第39話 おっぱい皇子は兄に挑みます
夏も終わりそろそろ秋が訪れようとする頃、港湾都市トリーアの港に、ザールラント王国軍の船が続々と現れた。
ザールラント王国8代目国王、アルバン・ドナートが率いる、リューゲン島討伐隊である。
急遽駆り出された傭兵による操船はかなり不安定なものの、先代国王アダルブレヒト・ドナートが建造していた大型船を多数取り揃えていた。
トリーアで最後の補給を終えた後、リューゲン島を勝手に占拠し、王国の意思に逆らう不届きものの弟ユルゲン・ドナートを捕らえるため出発する予定である。
だが、王国軍の船はトリーアに入港できなかった。
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「な、なに〜〜〜〜〜!!!我がマジカル艦隊が、アデリナ商会から、街どころか港の出入りも拒否されただと〜〜〜〜!!!」
「は、ははっ…!戻ってきた使者によると、狐耳をした女から『ユルゲン皇子の御心がわからない愚か者は一歩たりとも入れないのじゃ!』と言われるだけでなく、身ぐるみを剥がされてスッポンポンになったとのことです!」
「許せぬ許せぬ許せぬ!かくなるうえは…うっぷ」
「アルバン王?どうしましたか…おえええ」
王族の姓を記した旗艦【ドナート】の船上でアルバンは叫んだ。
お相手はいつも通り、ネズミ顔をした宰相ツェーザルである。
おまけで、その他取り巻きの貴族たちも参陣していた。
だが、何やら様子がおかしい。
「なんたること!早く討伐を…げえええ」
「傭兵たちを上陸させるのじゃ!そうすれば…オロロロロロロロ…」
要するに船酔いである。
普段宮殿でどんちゃん騒ぎするだけの貴族が不慣れな海上に出れば、数日でこうなるのは自明の理と言えた。
むろん、貴族だけではない。
「なぁ、やっぱこの仕事やめよう…ヴォエエエエエ!」
「だ、誰か水を…ゲロロロロ…」
海上戦に不慣れな傭兵たちも強烈な吐き気とめまいに苛まれ、戦いどころではなかった。
「や、やむを得ん…トリーアから離れ、直接バカ弟を討ちにいくぞ…」
そもそも、豊かな商業都市トリーアの税収が途絶えればザールラント王国の財政に悪影響が出るため、いくらアルバンといえども手を出すのは難しい。
結局、数時間の後、艦隊はなんの補給も受けられるずにトリーアを去っていくのだった。
「姉さん、軍船が引いていきますぜ!」
「にしししし!ユルゲンの言う通りじゃったのう。これで、多少はリューゲン島も楽になれるはずじゃ!」
「しかし、うまくやれるでしょうか?」
「大丈夫じゃ、ユルゲンなら、きっとうまくやる」
その様子を高台から眺めていた面々は、ほっと胸を撫で下ろすのであった。
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「や、やっと着いたぞ…!あれがリューゲン島だ!」
数日後。
悪戦苦闘しながらも、アルバン率いる討伐隊はなんとかリューゲン島に到着した。
「ぶひひひひひひぃ!いよいよだ!いよいよあのバカ弟と我を裏切った姉上にざまぁできるぞい!ツェーザル!」
「はっ!早速兵を上陸させましょうぞ!ザールラント王国の威厳を見せつけてやるのです!」
その頃には船酔いもやや収まり、アルバンは機嫌を取り戻している。
散々嫌がらせしたのに、それをものともせず王宮を出て行って好き勝手している愚かな弟・アルバン。
いよいよ兄として鉄槌を下す日が来たと胸躍らせていた。
だが、いくら待てども、先に【ポセイドン浜】に上陸した兵たちからの報告がない。
「ええい!どうなってるのじゃ!旗艦を前に進めよ!」
「アルバン王よ!それでは危険が…」
「早くしろぉ!今の我はマジカル機嫌が悪いのじゃ!」
無理やり旗艦を進ませたアルバンだったが、【ポセイドン浜】に広がる光景を見て愕然とする。
「す、砂に埋まる!助けてくれぇ!」
砂浜のアリ地獄に吸い込まれる者。
「なんだ!?これ以上進めねぇ!」
奥に進むほど傾斜が強くなる坂に阻まれる者。
「ぎゃぁああああああ!鳥が、鳥が襲ってくるうううううう!」
突如飛来した数十匹の鳥に追い立てられる者。
「おい水だぞ!お前も飲め…」
水の入った樽に口をつけた瞬間倒れ込む者。
【ポセイドン浜】に仕掛けられた様々な罠にハマり、ほとんど身動きが取れなくなっていた。
アルバンの率いる軍勢は、戦いが始まる前の段階から、戦意喪失状態に陥ったのである。
「ど、どうしてこんなことが…」
「やあやあ、誰かと思えば兄上ではありませんか!」
「お、お前は!」
アルバンは、いつ間にか【ポセイドン浜】の中央にいた赤ら顔の男を確認する。
腹違いの弟、ユルゲン・ドナートに間違いなかった。
ニコニコと笑っている。
「大事なザールラント王国軍の船を使ってリューゲン島で観光とは、さすが兄上です!感服しましたぞ」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ…!」
「さあ、そろそろ因縁は終わりにしましょう」
そして、拳同士をぶつけ合い、アルバンを挑発した。
「アダルブレヒト・ドナートの子ユルゲン・ドナート!【決闘の掟】に従い、アルバン・ドナートに決闘を申し込む!」
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