第17話 おっぱいを脅かすもの
「はっ!ふぅ、キリがありませんね。どちらに向かいます?」
投げナイフでオーク兵を一撃で倒し、エミーリアが尋ねる。
「どりゃあっ!船底だな。バカ兄貴がエルデネトに献上した物資がそこに眠ってるはず。捨てられる前に押さえる」
「イタゾ!」
「ツカマエロ!」
「ちっ、またかよ」
ここは狭くて暗い
図体のでかいオーク兵がひしめき合っていて、あらゆる方向から新手がやってきている。
進むのはなかなか厄介だ。
まとめて吹き飛ばしてもいいが、とある懸念があるためそれはやめておく。
「シネ!コノー」
「
「グギャアアアアア!」
後ろから迫っていたオーク兵の1人が突如炎上した。
よく見ると、炎の拳で合金製の鎧ごと体を貫かれているらしい。
「よくやったな、おっぱい皇子!」
白銀のガントレット【サラマンダー】と、下半身を隠す腰布以外は何を身につけていない半裸のムキムキ白髪爺。
戦場だと言うのに、【翁っぱい】を呼吸のたびにビクビクと動かしながら笑ってやがる。
「まったく。68歳にもなって無茶しやがるなカールハインツ」
「がははははは!久々の戦いは血が騒ぐでのぉ!このような場所を与えてくれて感謝するぞ!」
「部下はどうしたんだ?」
「残りの船から乗り込もうとするオーク兵を適当に言いくるめてる。あやつらは、命令を聞くことはできても自分で動くことは苦手だからな。それでも上がってくるやつはぶちのめすのみよ。もちろん、【外輪船】の次は残りも占拠して構わんのだろ?」
「当然だ。我が国の海を侵したこと、後悔させてやれ」
「がはははは!結構結構!」
「よし、じゃあ3人で船底に向かうぞ」
「承知!」
「分かりました、ユルゲン」
3人に増えたオレたちは、薄暗い船尾への道をひたらすら進んでいく。
「お主らは近づくでない!
「ア…キレイナヒカリー」
「隙あり!」
「ウゲエエエエエ!」
かすかに聞こえるアデリナの声。
彼女も戦闘能力が乏しいなりに頑張っている。
あとでお礼を言わないとな。
****
その後はさしたる抵抗もなくなり、オレたちは容易に船底へとたどり着く。
オレ3人が丁度ひと暴れできそうな広さだ。
大雑把なオーク兵の仕事なのか、武器、食料、水、金といったあらゆる物資が雑然と積まれている。
せめて火元になる武器は別で保管すべきはずだが、やはりエルデネトはそのあたりに疎いらしい。
「
「この肉は…うっ!とても臭い、です。おえ…」
とにかくゆっくりと進んでいくと、鎖で厳重に縛られた木箱をいくつか見つける。
おそらく目当てのものだ。
【風切】で鎖と箱を切り裂き、中を確認した。
「けっ…ザールラント各所の地形や城を明確に記した地図か。金山や鉱山の場所まで記してやがる」
「こいつは、ザールラントの造船技術の本じゃねえか!俺ら【南方艦隊】のムフフな秘密まで丸裸にされちまうぞ!」
「リューゲン島の地理や産物を記した調査報告書まで…元々はユルゲンが調査したものなのに」
もちろん、これらはザールランドの法では外国に持ち出しちゃならねえもんのはず。
バカ兄貴が貴族や重臣の許可なく勝手に渡したのだろう。
「ま、とにかくこいつらを抑えればオレたちに有利になるだろう。海賊を捜索して立ち入ったエルデネトの外交船の中に、門外不出のはずの重要機密が多数発見された、ってな」
これはエルデネト帝国の侵略行為であり、アルバン王の国民に対する裏切りに他ならない。
バカ兄貴も慌てふためくだろう。
「がはははは!俺ぁ船で暴れること以外苦手だからよ。おっぱい皇子がいて助かるぜ」
「やれやれ。ジジイも今後はー」
ガタリ。
その時、隅の方で物音が聞こえた。
シルクの布を被された鉄製の檻。
高さはオレの背丈の2倍ぐらい、広さはオレが5人入れる程度か。
嫌な予感がする。
「ユルゲン、まさかー」
「下がってろ」
シルクの布を掴み、ゆっくりとはがす。
そこにはー、
「だ、誰ですか…?」
「家に返してください!私たち、何もしてません!」
「エルデネト帝国に行くなんて…嫌!」
年端もいかぬ少女が6人閉じ込められていた。
歳は10歳前半から後半まで。
着ている服や装飾もまちまちで、無作為に選ばれたらしい。
怪我や乱暴された形跡はないが、ひどく怯えていた。
「そこまでだ!ザールラントの小人ども!」
オーク兵ではない、流暢なザールラント語。
「サソイコンダゾ!」
「ニガスナ!」
「ツカマエロ!」
大量のオーク兵と共に、1人のエルデネト人が姿を現す。
昼にぶっ倒したやつとは違い威風堂々とした体躯だが、表情にはオレたちに対する侮蔑がありありと浮かんでいた。
「我は偉大たるエルデネト帝国の使者アルタン。貴様ら、この船がエルデネト帝国のものだと知っての狼藉か!生かしてはおけぬぞ!」
「…おい」
「何?貴様、この我に向かっておいとはー」
「この檻に閉じ込められた子供はなんだ?」
「くくくくく。知りたいかぁ?」
アルタンはぶん殴りたくなる笑みを浮かべた。
「貴様らの王がエルデネト帝国に献上したものだ!後宮に入れられ、皇帝の寵愛を受けることになるだろう!」
それに同調し、オーク兵も下卑た笑い声をあげた。
「フヒヒヒヒ…ザールラントノオンナ、イケル…」
「シハイシタラオレラモ…」
「ハハハハハ!タノシミダナァ」
よほど死にたいらしい。
「…どう見ても無理やり連れて行かれたようにしか見えんが?同意もなく幼女をさらう変態野郎かてめえらは」
「ぐ…無礼な!我らは皇帝の望む女を、貴様らの王に伝えたまでよ!おしゃべりはもう終わりだ!」
オーク兵が
「死ぬがいい!!」
あくびが出そうなぬるい攻撃のことはどうでもいい。
あのバカ兄貴はやりかねないと思ってたが、マジで一線超えちまうとは思わなかった。
やっぱり、あの時ぶん殴っておくんだったな、あいつは。
念のため船もぶっ壊さないで良かったぜ。
あとはこいつらをー、
ぷにゅん。
その時、エミーリアに後ろからも抱きしめられる。
「怒りを止められないのですね、ユルゲン」
「ああ」
「分かりました。それでしたら…」
衣ずれの音。
振りかえるとー、
「…露払いを、させていただきます」
エミーリアは全ての服を脱ぎ去り、全裸となっていた。
オレに吸われたばかりの乳房は母乳でテラテラと光り、わずだがいまだ流れ落ちている。
先端は充血し、膨らんでいた。
「はぁ…はぁ…」
それだけではない。
エミーリアは、急速に汗を流し始めている。
美しい白い髪も、新緑色の瞳も、すらりとした腕も、背骨のラインが美しい背中も。
全身を汗で染め上げ、ぽたり、ぽたりと床にこぼれ落ちていく。
そしてー、
「…
エミーリアが自らの技を放った。
彼女のスキルは水属性の魔法、ただし、やや特殊なタイプ。
自らの体液の性質を自在に変え、操るのだ。
流した汗が意思をもったかのように突如飛び散り、包囲するオーク兵たちを襲う。
「グギャアアアアアア!!!」
「メガ、ミエナ…イギイイイッ!」
「ヨロイガトケル!ナゼ…」
生み出された強酸性の体液を全身に浴び、悶絶するオーク兵。
毒入りだから、まともに食らえば数時間で死に至るだろう。
オレも負けちゃいられねえな。
「行くぞ、ジジイ」
「…ああ。俺も、久々に本気出すとするか」
呆気に取られるオーク兵とアルタンを睨みつけながら、オレたちも戦闘態勢に入る。
「てめえら、楽には死なさねえ」
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