第30話 貧乳おっぱいとの再会は近い

 「残りはこいつだけか、ジジイ」


 「ああ。流石になかなか降伏しねえな。俺が燃やしてやろうか?」


 戦闘が始まって約数時間。


 オレは唯一残ったエルデネト帝国の旗艦を【南方艦隊】 を使って包囲している。


 あれだけの数を誇った侵略船団もすでに壊滅状態で、皆船ごと降伏するか海に突き落とされた。


 残酷かもしれんがこれも戦争。


 やがてやってくるであろうエルデネト帝国の戦争に備え、オレ達にも実戦経験が必要なのである。


 それに、戦意を失ったものに対しては寛大に扱ったつもりだ。


 「いや、オレだけでやろう。ジジイは降伏した奴らを逃がすなよ」


 「がってんだ!」


 【風脚】で跳躍し、オレは黒色に塗られたボロボロの船へと飛び降りた。


 

 ****



 「お前が、アマルか」

 

 お目当ての人物はすぐに分かった。


 エルデネト帝国人特有の赤い瞳と蒼い肌、髪は全て刈り取ってつるっつる。


 ただし、海の上なのに暑苦しいローブに身を包んでやがる。


 どうやら何から知らのスキルを使えるらしいが、貴族化したエルデネト人の中にも、骨のあるやつがいるようだ。


 「…いかにも。どうやらザールラントはエルデネトに盾突くようだな」

 

 「ザールラントがどうかしたって?オレたちゃただの海賊さ。もちろん、ザールラントの豚皇子非公認だぞ」

 

 「とにかく降伏しろ。オレたちはお前らと違って侵略には興味はないし、降伏したものを皆殺しにするほど悪趣味でもねえ」


 「偉大なるエルデネトの臣下に入りたいとは思わないのか!」



 「世界帝国なんてどうせ長続きしねえ。100年も持たず滅びるものに従うより、おっぱいに胸を埋める方が有意義だ」


 「…くくくくく。ふざけた奴よ」


 アマルが携えた黄金の杖にオーラを宿す。


 無言が何よりの答え。






 「【風切】!」


 「【邪竜降臨・水】!」


 

 戦いは瞬きする間もなく終わる。




 目に見えない風の刃で、オレは黄金の杖ごとアマルを両断した。


 

 ****


 

 「「「ユルゲン皇子、万歳!!!」」」


 降伏した者たちにわずかな船と物資を与えて追放した後、【リューゲン漁場】にミニスカ水兵さんたちの凱歌の声がこだまする。


 先王の代から散々圧力をかけてきたエルデネト帝国に対する初めての勝利なのだから。


 「やりましたね、ユルゲン!」


 「あたしも役に立ててうれしいよ、ユルゲン!」


 エミーリアとクラーラも喜んでいる。


 だがー、




 「…どしたのユルゲン。なんだか浮かない顔してるけど」


 「うーん…なんかイヤーな予感がするんだよなあ」


 あのアルマとかいうやつ、結局なんのスキルも発動せず倒されたように思える。


 が、そこそこ骨のあるように見えた奴が無抵抗で倒せるとは思えなかったのだが…


 「がはははははは!悩むとはお前らしくないなユルゲン。すぐにおっぱいのことしか考えてないと思ったぜ」


 横からカールハインツが話しかけている。


 海の男らしく半裸の【翁っぱい】スタイルだ。


 「オレだって真面目な時があるよ。たまにだがな」


 「ま、確かにあっけなさすぎた感は否めねえ。早めに引きあがた方がよさそうだな」


 「プロの軍人の言うことは聞いた方がよさそうだな。じゃ、撤収するぞ!」


 「「「はっ!」」」


 オレの号令に従い、【南方艦隊】の船はリューゲン島へと一路舵を取る。






 その時、轟音が鳴り響いた。


 人間や船が生み出せるレベルじゃねえ。


 何か巨大なものが海底から這い上がってくる音だ。


 当然、こちらに向かってくる。


 「全艦急速退避だ!来るぞ!」


 オレが手をかざして、まだ敵を迎え撃つ。


 そしてー、






 「ギシャアアアアアアアッ…」


 轟音の正体が姿を現した。



 ****



それは巨大なウミヘビ。


 エルデネト帝国の船10隻分はある巨体からして、ザールラントの固有種じゃねえのは明白。

 

 あらゆる光を吸い込む黒い体色と、黄色く濁った眼は、死神の誕生を思わせる。


 「こいつが、【リューゲン漁場】を占拠するための隠し玉ってわけか!」


 頭部には、エルデネト帝国の紋章と中心に埋め込まれた剣。


 【タイリクヒアリ】のように人の手で一定の制御が可能な巨大モンスターか。


 だが、操れる術者はすでにぶった切っちまっているから、もしかして暴走状態かもしれない。


 もしかして、それ狙って無抵抗で切られたのか…?


 「【風毒】…ってあれ?」


 本気モードで仕留めようとしたが、それを察知したウミヘビはさっさと海へ潜ってしまった。


 海中全てを無酸素状態するのは難しい。


 「エミーリア、体液を毒に変えてあいつにダメージを与えられるか?」


 「すみません!そこまでの量を一度に出すのは不可能です!」


 「ユルゲン!あいつ、あたしの【交信】にもまったく応じない!」


 「ちっ…面倒な奴だ」


 迷っていると、再び別の場所から姿を現す。


 「ギシャアアアアアアアッ!」


 「ウミヘビの癖に生意気な奴!【火拳】!」


 「ものども隊長に続け!【ファイア】!」


 火属性魔法の使い手であるカールハインツや【南方艦隊】のミニスカ水兵さんたちが攻撃をしかけるも、ウミヘビは怯まない。


 「グルルルルル…」


 水属性だからかあんまし効いてないようだ。


 「ふうど…!」


 しかしオレがスキルを発動しようとするとするりと海へ潜っていく。


 もしかして…




 初めてのピンチ?


 「仕方ねえ!いったん後退だ!」


 オレは、腕に力をためる。


 「全力全開の…【風脚】いいいい!!!」


 対象は、【南方艦隊】の人員と船全て。


 これまでのおっぱい力を使い切るつもりで急速離脱。


 「ユルゲン!おっぱいぱふぱふは必要ですか?」


 むにゅにゅ…


 「ああ!全力で頼むうううううううう…!」


 「幼馴染のあたしのおっぱいも使って!」


 ぷるんっ…


 「助かるぜ2人ともおおおお!」


 「じゃあ俺もー!」


 ごわごわ…


 「ジジイの【翁っぱい】はいらねえええええええ!」


 35隻の船全てと数百人のおっぱい+じじい1人は無傷で戦場を離脱するのであった。





 



 ふにゅん…


 「あ♡この振動…ワンチャンある?」


 エルデネト帝国の放った生物兵器が、新たなおっぱいとの再開をもたらすことを、オレはまだ知らない。

 

 

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