第36話 ざまぁSide:バカ皇子、お嫁に行けなくなる

「国王であるこのアルバンが命ずる!リンダよ。エルデネト帝国に赴き、皇帝の妾となるのだ!ザールラントのマジカル未来のために…いててててて!」


 数日前。


 【巨人宮】の玉座に尻を庇うように座り、苦悶の声を上げながらアルバンは怒鳴った。


 自らの前に跪くドレス姿の姉に向けてである。


 「うひひひひひひひっ!さすがアルバンさま名案でございます!これでエルデネト帝国も機嫌を取り戻し、ザールラントを盟友として扱うでしょう!」


 「うむ!何かとユルゲンユルゲンうるさいおっぱいおばけも追い出せて一石二鳥…じゃなかった、姉上も国のために尽くせてマジカル本望であろう!ぐわははははは…いだだだだだ!」


 「大丈夫ですか王様!」


 「ぐぐぐ…あのぺちゃぱい小娘め…!今度あったらとっちめてやる!」


 玉座をでっぷりデブデブお尻がかすめるたびに悲鳴をあげるアルバンだが、宰相であるツェーザルにいつものように煽てられ、自分のペースを取り戻している。


 「…」


 愚か者たちがコントを繰り広げていても、リンダはじっと跪いたまま、何も言わない。


 「どうした我が姉リンダよ。せっかくの婚姻話、もっと喜んでも良いのではないか」


 「国のためになるならこの体、いくらでも捧げます。ですが、その前に一つ聞かせてください」


 「なんだ?」


 前国王の娘にしてユルゲン・ドナートの義姉、リンダ・ドナートは、その時初めて顔を上げた。


 ぼよん…


 柔和の表情と見るものを引きつける2つの【進撃の巨乳】。


 国1番の美姫であると話題のリンダであるが、眉をひそめ、厳しい表情を浮かべていた。


 「弟くんは…いえ、リューゲン島のユルゲン皇子はどうするのですか?」


 「ユルゲンだと?あいつは討伐する!!!」


 玉座の上のアルバンはいまだ気づいていない。


 「勝手に行方不明となった上にエルデネト帝国の人間を襲うなど言語道断!あいつはやはりおっぱいしか頭にない無能だ!」


 「…どうしても自分の弟を討つと?」


 「当然だ!我がマジカル鉄拳制裁があれば、あんな無能など立ち所にボコボコにしてやる!」


 「そうですか。ならば、決めさせていただきます」 

 リンダは立ち上がった。


 その勢いにアルバンは思わず気圧される。


 「な、何をだ?」


 「自分の結婚相手です」


 「だからエルデネト帝国の皇帝とー」


 「違います」


 「ええ!?じゃ、じゃあ誰と結婚するのだ!」


 「それは…」


 ツェーザルとアルバンが固唾を飲んで見守る中、リンダは高らかに宣言した。






 「わたくしリンダ・ドナートは…弟くんのユルゲン・ドナートと結婚します!」



 ****



 「な、なにいいいいいいい!?オネショタだとおおおおおおおおおおお!!!」


 「エルデネト帝国との縁談もキャンセルしておいてください!今夜中にはケムニッツを発ちます!」


 「そ、そんなぁ…オネショタなら我もいるではないか姉上ぇ…我とマジカル⭐︎オネショタするという手もー」


 「この国の現状が分からず、帝国の侵略を迎え入れ、愚かな貴族しか信じず、弟くんまで傷つけようとする人なんて知りません!」


 「ま、待ってくれぇぇぇぇぇ!ならば、せめて我の手でそのマジカルおっぱいを触ってやるぅぅぅぅ!」


 「アルバン王!それは、死亡フラグですぞーーー!」


 アルバンは玉座から尻をかばうようにして立ち上がり、ツェーザルの静止も聞かず、どしどしとリンダの下へと向かっていく。


 でっぷりとした両手で実の姉に襲い掛からんとしたその時ー、





 「聞き分けのない兄はこうなんだから!【大地讃頌】!」


 リンダが両腕をかざし、地属性スキルを発動する。


 ドナート家の男性は風属性、女性は地属性の魔法に覚醒するのが長年の伝統。


 リンダ・ドナートは王家の女性の中でも並外れた使い手で、【大地の守り人】と呼ばれるほどである。



 「んん?急に床が膨れて…ふげぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 そんな彼女なら王宮の床を一瞬で土に変え、鋭い槍状にしてアルバンの股間に突き刺すことは容易であった。




 一応、リンダは手加減はしているつもりである。


 「おごごごごごご…アルバンのマジカル⭐︎ランスが…」


 「じゃあ!傭兵さんたちはみんな土で固めてしばらくは動けないからね!労災手当はちゃんと支給しておいてね!」


 「前も後ろも…もう…我、お嫁にいけない…」


 「衛生兵ーーー!王が大変なことになっておるーーー!早くお救いしろーーー!」


 色々と大変な状態になって床に転がるアルバンとあたふたするツェーザルには目もくれず、リンダは【巨人宮】を去っていくのだった。



 ****



 「とまあ、こんなことがありました!弟くんが元気そうで何よりだよー!」


 「…結局何で空から降ってきたんだ?」


 「トリーアの街から土魔法で移動しようとしたら、うっかりドレスも土になっちゃった⭐︎」


 「…」


 何はともあれ、リューゲン島に新たな戦力が加わるのであった。

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