第34話 おっぱいたちの勝利
悲鳴と共に【蛇竜】は海中に没し、姿が見えなくなった。
水飛沫が飛び散り、雨のように降り注ぐ。
「よくやったアメリー!」
アメリーの【金弓箭】は【神弓】で使えるスキルの1つ。
どのような状況でも、すなわち海底に潜む敵に対しても狙撃を成功させる優れものだ。
オレの風魔法のような汎用性はないが、射程距離や精密性ではるかに勝っている。
【薔薇の弓兵】の名は伊達じゃない。
「やりましたね♡」
「いや、まだだ」
喜ぶアメリーをオレは静止した。
「…キシュウゥゥゥゥゥ」
海中で未だ蠢動を続ける【蛇竜】のうめき声を【風聞】で探知したからだ。
奴はまだ生きている。
そしてどんどん海底へと潜り続けている。
勝ち目がないと判断し、オレたちが手を出せない場所まで逃れるつもりだ。
アメリーが再び矢を放つも、【蛇竜】の体を貫くには至らず、勢いよく弾かれた。
いや、弾かれたというより、目に見えない壁に防がれたという方が近い。
「今度は水魔法の防壁を張っているようだな」
「…しぶといですね」
「だが、魔法を防御に使ってるせいか速度は大分下がってる。もうちょろちょろと逃げることはできない。こうなったら…」
「こうなったら?」
「合わせ技だ!」
オレは両手に力を貯め、新たなスキルを発動した。
「【海割り】!」
海面に小さな、ほんのわずかな穴を穿つ。
ただしー、
【蛇竜】が潜む海底まで伸びる、長い長い穴だ。
苦手な海でここまで出来るなら及第点だろう。
「さあ!弓をつがえろアメリー!」
「はい♡」
次はアメリーの弓に風の力を加え、威力を何倍にも高めていく。
静かだった海の周囲に暴風が吹き荒れ、波が高くなり、雲が太陽を覆った。
一瞬静寂が流れー、
「今だ!」
アメリーが【神弓】を三度放つ。
小さな穴を矢が一気に駆け抜け、海底に潜むウミヘビ、【蛇竜】のところまで。
「…キシャアアアアアッ!」
さすがに察知したのか、水魔法を新たに展開し、オレが作った風の穴を塞ごうとする。
だが、すでに手遅れだった。
風を受けたアメリーの矢は水の防壁を突き破り、エルデネト帝国が額に刺した剣ごと【蛇竜】の頭部を粉砕する。
「…!」
【蛇竜】は一度体を大きく振るわせたが、やがて動かなくなり、ゆっくりと浮かび上がっていく。
数分後。
海面まで上昇した【蛇竜】だったが、動き出すことは2度となかった。
****
「やりましたね、ユルゲン。これでエルデネト帝国もしばらくはリューゲン島に手が出せないでしょう」
「すごいよユルゲン!今日は朝まで宴会だね!」
「ふははははは!ヘビの肉は癖があるが美味いからな!干し肉にしたらしばらく肉には困らんぞぉ!」
【南方艦隊】が【蛇竜】の亡骸を曳航して島まで運ぶのを眺めながら、オレたちは【リューゲンイルカ】で帰途に着く。
もはや【リューゲン漁場】を脅かすものは何もいない。
オレも少しは親父に近づけただろうか。
「最後は先輩に全部持ってかれちゃいました♡さすがですね♡」
ふにゅん…
背中にしがみつくアメリーが【潜乳工作員】を押し付けてきた。
「お前のアシストがあったおかげさ。礼を言うぞ」
「じゃあ…これからはアメリーを思う存分可愛がってもいいですからね♡」
ケムニッツの街で孤児となっていたアメリーを親父と共に保護したのは、今から3年前のことだ。
行き倒れて危険な状態だった彼女を保護して以来、縁が続いている。
「これからアメリーのおっぱいもも〜〜〜っと大きくしますからね♡」
「お、おうふ」
…しかし、いつからこんな小悪魔系のキャラに生まれ変わったんだっけ?
****
「ブヒィィィィィィィィッ!じゃなかった、何ィィィィィィィィッ!あのハイパー無能皇子ユルゲンが生きておるじゃと!?本当かツェーザル!」
「は、はい!エルデネト帝国から抗議の手紙が飛行型モンスター・ガーゴイルを利用して届いております」
ユルゲン一行が【蛇竜】と戦っていた頃。
ザールラント王国首都ケムニッツにある【巨人宮】では、ちょっとした事件が起きていた。
「【南方艦隊】も戻ってこんし、トリーアの街もいうことを聞かんと思ったら…まさか国家に対する叛逆が起きていたとは!」
「い、いかがなさいましょう。このままではエルデネト帝国が我が国に攻めてきましょうぞ!」
「や、やむを得ん」
アルバンはヒリヒリする尻をさすりながら立ち上がった。
かの無知暴虐な弟を、正義のマジカル鉄拳によって取り除かなければならぬと。
「至急軍を招集し、リューゲン島を攻撃しろ!我が弟ユルゲン・ドナートを討つのだ!!!」
「…」
「どうした。早くしろぉ!」
「その…帰宅しました」
「ん?」
「派遣傭兵たちは勤務時間17時が過ぎたので帰宅しました」
「うごこごご…ど、どうして我が指示に誰も従わぬのじゃ〜〜〜!我はこの国の王なるぞ〜〜〜!」
後に、いろいろ大変なことが起こることを、ユルゲン一行はまだ知らない。
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