第40話 おっぱい皇子の決意、そして…

 「【決闘の掟】…だと!?」


 「兄上もご存知でしょう。王族同士でのもめ事は、ステゴロで解決するのがドナート家の掟!」


 ーもっとも強き者が王となる資格を持つ。


 冒険者としてザールラント中を駆け巡っていた一族の末裔らしい、シンプルな掟である。


 王位が受け継がれる中で形骸化しつつあるものの、廃止されたことはない。


 「こ、この高貴なる我がお前のような無能と戦うわけが…!」


 「率いてきた軍勢はもはや壊滅状態!決闘に応じないのであれば、オレを討伐できる機会はなくなります。ケムニッツに帰れば国中の笑い物になるでしょうな」


 「…」


 バカ兄貴は言葉に詰まる。


 それも当然か。


 周りには怯えた貴族と戦意を失った傭兵しかいない。


 この状況を逆転させるには、決闘に応じるほかないのだ。


 「く…くくくくくくく!」


 「アルバンさま!?何をなさるー」


 「黙っていろツェーザル!我がマジカル魔法でやつを懲らしめくれるわ!!」


 というわけで、バカ兄貴は船から飛び降りた。


 「ぐぉぉぉ…まだ、2人にやられた傷がうずく…我のマジカルボディに万が一があればどうするつもりだ…」


 怪我をしてるらしいが、なんとか浅瀬に飛び降り、こちらへとずんずん進んでいく。


 「…仕方ねえか」


 オレはぱちんと指を鳴らした後、砂の坂から飛び降り、バカ兄貴の元へと向かっていった。


 「ぐふふふふ。スキルも使えん無能だが、度胸だけはあるようだ。【雷槍】!」


 バカ兄貴が光属性のスキルを発動。


 陽の光に反射して輝く3本の槍が現れ、オレに向けてぴたりと突きつけられた。


 一応本気らしい。 


 「待て兄上、いや、バカ兄貴!」


 だからこそ、最後に言いたいことは言っておきたい。


 「命乞いかぁ!もう遅い!こんどは我がお前の急所をー」

 

 「あんたは利用されてるんだ」


 「なにぃ!」


 「不思議に思わなかったのか。エルデネトとそろそろ一戦交えようって時に親父が死んで、貴族たちはみんなあんたを王に推戴した。エルデネトもいきなり態度を軟化させ、義姉上を差し出せば仲良くしてもいいなんで言い出す」


 「それの何がおかしい!」


 「最初から仕組まれてたのさ。海が苦手なエルデネト帝国が、ザールラントを簡単に手に入れるための謀略だよ。だからー」


 「うるさぁああああい!たとえそうだとしても、お前のような無能など必要ない!お前を倒し、周りのおっぱいたちを我が全て奪い取ってくれる!」


 「…そうか。おっぱいを奪おうってんなら、オレも容赦はしない!」


 「抜かせえええええええ!」


 アルバンが【雷槍】をこちらに向けて放った。


 光魔法は常時光を放つため目立って仕方ないが、その分速度は速い。


 威力もまあまあだ。


 【ポセイドン浜】は一瞬神々しい光に包まれ、その後広範囲に渡って爆発を起こす。


 オレも何らかの行動を起こさなければ怪我の1つもしただろう。






 もろん、そこにオレがいればの話だが。


 「がははははは!ついにやったぞ!」


 「筋は悪くない。が、やっぱり訓練不足だ」


 「…え?」


 「少しオレの【蜃気楼】が見せた幻からずれてる。爆発だけじゃ大したダメージは与えられないな」


 オレは隣で腹をばるんばるん揺らして笑うアルバンに声をかけた。


 「ユ、ユルゲンンンンンンンン!?!?!?」


 あまりに驚きすぎて、こんな時じゃなけりゃ水でもぶっかけてやりたいぐらいだ。


 「い、いつの間にここに…」


 「ぱちんと指を鳴らしたあたりからだな。【風脚】で一瞬で距離をつめて仕留めてもいいが、大気の状態を変えて自分の幻を作る方がいい訓練になる。なかなかいい出来だったろ?」


 「た、大気を操るだと…まさか、お前が?」


 「ああ。そのまさかだ」


 拳に力を込め、風のオーラを蓄える。 

  

 バカ兄貴は思わず後退りした。


 「オレは、【神風】のスキルを使える。なんでかは分からないけどな」


 「ひ、ひいいいい!?」


 「強力なスキルらしいが、別に王になりたいと思ったことはないし、なんならリューゲン島で一生暮らしてもいい。だがな、そんなオレにも許せないことが1つだけあるんだぜ…聞きたいか?」


 「…い、偉大なる我に馬鹿にされるとか?」


 「違うな」

 

 選択したスキルは、【追風】。






 「リューゲン島に住まう全てのおっぱいたちを…脅かすことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 「ほげえええええええええええっ!」


 どてっ腹に拳を受けて、バカ兄貴のブヨブヨボディは宙を舞った。


 リューゲン島の雲ひとつない晴天に向かって飛んでいき、先ほど自分が開けた【ポセイドン浜】の穴に向かって落ちる。


 「…!」


 頭から砂にズボッと埋まり、バカ兄貴ことアルバン・ドナートはピクリとも動かなくなった。


 

 **** 



 これで、リューゲン島を攻めようとする人間は1つもいなくなった。


 予定とは少し違ったがバカ兄貴もとっちめた。


 あいつも少しこれで頭を冷やしただろう。


 義姉上には申し訳ないが、ケムニッツに戻ってもらってザールラントの体制をー、




 「…ホホホホホ、これでようやく自由に動けそうですな」


 気味の悪い笑い声をあげるものがいる。





 アルバンの腹心にして宰相、ツェーザルだった。

 

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