第11話 おっぱいもみ狐(こ)、襲来す

 「貴様らは今後エルデネト帝国の奴隷となる。逆らうものは容赦なく粛清されると覚悟せよ、分かったか!」


 ここはトリーア中心部にある集会用の広場。


 夏にもなれば【トリーアおっぱい祭り】が開かれ賑やかとなるが、現在は赤い瞳に蒼い肌を備えた長身のエルデネト人が演壇の上にいて、きったねえ演説をしている。


 色鮮やかな衣装に身を包んでいても、そんなでっぷりお腹と底意地の悪そうな下卑た笑みを浮かべながら、条約とまったく違う内容をペラペラ話してると台無しですよ?


  普段掲げられている白と赤のザールラント国旗を降ろして、水と白の布地に竜の絵が描かれたエルデネト帝国の旗まで掲げやがって、なめられたもんだ。


 「この広場に翻るエルデネト帝国の国旗こそ、その証!少しでもこの国旗に傷がつけば、この世界唯一の神によるエルデネト皇帝の怒りによって、皆死に絶えるであろう!」


 「チカヨルナ。ウタレタイノカ!」


 周囲には、豚鼻で屈強なオーク族の兵士が数十人警護に付いている。


 【震天】しんてんの最新型である12式を構えており、怒りと困惑の表情を浮かべる群衆に睨みをきかせていた。

 

 図体だけはでかいオーク族はもともとエルデネト人と敵対していたが、大戦争に敗北した後は民族ごと奴隷として取り込まれている。

 

 その他の民族もひたすら吸収しており、数十もの人種がひしめく多民族国家なのがエルデネト帝国の特徴だ。




 まあ、そんなことはどうでもいい。


 くそったれ条約の内容すら守れず、こそこそ工作までしようってんなら、遠慮する必要はない。


 「おい。豚野郎」


 「何…貴様!オーク兵に何と無礼なー」


 「素面しらふでぼけてんじゃねーよ。豚はおまえだ。お・ま・え」


 「ぐぐぐ…ちょうどいいわ、貴様をエルデネト帝国の威を示す見せしめにしてくれん!磔にしてやる!」


 「それより、一言言わせてもらうぜ」


 右腕に風の力を集め、一点に集中する。


 「神の国ザールラントの領域に、きたねえもん掲げてんじゃねえよ」


 エルデネト帝国の旗を、【風穴】かざあなで粉々にした。



 ****



 「んなあああああああああああっ!?」


 「どんな理由でも旗に傷がつけば神の怒りが下るって聞いたが、たいしたことねえな」


 「な、何をしたのだ貴様!」


 「別に何も?武器かなんか持ってるように見えるか?それとも、証拠もなく他国の人間に手ぇだすか?」


 「しょ、証拠などいらぬぅ!オーク兵よ!この矮小なザールラント人を殴り殺せ!」


 「ハッ…オトナシクシロ、ニンゲン!」




 オーク兵の一匹が、【震天】しんてんを棍棒みたいに振り回して殴りかかろうとする。


 図体がでかすぎて隙だらけだ。


 「ーーーー【追風】おいて!」


 どてっぱらにぶち込むのは、風の力を受け何倍もの速度に加速した拳。


 武器を持っていないと油断した敵の命を刈り取る暗殺技。


 


 ズボッ!


 「グェェェェェェ!」


 特殊な合金で作られたオーク兵の鎧をかちわり、内臓を粉砕した。


 「ヒルムナ!」


 「コロセ!」


 さすがにこの前の傭兵よりは根性があるようだがー、




 「カコンデ…ガッ!」


 「ギャアアアアアッ!」


 エミーリアが投げたナイフに首元や目を貫かれ、その場に崩れ落ちる。


 「雑魚は相手いたします」


 「任せる」


 なんだかんだ強いからな、この人は。


 「こ、こいつら…!


 「1つ言っておくぜ」


 オレは左手にも風の力を集め、この無礼な使者に最後の警告をする。


 「この国はな、【八百万】やおよろずと言って数百万もの神がひしめく領域だ。エルデネトのように1人しか神がいないちんけな国じゃねえ」


 「な…何が言いたいのだ!!!」


 「逃げれば命だけは助けてやる。だが、これ以上やるってんなら、神の怒りってやつが下るぜ」


 「せ、世界1の国家であるエルデネトになんたることを…オーク兵どもぉ!!!周りを巻き込んでも構わん!!!【震天】しんてんの一斉射撃で殺せ!!!」


 「そうか…そりゃ無理な話だ」


 「…はぁ?」

 



 ゲンドゥンが周りを見渡すとー、




 すでにオーク兵はバタバタと倒れ、息絶えていた。



 ****



 「ひ。ひいいいい!」


 「空気を色々弄って気づいたんだが、生物の生存に必要な要素は2割ちょっとしか含まれてねぇらしい。そいつを3分の1まで減らした状態で吸えば、大抵の生物は即死する…便利だろ?」


 すなわち、【風毒ふうどく】である。


 こいつもどちらかと言うと暗殺用。


 敵の鼻や口の周りにいじった空気をもっていったり、特定の場所に罠としてはりめぐらす。


 親父の言っていた通り、オレのスキルはエルデネトにはタネが知られていない方がいい。


 そっちの方が、エルデネト皇帝を暗殺できる可能性も高まる。




 


 ちなみに、【風毒】ふうどくで減らしたのが酸素さんそと呼ばれていると知ったのは、また別の話。


 「た、助けてくれ!わ、我はアルタンさまに命じられただけなのだ!出港前にトリーアの連中を威嚇するようにと!」


 「そのアルタンってのが使者か。じゃあお前は人質にする価値もねえな」


 「い、い、いやだぁぁぁぁぁ!?」


 「地獄に行って皇帝に伝えろ」




 オレは【風切】かざきりを引き抜いた。







 「ザールラント人を舐めるな、とな」

 

 

 **** 



 「みんな聞いてくれ!オレは通りすがりのおっぱい無職!都からやってきたが、こいつの言ってることは全部うそっぱちだ。トリーアのみんなを騙そうとしている!」


 再び掲げられたザールラントの旗の下で、オレは群衆に呼びかけた。


 「だから、エルデネトの奴らが何を言ってきても聞き入れる必要はない!力を合わせてあいつらを撃退しよう!」


 「本当か?おかしいと思ってたんだ」


 「アダルブレヒト王はあれだけ帝国に対抗していたのに!」


 「この国にエルデネト帝国の人間はいらない!」


 「我ら海外商人も力を貸すぞ!」


 いい感じに士気が高まっている。


 これならー、





 むにゅっ…


「ひゃあああんっ!」


 乳母のどきっとする矯声。


 「1、10、100、1000、10000…1000000!にしししし!エミーリアの1000000ゴールドおっぱいは健在でなにより。わっちも同性として思わず嫉妬してしまいそうじゃ」


 「だめ、です…アデリナさま」


 むにゅむにゅにゅむにゅにゅん…


 「そ、そこは…だめっ」


 くりっ、くりっっ…


「ひううううん!」


 「えー。もうちょっとぐらいいいじゃろ?お主のおっぱいは死ぬ前に一度揉み込みたかったのじゃ」


 「それ以上両方刺激されると…溢れてしまいますっ!」

 

 頭からピョコリと伸びた狐耳。 

 白を基調としたレース、リボン、フリルに飾られたゴシック・アンド・ロリータ。

 にししししと笑う悪戯娘のような無邪気な表情。


 「お前は…【おっぱいなんでも鑑定団】おっぱい・ザ・プライス!!!」


 トリーアの商人たちの元締めかつ最大派閥の【アデリナ商会】のトップ、20歳のアデリナ・メッツェルダーである。







 「ひゃあっ!?女性の乳房は、もっと優しく扱うのじゃあ…」


 というわけで、早速おっぱいを借りました。

 

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