第2章 王都ファキーリア

記憶


 海が燃える。

 夕陽を映しているわけでもないのに。


 海面に浮かぶ油を炎が伝って、

 小さな島を覆う炎の壁になる。


 冷たく優しい青も、

 熱く柔らかい白も、

 今は熔ける直前の金属の色。


 蒸発する海水の匂いと油の匂いが混ざって胸が悪くなる。


 赤い火、青い火、黄金色の火。

 息をすればそれだけで、気管も肺も灼けつきそうだった。


 黒い柱が何本も焔色の海から生えて。

 気が遠くなるような熱と陽炎。

 世界は、油の中に沈んでいる。



――誰か! 誰かいないか!


 誰か呼んでいる。


 親父か、それとも兄貴。

 そんなはずはない。

 二人とも、もう。


――子供がいる。まだ生きてるぞ。


 誰かが体を持ち上げた。

 痛い。でも熱い地面が遠ざかって、少しだけ呼吸が楽になる。


――ここは危険だ。逃げるぞ。


 待って。待ってくれ。

 俺の家族。俺の島。


――こら、おとなしくしてろ。助けてやるから。


 違うんだ。

 俺だけじゃないんだ。この島には。


――精霊暴走か。とんでもないな。


――これが暴走……。これが精霊の力? 本当にこんなものが我々の切り札だと言うのか……?

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