ…。見逃しておくれぇ…!金が欲しいなら私が後で幾らでもやる!だから殺さな―」
そこから先の言葉を言う事は出来なかった。なぜなら既に男は襲撃者に額を銃で撃ち抜かれていたからだ。
「そんな…。守れなかった…」
護衛対象を死なせてしまった悲しみと弱い自分への後悔と怒りで天宮の頭は埋めつくし、襲撃者にせめて一矢報いる為に半ばヤケクソの状態で飛びかかる。
「うわぁぁぁぁぁ!!狐ぇぇぇ!!」
狐と呼ばれた襲撃者はさしも驚く様子はなく冷静に天宮の首筋をすれ違い様にナイフで斬りつけた。
「弱いなお前。威勢は良いがそれだけだ。まぁ当たり前か、守るだけでは俺には勝てんよ」
「ふ、ふざけるな!人はなぁ…!守るべきものがあるほど強いんだ!俺は!もっと強くなって、皆を守るんだ!!」
大量の血を流し、死に体の状態である天宮。だが、その目はまだ諦めていなかった。ここから彼の逆転劇が―
「悪いが、その理屈が通用するのは物語の中だけだ」
「…え」
始まらなかった。
◇
「ターゲット抹殺完了…」
駐車場でひとりボソッと呟く男、狐。黒いスーツ。下にはカッターシャツとネクタイを締めた出で立ち。それらだけなら、端から見れば只の新人サラリーマンに見えなくもない。しかし、明らかに目を引く物があった。それは顔上半分を隠した狐の仮面。これこそが"狐"と呼ばれる由縁であった。
「それにしてもあの護衛の男、まるで漫画の主人公みたいな奴だったな」
先ほどの戦いで殺した護衛の男、天宮。
ターゲットと同じく額を撃ち抜かれた状態で事切れていた。その顔は絶望しきった表情で固まっていた。本来ならここから形勢逆転して勝利を掴みとるはずだったのにと。
「だがこの世界は現実。漫画やラノベじゃないんだ。そんなご都合展開など滅多に起こらないんだよ」
そんなことを呟きながら、彼はその場を後にした。
「明日は月曜日、学校か。……面倒だな」
そう、彼は高校生なのである。
彼の名は
ごく普通の男子高校生で、狐の二つ名を持つ最強の暗殺者だ。
ブラッド・フォックス キリュー @1999324
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ブラッド・フォックスの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます