Ⅲ-Ⅺ
出口を抜けたアルラーシュは、元々の目的地であったはずの目の前を流れる大河には目もくれず、後ろを
祝祭の時とは全く種類の違う喧噪と熱気に乗って、元は布か紙だったのだろうと思われる黒く薄い何かがアルラーシュの眼前にひらひらと落ちた。
「王都が……」
アルラーシュは無意識のうちに走り出した。
城壁の外側に、人間一人と半分程度の幅をもつ階段があるのを見つけ、駆け上がる。ヨシノが何事か叫びながら追いかけてきた。
階段を上りきると、熱風が直接吹きつけてきた。場所は、アルラーシュは今まで自身で足を運んだことはなかったが、王都の東端にある下町の一角であった。
ミリィが両手を自分の頬に当てて甲高い悲鳴を上げた。
「ああっ……お城が! 王子様! お城が……!」
炎上する街の向こう、夜空の中にもうっすらと白く輝く白亜の王城。
その中心から、
その光が消えるのと、城の中心から巨大な火柱が上がるのは同時だった。
街のあちこちから悲鳴と嘆声が上がる。
「母上、父上……」
アルラーシュは目を見開き、
「いけません!」
ヨシノが彼に追い
「戻ってはいけません!」
「ヨシノ! 離してくれ! 母上と父上が……」
「わかっております! しかし今は、
ヨシノはアルラーシュを抱き込むようにして炎から遠ざけた。その彼女の腕がかつてない力強さでもってアルラーシュを締め付け、アルラーシュもまた彼女の腕を強く握りしめながら、彼女の腕に鼻を
ヨシノの腕の中でアルラーシュの唇が動く。お母様お父様、と
轟音とともに近くに建つ家屋から爆発するように炎が吹きあがり、元が何だったのかすらわからない大小の破片が火をまとって降り注ぐ。
リュカは火の粉を払いながらルドルフに向かって言った。
「これヤバいですね。ルドルフ様、早いところモノちゃんを見つけないと時間切れになっちゃいますよ」
「わかっている」
ルドルフは王都の中心、燃え上がる城の方角を見た。
魔法に
ならば、モノが目指す場所もおそらく。
――モノの足はたいして速くはない。王城に着くまでに追いつける。
「アル!」
ルドルフはヨシノに抱き留められているアルラーシュを振り返った。ミリィも彼らのそばに立っていた。
「お前達はここにいろ。俺だけで見てくる。そんなに離れていないはずだ。すぐに戻る」
必要なことだけを伝え、走り出したが、すぐに自分を追ってくる人物に気が付いた。
「リュカ。何をしている。アルのそばにいろ」
「そうしたいのは
飛ぶように駆けながら銀髪を
「王子が貴方を一人で行かせるのは心配そうだったんで」
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