第9話 ざまぁSide:アルバンの大誤算+おまけおっぱい

 「ぐひひひひひぃ!ついに邪魔者の弟を排除できた!親父も死んだ今、我のやりたい放題だぁ!」


 「うひひひひ!おめでとうございますアルバンさま。これでザールラント王国の泰平も約束されたようなものですぞ!」

  

 ユルゲン・ドナートが追放されて4日後。


 首都ケムニッツの中心部にある宮殿【巨人宮】では、8代国王アルバン、宰相ツェーザル、その他重臣と大貴族による祝宴が開かれていた。


 「あの野人やじんが消え、賄賂や中抜きに目を光らせる者がいなくなって清々したわい」


 「これで、我ら貴族のための政治ができようというもの」


 「ようやく、枕を高くして眠れるのぉ」


 貴族や重臣は思い思いに喜びを口にした後、自分たちの邪魔をしない軽くて丁度良いぐらいの肥満体の神輿を適当に称賛する。


 「「「アルバン王は無敵!イケメン!かっこいい!」」」


 「ぐひひひひひ!お前らも見る目があるなぁ。いいぞ酒をもってこぉい!女もだぁ!」


 このようにして腐臭のする祝宴は盛り上がりを見せるのだが、やがて1人の貴族が疑問を呈す。


 「しかし、良かったのですか。維持費のかかる【南方艦隊】を何の資源もないリューゲン島から撤退させるのはともかく、トリーアの港を99年租借するというのは…」


 これはツェーザルがほぼ独断でエルデネト帝国の使者と結んだ条約の2条目である。


 トリーアの港の半分をエルデネト帝国専用の港として99年借り上げ、帝国軍を駐屯させるという内容であった。


 「なんだぁ?奪うのでなく借りるというならば良いだろう」


 「しかし、世界を征服すると宣言しているエルデネト帝国軍を招き入れるというのは、危険ではありませんか?」


 「う…うむ。どうなのだツェーザル」


 「うひひひひひ!そこからは私めが説明いたしましょう!」


 ツェーザルが言葉に詰まったアルバンのフォローに入る。


 「ご心配する必要ありません。みなさまには伏せておりましたが、エルデネト帝国とザールラント王国は縁戚となります!」


 「おお!…って我も初めて聞いたぞツェーザル」


 「うひひひひ!しばらくは明かさないでほしいと言われましたので」

 

 ツェーザルの説明はこうである。

 

 条約の3条目、トリーア港の租借が完了すれば、ザールラント王国の王女リンダ・ドナートとエルデネト帝国の高貴なる皇族の間で婚約が結ばれる。


 リンダは嫁ぐ身ゆえザールラント王国を離れることになるが、そうなれば両国は親戚同士。


 互いに争う理由もなくなり、一帯に平和が訪れるというものであった。


 「ぐひひひひひぃ!姉も何かとユルゲンユルゲンとうるさかったゆえ丁度良いわ。あやつもここから追放してやるとしよう。ツェーザル、エルデネト帝国の使者は、我からの贈り物を見て喜んでくれたか?」


 「はい。とても喜んでおりました」


 「それは結構なことだ。あやつもをしていると見えるな。ぐわはははは!」


 なお、この場では流石にアルバンとツェーザルも語らなかったが、エルデネト帝国は新兵器【震天】しんてん(型落ち)や暗殺用に訓練された【クサリヘビ】を贈り物として残している。


 暗に国内の不平分子や条約への反対派に対する粛清を促した形だ。


 なぜか【クサリヘビ】による無能なユルゲン皇子暗殺は失敗したが、とにかく帝国が親睦の意を示したものとアルバンは解釈し、満足したのであった。

 

 ユルゲンに対しては追加で新たな刺客も放ったため、問題はない。


 あらゆることを楽観的に考えるのが、アルバンの悪癖だった。


 「さあさあ!皆の衆!どんと飲め!そして食え!この宮殿も我の名君ぶりを示すものとして2倍に拡張する予定だ!栄華を楽しもうぞ!」


 ワインを一気に流し込み、代わりの酒を自ら注ごうとしたアルバンだったがー、




 「大変ですアルバン王!王が新たに地方へと派遣した政務官が全員追放されて【巨人宮】へと戻ってまいりました!」


 駆けつけた使者の知らせに驚き、酒瓶を落としてしまう。


 「なに〜〜〜〜!!!我のマジカル政治改革作戦第一弾が、どうしてそうなったのだ!!!」


 「そ、それが…」


 使者は口ごもりながらも、耳にした言葉を正確に伝える。


 「地方住民や領主によると、一人は政務どころか帳簿記入の経験すらない、一人はセクハラ三昧、一人はアルハラ親父と全員が無能かつ横暴であったとのことで…『ユルゲン皇子が任命していた者はみな優秀だった。2週間以内にクーリング・オフを要請する!!!』とのことです」


 「ゆ、ユルゲンだとぉ!あいつは親父の個人秘書官という名の穀潰しだったではないか!」


 「表向き権限はありませんでしたが、先王の命を受け、密かに政務官の選定にあたっていたとのことで…」


 「ぐぬぬぬぬ…」


 「大変です!アルバン王!!!」


 2人目の使者も血相を変えてやってくる。


 「アルバン王が任命した軍指揮官、および高級士官がみんな涙を流しながら【巨人宮】へと戻ってまいりました!兵士たちに追放されたとのことです!」


 「わ、我のマジカル政治改革作戦第二弾までもっ!何故だぁ!」


 「はっ!駐屯地の隊長によると、『軍の指揮官などと詐称さしょうする迷子が30人参ったので、試しに行軍訓練30分を課したところ、涙を流し全員が迷子と自供したので家に帰らせた。早急にユルゲン皇子指名による正しい人事を望む』とのことです!」


 「ぐぬぬぬぬっ!あやつらみんな豊富な軍務経験をアッピールしておったのに…」


 「大変ですアルバン王!アルバン王をたたえる歌の作成を王立歌唱団に依頼したところ、全員が辞任しました!頑固者の指揮者によると、『ユルゲン皇子ならともかく、アルバンに聞かせる歌はねえ!』とのことです!」


 「大変ですアルバン王!【巨人宮】の改築を担当する職工を募集しましたが、誰も応じませんでした!作れません!」


 「大変です!宴会の料理と酒を納入した【居酒屋ベルリン】から『ユルゲン皇子の即位式だと聞いていたのに騙された。即座に全て返品しないと2倍のキャンセル料を請求する』とのこと!」


 それ以降も、続々と使者の報告が入ってくる。

 その全てが、暗にアルバン王への不服従とユルゲン皇子への交代を希望するもの。




 「な、なななな…なぜじゃ〜〜〜〜〜〜!!!」


 結局、彼が代わりの酒を飲む機会は訪れなかった。






 「なんだか王宮が騒がしい…やっぱり、私も弟くんの後を追ってここを出ようかな。すんすん…あ、胸の間から、ちょっとだけ弟くんの匂いがする…」


 「ううんっ♡はぁ…♡はぁ…♡今日も【再開の宝石】を1日おっぱいに挟めましたよ先輩。呼ばれたら、特訓の成果を見せますから♡」


 アルバンの大誤算は、いまだケムニッツにとどまる人間にも影響を与えていくことになる。

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