第7話 乳母のおっぱいが濡れました
「さぁ。次はあなたですよ。オルデンブルク伯爵。お手並拝見と行きましょう」
戦いはすぐ終わり、敵はたった1人となった。
馬車の
「た…た…助けてくれええええええ!嫌だああああああ!死にたくないいいいいいい!」
馬車の荷台の中に引っ込み、オルデンブルクは出てこなくなった。
ちっ。
相変わらず逃げる時だけは必死になりやがる。
「ユルゲンさま!」
少し気を抜いたとき、後ろからエミーリアが駆けつける。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか…?」
「ああ。この通りだ。手を出すなって頼みを守ってくれて、ありがとう」
本当はエミーリアも戦闘に加わった方が早く終わったんだろうが、体がなまってないか確認したかったからな。
それに、今のオレはエミーリアを無性に守ってあげたい気分だった。
敵の血しぶきを乳母の柔肌に付けさせるなんてプライドが許さない。
もちろん、オレ自身は血しぶきなんざ一滴も浴びていないさ。
傷なんてどこにも…
「大変…腕から血が…!」
ありゃありゃ。
多分
「大丈夫大丈夫!こんぐらいなんてことないって…」
「…じっとしててください」
「ん?あっちょっと!?」
エミーリアはオレの傷口の状態を確認してひざまづきー、
奇麗なピンク色の舌で、血を吸い始めた。
暖かくて、ぬめぬめとしている。
「んちゅ…あむ…んん…」
ほっそりとした喉をこくり、と小さく鳴らし、オレの血を体内に取り込むと、口から垂れた分が、少量だけおっぱいの谷間にこぼれ落ちる。
「んはぁ…はぁ…はぁ…幸い、軽傷のようです。良かった…」
そこまで気づいて自分の行動に気づいたのか、はっとしたような表情を浮かべた。
「ああっ!?私ったら、なんてことを」
その時になって初めて、ポシェットから包帯を取り出して巻きはじめる。
「ま、まあ嬉しいけどさ」
「すみません。でも、良かったです。あなた様が無事でなかったら、生きる理由を見失うところでした」
「ははは、エミーリアも冗談が過ぎる」
「冗談では、ありません」
「…」
「ユルゲンさまは、エミーリアの人生そのもの…ユルゲンさまのいない人生を、エミーリアは生きるつもりはありません」
静かに涙ぐむエミーリアは、久々に【母の目】となっていた。
根底に狂気すら感じる、愛情に満ち溢れた目。
この人はもしオレと離れ離れになると知れば迷わず死を選ぶだろう。
だから、この旅路にもあえて連れてきた。
「…ごほん。少しだけ待っていてくれ。かたを付ける」
「はい、ご武運を。怪我だけは、しないでください…」
オレはエミーリアの瞳をそっとぬぐい、馬車へと向かった。
****
「ど、どうせ死ぬなら貴様を道連れにしてやるうううううう!」
随分と長い時間馬車に隠れていると思ったら、どうやら隠し玉があったらしい。
荷台から取り出した鉄の筒ーーーー中に鉄球をこめて発射する射撃武器を見てそう思った。
「ふひひひひひひひ…これは炎の魔石を原動力として、爆発的な威力をもたらす新兵器。いくらお前が奇妙なスキルを使おうとー」
「エルデネト帝国の
あ、敬語にするの忘れた。
まいっか。
今のオレは自由の身だし。
「な、何故知っている!?」
「こっそり密輸入して親父と威力を試したからな。敵の兵器の威力を調べるのは常識だろ?ま、所詮は人間の持つスキルを疑似的に再現しただけのまがい物、オレには効かないぜ」
親父と熱心に話し合っていた対ネルデネト帝国防衛計画も、突然の死によりすべてが白紙となった。
…全部オレに押し付けていきやがってあの野郎。
おかげで、エミーリアの涙をまた見る羽目になっちまった。
オレが天寿を全うして天国で再会したら、またぶん殴ってやる。
「さあ。早く撃て。ここから一歩も動かずに撃ち落としてやる」
「ぐ…くくくく…!貴様ごときに…」
はったりではないと気づき口をぱくぱくさせるオルデンブルク。
そろそろ終わりにしてー、
「お、お前を殺せないなら!」
オルデンブルクは荷台から飛び降りた。
「従者だけでも!!!」
狙いは、エミーリアだ。
****
「…
今から思えば、そこまで激高する出来事じゃなかったもしれない。
「ぎゃああああああっ!」
だが、奴が
奴にとっては理不尽かもしれないが。
ーおい、バカ息子。
ーなんだよアバンチュールエロ親父。
ー今日鍛錬が終わったら執務室に来い。大事な話がある。
ーなんだよ。兄貴を説教しろってんならごめんだぞ。
ーそんなんじゃないさ。実は…まあいい。
ー…?
ーとにかく、絶対に来るんだぞ。たまには、最低の俺にも親らしいことをさせてくれ。
ちょうど一年前。
言葉通り執務室に行くと、親父は冷たくなっていた。
その時から、心に決めたことが1つある。
大事な人間や存在に手を出す奴は、たとえ虐殺と略奪で恐れられたエルデネト帝国が100万の軍勢を送り込んだとしてもー、
絶対に排除すると。
「
最後に発動するのは、全てを焼き尽くす
「や、やめー」
オルデンブルグの絶叫は一瞬で途絶える。
骨まで一瞬で溶かしつくすほどの熱風が、馬車と周囲の木々もろとも敵をあとかたもなく抹消した。
「…人の母親に、手ぇ出すんじゃねえよ」
めんどうな仕事をやり終えた解放感と、大切な人を守りきった満足感。
その2つを枕に、オレは意識を手放した。
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