第22話 おっぱい島の海に眠るもの

 「かつて島にいた仲間、ユルゲンとエミーリアの帰還を祝してかんぱい!」


 「「「かんぱ~~~い!」」」


 おっぱいと雄っぱいによる手厚い歓迎を受けてから数時間後。


 リューゲン島の色鮮やかな夕日を眺めながら、宴は華やかに幕を開ける。


 島民数百人ほぼ全員が集まっての歓迎会だ。


 【リューゲン鍋】や島特産の【リューゲンきのこ】を始め、この島で取れるあらゆる珍味が並んでいる。


 会場は島長しまおさアストリット、すなわちクラーラの母ちゃんの家である。


 「ほら、ユルゲンも飲んで飲んで!」


 すでに顔が赤くなり始めたクラーラに勧められたのは、木製のでっかい盃。


 「おう…しかしクラーラ、ザールラントの掟では15歳でお酒を飲むのはーへぶっ!?」


 「気にしない気にしなーい!みんな子供のころからごくごくと飲んでるよ」


 「…か~~~~っ!こりゃ、きっつい!」


 「慣れたらおいしいよ!」

 

 クラーラにぐいっと飲まされたのはこの島原産の蛇、【アゼミオプス】を漬けこんだ蛇酒。


 かなりガツンと来る味だ。


 「あ、でも意外とまろやかだな」


 「でしょ?ささ、もう一杯」


 結局、1杯目をごくごくと飲み干してしまった。


 エミーリアにも呑んでー、




 「…ゆるげん。もう、おっぱいでない…です…がくっ」


 と思ったが、すでに酔いつぶれていたのでそのままにしておく。


 彼女は酒に弱いのだ。




 「あっははは!私が見込んだ男だねえ。5年もしないうちに立派な男になっちまって、惚れてしまいそうだよ!」


 首にかけたルビーの首飾りと茶褐色のおっぱいを揺らしながらアストリットは大笑いする。


 ーこの子がユルゲンっていうの?可愛いじゃない。ぎゅーってしてあ・げ・る♡


 5年前まだ小さなかったオレをおっぱいで包み込んでいた時から何も変わっちゃいない。


 というか本当に出産経験ありなのか?


 エミーリアと同じぐらい若々しくみえるぜ。


 「いえ。アルノルト…じゃなかった、クラーラもすごく可愛くなってました。色んな意味でびっくりです」


 「あんたにクラーラのことを隠してたのは悪かったよ。この娘がどうしても隠してってうるさくてねえ。おっぱいが小さかったらユルゲンに振られるかもってー」


 「お、お母さん!それは言わないでって言ってるでしょ!」


 「いいじゃないの。いまやこーんな美乳おっぱいに育ったんだしさ。そういや【ヒガシダイオウイカ】から助けられてもらった時ユルゲンに触ってもらんだって?どうだったよユルゲン」


 「最高でした!特に褐色と白のコントラストが」


 「もう…ユルゲンのばかぁ」


 赤面して顔を覆うがら明らかに嬉しそうなクラーラを見て、周囲は盛り上がる。


 「ヒューヒュー!そのまま結婚しちまいなよ2人とも!」


 「おめえが後を継いで島長しまおさになりゃ、このリューゲン島も安泰ってもんよ!」


 昔と何にも変わってないなぁ。


 上陸してから色々見回らせてもらったが、皆暖かく元気だ。


 開放的な空間で、のびのびと暮らしている。




 だが、良いことばかりだけではない。




 ー実はよぉ。エルデネトの漁船が近海まで出張るようになってまって。どうすっか協議中なんだ。


 ーユルゲンお兄様の言う通り、エルデネトの外来生物がよく目撃されるようになりました。不安です…


 ー海女も貝が取りにくくなっちまってねぇ。向こうの国でこっそり乱獲されてるのかも。




 確実にエルデネト帝国の影響がリューゲン島へ及び、島民の生活に影響を与え始めている。


 特に漁がやりにくくなってるのは大きなダメージだ。


 


 オレが、どうにかしてやんねーとな。


 「みんな!こんなにもオレを迎えてくれて有難う!今日は飲みまくるぞ〜〜〜!」


 「ひゅ〜〜〜待ってました!」


 「一気!一気!」


 もちろん、そんな感情を出すつもりはねえ。




 今はみんなの厚意に応え、島を全力で楽しむのだ!



 ****



 「オボロロロロロロロロロ…」


 「大丈夫?」


 「こ、こんぐらいなんてことはねえクラ―リア。早くおっぱい宴会場に戻らな…オボロロロロロロロロロ…」


 と言うわけで飲みすぎました。


 さすがに無茶が過ぎたぜ…


 現在は【ポセイドン浜】で夜風に当たってます。


 「もう、昔からそそっかしいところは変わってないんだから。はい、あたしの膝、貸してあげる」


 「恩に切るぜ」


 「…ユルゲン、赤ちゃんみたいで可愛い」


 「何か言った?」


 「な、なんでもない」


 月が照らす【ポセイドン浜】で幼馴染の膝枕に寝かせられながら2人きり。


 膝枕ってのはいいもんだな。


 V字型の水着で僅かに覆われてるだけのクラーラのおっぱいもよく見える。


 てかこれが若者の標準水着ってエロすぎるよリューゲン島…


 「…ねえ」


 なんてことを思ってると、エミーリアが不安そうな表情を浮かべていた。


 「エルデネト帝国って、やっぱり攻めてくるのかな」


 「…ああ。ほぼ間違いない。だから、オレもこの島に帰ってきた。みんなには内緒だぜ?」


 「そう、だよね。あたしも勉強とかあんまりできないけど、一応島長しまおさの娘だし、それぐらいは感じてるし、覚悟もある」


 「…」


 「だから、ユルゲンが帰ってきてくれて、とても嬉しかった。ユルゲンはあたしのヒーローだもん」


 クラーラがオレの赤ら顔にそっと触れる。


 「あたし、ユルゲンの望むことならなんでもするから。あたしの力になれることなら、なんでも言ってね…」




 やれやれ。


 どうやら、酔いも覚めてしまった。


 こんなことしてる場合じゃねえ。




 「きゃっ!ユルゲン、お酒は大丈夫なの?」


 「平気だ。美少女の膝枕は悪酔いに効果がある。それより、少し冒険しよう」


 「ぼ、冒険?」


 「ああ。【纏い風】まといかぜ!」


  

 オレとクラーラの体が、特殊な空気の膜で覆われる。

 

 ちょっとした深海ならなんなく潜れるし、互いの空気の膜をくっつければ海の中で会話もできる優れものだ。






 「海の宝物を探しに行こうぜ」


 

 ****


 

 「わぁ…!」


 海女として経験が豊富なクラーラも感動するほど、夜の深海はドラマチックだ。


 満月のわずかな光に照らされて、ウミガメや色とりどりの魚が悠々と泳いでいる。


 中には夜しか見られないユニークな形の深海魚もいた。


 水のゴポゴポとした音以外は何一つ聞こえない、静謐で神聖な空間だ。


 オレとクラーラはどんどん沈んでいきながら、とある場所を目指している。




 「ほら、見えてきたぜ」


 「あれが、宝物?」


 「ああ。普段は海女さんも来れないほど深い場所だから、誰も見つけることがなかったんだ。オレはガキの頃に見つけてたけど、こいつの価値が分からなくてな。ケムニッツの海洋に関する書籍を読んで、初めて気づいたんだ」


 暗い海の中で、紅色と白色の美しい光沢を帯びたサンゴが姿を現す。


 1つだけではない。


 1つ、また1つ。


 やがて視界いっぱいに広がるまで。


 いわばサンゴの花畑だ。


 「きれい…」


 光の届かない深海でゆっくりと堆積され、古来から多くの権力者から愛されてきた宝物。


 「宝石珊瑚ってやつだ。誰にも取られることがなかったから、リューゲン島一帯で数千年間少しずつ増えてきたんだ。取り尽くせないほどある」


 「じゃあ、これを採掘したらすごい利益になるってこと?」


 「もちろんだ。リューゲン島は今よりずっと豊かになる。トリーアの商人が、エルデネト帝国以外の国々に高値で売ってくれる」


 オレは、クラーラの頭をそっと撫でた。




 「ただエルデネト帝国から守るだけじゃない。みんなが今よりずっと楽しく平和に過ごせるようにするために帰ってきたんだ。だから、そんな寂しい顔をする必要はねえ。もっと、この島を楽しもうぜ!」

 


 

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