第5話 なぜ乳母はおっぱいを押し付けるのか

 ぽよん。


 「あっ…」


 ぽふん。


 「くっ…」


 むぎゅっ。


 「ひうん…」


 何してるんだって?


 風車を復活させたお礼として入手した鹿毛の牝馬ひんば(つまり女の子だな)、名付けて【ユルゲン号】で移動してるのさ。


 背後にはエミーリアを乗せているわけだが、長年世話になったメイド服の28歳乳母(処女)はオレの背中に手を回し、ぎゅっとしがみついてる。


 つまり…分かるだろ?


 【ユルゲン号】が道を走るたびにぶるぶると振動が走って、ってことだ。


 「ユルゲンさま。エミーリアの胸で…【神風】かみかぜスキルの力を…ひゃん…蓄えられていますか?」


 「も、もちろんだ。エミーリアのおっぱいは天下一品!消費した力もすぐ戻るってもんよ!」


 「ユルゲンさまを…動揺させてしまい…面目…ない…です。あんっ…」


「心配するな!エミーリアはオレの母とも言える存在。乱れた姿を見ても愛おしいと思うだけだ!はははははは…!」






 ウソです。

 めちゃくちゃ興奮してます。


 朝の件も含めて天地開闢てんちかいびゃくしそうです。


 処女の歳上乳母が可愛すぎて辛い件について。


 ぷるんっ!

 

 「あっ…すみません。また、メイド服が、はだけてしまいました」


 「おうふ」


 とりあえず、メイド服の素材は変えた方がいいのかもしれない。


 

 ****


  

 「きょ、今日はここらあたりで野宿するとしよう」

  

 【神風】かみかぜを発動するための力も溜まってきたので、とある湖のほとりで馬を止める。


 「はぁ…はぁ…そうですね。夜も暗くなってきました」


 「悪かったな。本来ならオレが後ろ、前にエミーリアを載せるべきなのに。馬の後ろはガタガタと揺れただろう」


 「良いのです。エミーリアは、ユルゲンさまをお支えすることに無上の喜びを感じます」


 「…そうか、いつもすまないな」


 ふう。


 なんとか今日も耐え切った。


 最後、顔を上気させながら聖女のような笑みを浮かべるエミーリアにドキリとさせられたが、我慢できたぞ。


 「さ、今日も飯にしよう。【風脚】かざあし!」


 オレは右手に力を集め、新たな技を発動する。


 本来は風速を意味する単語だが、オレにとっては人やモノを風で包み込んで移動させる風魔法だ。


 今回の目標は、湖に潜む魚。


 放った風を湖面を抉るように滑らせ、手応えのある部分を探す。




 大物発見。


 「よしっ!2匹同時だ」


 「流石です!ユルゲンさま」


 空中に浮かぶピチピチの魚を見て、エミーリアは袖をまくり上げた。


 「今日は鍋にいたしましょう。農家の方から鶏肉や野菜をいただいておりますし。きっと、美味しいですよ」


 エミーリアは袖をまくり上げ、ポシェットから料理道具を取り出していった。



 ****



 「ユルゲンさま。あーん」


 というわけで数十分後。


 新鮮な鶏肉と魚と野菜を椿油で煎るリューゲン島の郷土料理、【リューゲン鍋】は完成した。


 リューゲン島にいたときはひたすら食っていたおふくろの味。


 素材の旨みか染み出したスープの匂いがぷうんと漂い、1日中粗末なものしか食べてないオレは腹がぐうと鳴る。


 いたただきまーす!と言いたいところだが、オレはちょっとだけ躊躇した。


 「あ、あのなエミーリア。オレも15だし、さすがに女性にあーんしてもらいながら食べるというのはだな…」


 「嫌、ですか?…」


 はいその瞳をうるうるさせながら上目遣いするの反則!


 「…いただきます」


 観念したオレは、エミーリアから促されるまま、ごろごろとした鶏肉、魚の塊、しんなりした野菜が載せられた木のスプーンを口に含む。


 口いっぱいに広がる滋味が、懐かしい記憶を呼び起こした。


 「うん、うまい。リューゲン島であなたと食べたときの味そのままだ」


 「嬉しいです。いつか島に帰る時が来るかもしれないと思い、ユルゲンさまに与えていた料理は、常に腕を磨いております」


 「もう、5年にもなるのだな。島を離れてから」


 「時が経つのは早いものです。ユルゲンさまと島の自然の中で過ごした日々が、懐かしい…」


 「子供のころは、よく島中を駆けまわって、あなたを困らせたものだ。迷惑をかけたな」


 「迷惑だなんて…とんでもありません。ただただ、あの時は幸せでありました」


 その後は、沈黙が流れる。


 「ふぅ…ふぅ…はふ」


 エミーリアがオレに【リューゲン鍋】を与えるとき、小さな口で食材を冷ます音が響くだけだ。


 その音を心地よく感じながら、オレは乳母との二人きりの夜をまったり過ごす。


 こんな日々をずっと過ごせたら、幸せなんだがなぁ。





 その時、いつものように張り巡らせた風の監視網、【風震かざぶるし】が侵入者を探知する。


 【風震】かざぶるしも本来は 風邪をひいて寒気を覚えるという言葉だが…以下略。


 【神風】かみかぜに関連するスキルの名前はみんなそんな感じだ。


 とにかくはっきりしているのは、地面を漂う大気を押しのけ、複数の足が荒々しく踏み込んでくるということ。


 おそらく騎乗兵が数十人。




 「ユルゲンさま」


 「ああ…やっと来たというところだな」


 オレはおっぱいとスカートとパンツの間から短剣を抜いたエミーリアと共に立ち上がる。




 「アルバンの寄越した刺客の顔を拝むとしよう」

 

 


 


 

  

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