第27話 おっぱいが多数上陸しました

「まーた来やがったなあいつら。懲りないやつらだぜ」


 サンゴ漁が落ち着き始めたので【リューゲン漁場】を再び見に行くと、予想通りの光景。


 しょうこりもなくエルデネト帝国は船を送り込み、魚を乱獲していた。


 軍船の数もこの前より増えて、約50隻といったところ。


 せっかくの警告も奴らにとっては屁の河童と言うわけか、皇帝以外は自然も神も恐れぬエルデネト人らしい。






 これ以上遠慮する必要はどこにもない。


 リューゲン島とその周辺の海域は、ザールラント王国が千年以上昔から守り続けてきた領域。


 それをあえて侵すのならそれ相応の報いをくれてやる。


 もちろん、今回は風という曖昧な事象ではなくはっきりとした形でだ。


 傲慢なエルデネト帝国の鼻っ面に一撃を喰らわせてやる。


 「【風笛】かざぶえ!」


 つーわけで、指定した存在に音を利用した合図を送るスキルを発動した。


 送れるのは音だけだが、ザールラント王国なら端から端まで数秒で届く優れモノ。


 もちろん対象はトリーアで牙を研いでいる海の荒くれ物たち全員だ。


 今頃リューゲン島から届いたオレの合図を聞いて、大急ぎで出港の準備をしているだろう。


 


 アデリナが職工に開発した新兵器も持ってくるだろうし、どんなものか楽しみだ。



 ****



 「たまには付き合えっておくれよユルゲン」


 数日後。


 【ポセイドン浜】でたたずんでいると、島長のアストリットが壺を持ってやってきた。


 何が入ってるかは匂いで分かる。


 この前呑んだ蛇酒だ。


 「もう深夜だぜアストリットねーちゃん。早く寝ないと肌とおっぱいに悪いぞ」


 浜にはオレとアストリット以外は誰もいない。


 クラーラとエミーリアもオレの家でぐっすりだろう。


 たまには寝かせてやらないとな。


 「まだねーちゃんと呼んでくれるのかい。あたしゃもう40だよ」


 「心配すんな。一生ねーちゃんって呼んでやるよ」


 「嬉しいねぇ」


 アストリットは酒が入った壺をオレに差し出した。


 嫌いな味ではないので、ありがたく頂戴し口元に運ぶ。




 相変わらずくらくらするほど強烈。


 それでいてまろやかな味わいだ。


 「じゃ、あたいも呑もうかねぇ」


 不意に褐色の手が伸びて、壺の所有権が変わる。


 「盃はねえのか」


 「んなもんはないよ。回し飲みだ」


 しばし沈黙が流れ、アストリットはごくごくと酒を飲んだ。


 聞こえてくるのは、【ポセイドン浜】の波の音だけ。


 


 「あんたには感謝してもしきれない。正直、あたいじゃこの島を救うことはできなかったよ。あの人が生きてれば、もう少しマシだったんだろうが…」



 あの人とは、恐らくアストリットの夫。


 すなわちクラーラの父親だ。


 クラーラが生まれた直後に海で行方不明となったらしいが、立派な男だったそうだ。


 「やるべきことをしただけさ。礼には及ばねえ」


 「…で、エルデネトの連中はいつ来るんだい」


 「それが聞きたかったことか」


 「表には出さないが、みんな覚悟はしてるさ」


 「本格的な侵攻はもう少し先だろう。だが時間の問題だ。恐らく後1年ほどで戦争になる。


 「そうかい。あっという間だねぇ」


 クラーラと横顔がそっくりな美女は、砂浜に視線を落とす。


 「あたいらはいつだって戦う準備はできてる。クラーラや子供たちを守るためなら、死んだって構わないさ。だから、あんたも遠慮せずなんでも頼んで欲しい」


 「…本当に?」


 「もちろんさ。あたいが嘘をつくと思うか?」


 「じゃあ、1つだけ頼みたい」


 どうやらアストリットは元気を無くしてるらしい。


 無理もないことだ。


 島長として責任も感じてるのだろう。






 「これからは、無理せず自分らしく振る舞うこと!」


 「…え?」


 だから、今はオレが明るく振る舞う時だろう。


 「オレはこの島の人間には毎日楽しく自分らしく過ごして欲しいと考えてる。それ以外は何も望まないさ」


 「ユルゲン…気持ちは嬉しい。でもあんたとエミーリアだけじゃあー」


 「心配ご無用!」


 「きゃっ!?」


 オレはアストリットの体をお姫様抱っこの要領で抱え、砂浜を走る。


 「あ、あんた!あたいが何歳だと思ってるの!」


 「別にいいじゃん?おっぱいもまだまだ柔らかいし、アストリットは超魅力的!生涯現役で戦えるぞ!」


 「く、口説くんじゃないよ…」


 「それよりほら、来たぞ」


 「え?」


 【ポセイドン浜】の岸辺に、数隻の船が上陸していた。


 誰が来たかはいうまでもない。

 

 「ユルゲンさま!合図に従い参上しました!」


 「一緒にエルデネトをぶちのめしましょう!」

  

 「皆戦う用意はできています!」


 ビキニ水兵スタイルのおっぱい美女集団。


 【南方艦隊】の面々である。


 小型船に分乗し、リューゲン島への帰還を果たしたのだ。


 後方からも続々とやってきているが、よく見るとスピードがかなり早い。


 まるで翼でも生えてるみてえだ。


 「ご苦労!なんだか知らないが、アデリナの新兵器も使ってるようだな!」


 「はっ!『詳細は朝方説明する』とカールハインツさまがおっしゃっております」


 「おう!楽しみにしてるぜ!」


 集結しつつある【南方艦隊】を眺めながら、オレは腕の中で呆気に取られるとアストリットの頭を撫でる。


 「オレもエミーリアだけじゃねえさ。リューゲン島を、そしてザールラント王国を守りたい奴はこの通り沢山いる。島のみんなはいつもの通りの生活を送ってくれればいい」


 「…もう、あんたって子は、いつもあたいたちの予想を超えてくるんだから」

  

 セリフとは裏腹に、アストリットは嬉しそうであった。


 

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