第33話 おっぱいたちと決戦に臨みます

 「ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」


 水飛沫を跳ね上げながら海上を疾走する生き物の上で、オレは雄叫びをあげる。


 なんの生き物かって?


 「キュキュイ!」


 クラーラが【交信】に成功した生物、リューゲン島近海に生息するピンク色の【リューゲンイルカ】である。


 ただのイルカと違って羽が生えており、トビウオのように海面を滑空できる珍しい生物だ。


 今は船と遜色ない速度で【リューゲン漁場】へと向かっている。


 「すっかり元気を取り戻しましたね、ユルゲン!」


 「ユルゲンが元気になってくれてあたしも嬉しい!」


 「おう、お前たちのおかげだ。おかげさまでビンビンよ!クラーラもサンキューな!」


 「ううん。ここに住むイルカさんみんなが、あのウミヘビをどうにかしたいと思ってたんだって。【リューゲン漁場】は島に住む人だけじゃない。周辺のお魚さんたちにとっても、栄養素が豊富で欠かせない場所だから!」


 「じゃあ、なおさら今日でケリをつけなくっちゃなぁ!」


 別のイルカにまたがり海を進むエミーリアとクラーラの声にオレは応えた。


 美女3人…正確には1人途中退場して2人だが、【おっぱい盛り】によって得られた力は絶大なものがある。


 あのウミヘビーーーー脱出ついでにエルデネト帝国の船から持って帰った資料によると【蛇竜】と言うらしいーーーーにキツイ一撃をかます分には充分すぎるおっぱい力を蓄えた。


 ただし、実際に仕留めるにはもう一工夫加える必要がある。


 「楽しそうですね先輩♡」


 「当然だ!今日はお前の力も借りることになる!頼りにしてるぞ!」


 「はい♡」


 ひときわ小さい【リューゲンイルカ】にまたがりぴったりと付いてくるのは、金色の弓を携えた金髪貧乳ロリ。


 普段は小生意気だが、これでも【薔薇の弓兵】と呼ばれた凄腕だ。


 必ず期待に応えてくれるだろう。


 「よし。ジジイたちは【南方艦隊】のみんなと先行して準備をしているはずだ。準備はいいか?」


 「「「はい!」」」 

 

 「じゃあ…そろそろ潜るぞ!【風纏い】かぜまとい!」

 

 水中で呼吸・会話するための風魔法を自分と女たちの周囲に発動。


 タイミングよく、またがっているイルカが海中へと沈んでいく。


 「すごい…本当に息も会話もできるんですね」


 「今度エミーリアも一緒に珊瑚を見に行こうぜ」


 しばらく海の底へと潜っているとー、





 「わあ…!」


 クラーラが感嘆の声をあげる。


 イルカ。


 イルカ。


 またイルカ。


 青い海の中を泳ぐ無数のピンク色。


 数百匹の【リューゲンイルカ】が群れを成し、オレたちを出迎えてくれた。


 暗い海底の中で目立つピンク色の体色。


 しばらくは【蛇竜】の目をオレたちからそらし、あざむいてくれるだろう。

 


 ****



 「おおおおいお前ら!その調子だ!海水を温めまくってあいつを引き摺り出すぞ!【火拳】!」


 「はっ!【ファイア】!」


 「【ファイアストーム】!」


 「【フレイム】!」


 海中で音を探知する【風聞】ふうぶんを発動すると、ジジイことカールハインツとミニスカ水兵さんたちが準備をはじめている声が聞こえた。


 海上で海底に潜む【蛇竜】をわざと挑発し、誘き寄せるための示威行為。


 あいつはオレが力を秘めているのを知っているのか、存在を見ればすぐに隠れてしまう。


 だがー、




 攻撃を寄せ付けない炎魔法の使い手なら話は別のはずだ。


 「ユルゲン…聞こえる?」


 「ああ。早速きたようだな」


 イルカの群れに紛れているオレたちの耳に、異音が鳴り響く。


 何か巨大な生物が水をかき分け、地上へと向かわんとする音。


 「…」


 無言でアメリーが弓に矢をつがえた。


 今は弓兵としての役割を果たそうとしており、一言も発さない。

  

 

     



 やがて、待ちに待っていた存在が姿を表した。

 

 黒い体色と黄色く濁った目。


 表情は怒りに満ちており、自らの縄張りを犯す人間を誅さんと決意している。


 離れた場所にいる【リューゲンイルカ】は取るに足らないと考えているのか、目をくれず、気にもかけない。


 そしてー、





 「キシャアアアアアアアアアアアッ!」


 【蛇竜】は再び海上に姿を現す。


 鳴き声と共に立ち上がる轟音と水飛沫。


 太陽が一瞬覆い隠され、暗闇になるほどの巨体。


 カールハインツ率いる【南方艦隊】を海の藻屑とするため、鋭利な棘の生えた尻尾を叩きつけんと狙いをつけた。


 




 「今だ!」


 勝負は一瞬。


 それに合わせてオレ、エミーリア、クラーラ、アメリーの【リューゲンイルカ】も勢いよく飛び出した。


 「…!」


 「よお。この前は面倒な真似してくれたが…今日こそ決着つけようぜ!【風切】!!!」


 本気モードの風の刃。


 みるみる黒々とした巨大に迫り、その身を両断せんとする。




 「キシャアアッ!」


 だが敵もさるもの。


 空中で姿勢を変えて刃をかわし、すさまじい速度で海へ飛び込んだ。


 一瞬だが、全身から水を吹き出しているのを確認する。


 どうやら、水魔法を移動に転用しているらしい。


 そのままオレの魔法の効力が消える海へー、



 

 「【金弓箭】きんきゅうせん


 その時、アメリーが弓を放った。


 いや、放つ動作が見えた。



 

 オレの風魔法の最高速度すら凌駕する必殺の一撃。


 それは海の中に身を隠した【蛇竜】すらも逃さずー、




 「ギャアアアアアアアッ!」


 大蛇に致命的な一撃を与えた。

 

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