第6話 ガチモードの皇子はおっぱいに顔を埋めたい

 「あれがユルゲン皇子かぁ?」


 「従者の女も一緒だ!間違いねえ!」


 「ぐふふふふふ…逃げる気配はないぞ!囲んで袋叩きにしろ!」


 湖のほとりにまずやってきたのは、派手な格好をした軽騎兵約30騎。


 王国の正規兵にしては規律がだらしなく、武器もバラバラで統一感がない。


 おそらく、貴族どもが飼っている私兵か。


 国家に忠誠を誓うのではなく、金で雇われるだけの横暴な傭兵。


 最近は兵士たちの貴族に対する不満が高まっているので、傭兵が用いられる場面も増えてきた。


 「くはははは!ようやく会えたなユルゲン…お前に味合わされた屈辱、今こそ晴らしてくれるから覚悟しろおおおお!」


 続いて、2頭立ての御者付きの馬車がえっちらおっちらやってくる。


 そんなお荷物がいたんじゃ、そりゃオレたちを捕捉するに時間がかかるわけだな。


 荷台からよろよろと降りてきた痩せ型の中年貴族には見覚えがある。


 「誰かと思えばオルデンブルク伯爵ではありませんか。先日の【ジャイアントオーク】の討伐ではっぷり。感服致しましたぞ」


 「だ、黙れ黙れ黙れぇ!ワシには作戦があったのじゃ。それを貴様が全て台無しにしてくれたおかげで、ワシは名誉を失ったんじゃぞ!」


 作戦ねぇ。


 情報より2倍ほど大きかった【ジャイアントオーク】の姿を見て「ひいいいいいっ!命だけは、命だけはあああっ!」と悲鳴をあげ、安全な後方基地へ一目散に逃げ帰って部下を置き去りにするのがか?


 適性がないならわざわざ「ワシには軍才がありまぁす!」などと言ってアルバンにアピールしなければよかったのに。


 結局、オレが残された兵士たちやアメリーと協力して討伐したが、最初の混乱の余波で出た死傷者は元に戻るはずもない。


 安全な領地での私兵ごっこを適性と勘違いした末の自爆なんざ、自業自得だろうが。


 さっさと逃亡したため、【神風】かみかぜスキルの存在を隠蔽しやすかったのが不幸中の幸いだったがな。


 「要するに、逆恨みで私兵を率いて復讐しにきたのですか。なんともお暇な方だ」


 「ワシの独断ではない。他ならぬアルバン王のご命令よ!お前と女従者の首を取ってくれば、先日の失態は不問に伏すとな。さあ、やれクリストフ!」


 「へへへ。もちろん、俺たちにも報酬は弾んでくれますよね、大将」


 「ああ。アルバンさまより才覚があるなどとイキがってるが、所詮なんのスキルも持たぬガキよ。現実を分からせてやれ!女も死ぬまでは好きにしろ!」


 オルデンブルクの傍らにいる眼帯をはめた男がリーダーらしい。


 そいつが手で合図を出すと、全騎がじりじりと近づいていった。


 「ユルゲンさま、お逃げください。ここはエミーリアが防ぎます」


 エミーリアがオレの前に立ちふさがる。


 1日中ぱふぱふしてくれた時の慈母の微笑みは消え失せ、口元をきりりと結んだ戦士の顔となっているようだ。


 「心配するな。エミーリアのおかげで大分力も増えたし、少し肩慣らしさせてもらう」


 「ですが…」


 「今のうちにおっぱいを休めていてくれ。後で借りる」


 「何ごちゃごちゃ言ってやがる!」


 騎兵の1人がエミーリアの前に立ったオレにサーベルを突きつける。




 「命乞いしたら楽に殺してやるぜ…くひひひひひひ!」


 「一度だけ言う。退け」


 「…あ?」


 「いずれエルデネト帝国との戦争が避けられない今、素人同然でも、武器を使える奴は1人でもいた方がいい。今退けば命だけは助けてやる」


 オレは腰に差した剣の柄に手をかけ、ゆっくりと引き抜く。


 その剣にー、




 


 刃はなかった。


 「いぎゃはははははは!何かと思ったら柄だけじゃねえか!スキルの使えない無能王子ってのは本当みてえだな!」


 おごり高ぶった傭兵がオレにサーベルを振り下ろす。


 「俺たちゃ金のために傭兵やってんだよ!エルデネトだかなんだか知らねえが、命がけのガチの戦争なんざ参加するわけねえだろうがあああああああああ!」


 どうやらこいつらを過大評価していたらしい。


 オレだけでなくエミーリアにも手を掛けると言うなら、容赦する必要はない。




 「ーーーー【風切】かざきり


 「…あ?」


 オレの剣に刃がないのは、ため。


 鋼鉄製のサーベルをぶったぎり、分厚い鎧で守られた小汚い傭兵の肉体を両断しー、




 「…ひぎあ」


 短い断末魔をあげて、傭兵の上半身は乗っていた馬から滑り落ちる。


 少し遅れて、下半身も地面に落下した。



 「な、なんだ!?」


 「ボルマンの奴が一瞬で…」


 「矢だ!矢で射殺せ!」


 動揺した傭兵たちは一斉に矢をつがえ、風切り音と共に放つ。




 …遅ぇな。

 アメリーの一撃と比べるとあくびが出るぐらいだ。


 


 「【風壁】かざかべ!」


 発動するは、あらゆる攻撃を弾き返す風の防壁。


 10数本の矢が一瞬で弾き返され、放った主の元にまっすぐ帰る。


 「ぐぇええ!」


 「がはっ…」


 急所かつ鎧の防御が薄い首回りや眼球に命中し、騒いでいた傭兵たちを一瞬で沈黙させた。






 魔法の6属性として知られる光・闇・土・炎・水・風。

 個人的な意見だが、その中で最強なのは風属性だとオレは思っている。


 理由は簡単。




 大気の流れは、生物の肉眼で捉えるのが困難だからだ。



 ****



 「ひ、ひいいいいい!」


 「…ちっ!」


 瞬く間に阿鼻叫喚の地獄となった戦場を後方で眺めていた2人、すなわち隊長のクリストフと雇い主のオルデンブルク伯爵は対照的な行動を取る。


 ただ恐怖に立ちすくむ伯爵と、不利を悟り馬で逃走を図る傭兵だ。


 腐っても傭兵、生き残るためだけの判断力だけはすばらしいと言える。




 だが、もう遅い。


 「何…!?」


 【風脚】かざあしの対象を自らに指定して、一瞬でクリストフの側面に回り込んだ。


 「た、助け…」


 「おせえよ」


 【風切】かざきりで、傭兵隊長の命乞いを中断させる。


 乗っていた馬だけが街道を走り、消えていった。



 このスキルはタネがばれちゃあ敵に警戒されちまう。


 だから、見られたからには生かすわけにはいかない。




 それが、オレなりの覚悟だ。



 「ひ…なんだこいつ…化け物だあああ!」


 「お、俺たちゃ金で雇われただけなんだああああ!命はとらないでくれええ!」


 残りの雑魚たちに対して、特に感情は湧かない。


 ただー、





 (全部終わったら、またエミーリアのおっぱいに顔を埋めてえな…)


 終わった後のことを考えるだけであった。



 



 あとがき


 本日はここまでです!

 新人賞に応募する関係上しばらく1日2話連続更新が続きます。

 今後もエッチで面白い展開を目指しますので、少しでも「面白い!」と思った方はフォロー・感想・いいね・レビュー・☆などよろしくお願いします^_^

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る