第2話 3者3おっぱい

「ユルゲンさま。顔色が悪いですよ。エミーリアの母乳おちちを、お召し上がりになりますか?」


 山道を超えて質素な屋敷に帰ると、心配そうな表情を浮かべたエミーリア・アーリンゲが、少しおっぱいを揺らしながら出迎えに上がる。


 彼女は…つまるところってやつだ。


 冒険譚によくいる可愛いヒロインだな。


 いや、ヒロインつーか母ちゃんだけど。


 子供の頃から母乳が出ると言う先天的な奇病を持っており、親父から託された赤ん坊のオレに母乳をあげ、母親代わりとして世話をしてくれた。


 ぷるるるんっ!


 「あっ…すみません。また胸元がはだけてしまいました」


 リボンでまとめた宝石のように輝く白い髪と、しょっちゅうメイド服を破壊するほど弾力のあるおっぱいは、昔から変わらない。


 大人として成熟しつつ若々しさも兼ね備えた全盛期のおっぱいは、赤ん坊の頃毎日吸った母の味。

 すなわち、というかそのまんま【母なる乳】ミルキーはママの味とでも言うべきか。


 まだ少女だった13歳の頃からオレに関わっており、オレが15歳となった今では丁度28歳。


 その関係をあからさまに明かすわけにはいかないので、今はメイド兼補佐役としてオレに仕えており、片時も離れたことはない。


 気をつかってやんわり「友人ぐらいはもってもいいんじゃ…」と進めたこともあるが「ユルゲンさまはエミーリアをお嫌いになりましたか…?」と瞳をうるうるさせたので、それ以降は何も言わなかった。


 「確かに、エミーリアの母乳は非常に魅力的だ!」


 「まあ、嬉しいです!では早速…」


 はだけた胸を隠している右手をどけようとしたエミーリアの頭をそっと撫でる。


 「と言いたいが、残念ながらその時間はなさそうだ。ここを出る」


 「そうですか。やはり、そうなさるのですね…」


 「驚かないのか?」


 「このエミーリア、宮殿で流れる情報は可能な限り集めておりましたが、ユルゲンさまへの冷遇はもはや許すことができません」


 「エミーリアが味方でいてくれたら充分さ。デブデブ兄貴やしわしわ貴族の相手はもううんざり。ここからは好きにやらせてもらう」


 「ふふふ…その口の悪さ、昔のユルゲンさまを思い出します」

 

 新緑しんりょく色の瞳を輝かせ、エミーリアはテキパキと家財道具をまとめ始める。


 「仕方ありません。ユルゲンさまに母乳おちちを召し上がっていただくのはまたの機会としましょう」


 「お、おう」




 …言っておくが、この乳母は常に本気である。



 ****

 

 

 「お、弟くん!ケムニッツから離れるって本当なの?」


 どしーん!


 どしーん!!


 どしーん!!!


 【進撃の巨乳】アタック・オン・おっぱい、じゃなかった、23歳の義姉のリンダ・ドナートが屋敷を訪れたのは、ちょうど床の雑巾掛けまで終えた頃だった。


 要するに、親父の長女だな。


 白いロングドレスにコルセットという貴族然とした服装に、茶髪のロングヘア。


 出会う人みんな友人にしてしまうと言われるほどの柔和な笑み。


 そしてー、


 「あ、義姉上。そろそろご挨拶に行こうと…」


 「私弟くんと離れたくないよぉぉぉぉぉっ!」


 「むご!?(うわ!?)」


 「嘘だって言ってぇぇぇぇぇぇ!」


 「む、うむむごむご…ぐむ。べぼびばばばべ(い、息ができない…死ぬ…でも幸せ…)」


 オレの顔面を毎度サンドイッチして、窒息死寸前にさせるほどの巨乳。


 「あ、ごめん!私ったら」


 「だ、大丈夫です義姉上。オレもしばらくあなたと会えなくなるのは寂しいですが、もう、決めました」


 「そっか。行っちゃうんだね、リューゲン島へ…」


 アルバンや保守的な重臣にやっかみを受けて孤立することも多かったオレに対し、親父以外で唯一味方になってくれたのがリンダだった。


 限られたものだけが利用できるケムニッツ大図書館への入館許可証も、何度も断られ続けた戦士育成学校への入学も、この人のおかげで実現できた。


 だからこそ、リューゲン島へ行っておっぱい…じゃなかった、いずれ島をエルデネト帝国の侵略から守る任に就きたいことも話している。


 まったく、アルバンの代わりにリンダが国王になればよかったのに。


 そうすれば、オレも昼寝ができただろう。


 「ここにいたら弟くんの才能も輝かないし、仕方ないよね…」


 リンダはオレの頬にそっと手を触れる。

 

 日光に長年照らされてきたことによってできた赤ら顔。

 これを愛おしく触ってくれるのは、エミーリアとエンダと、だけだ。


 「5年前に会った時はほんの子供だと思ってたのに、懐かしいなぁ」


 「義姉上は、ちっとも変わっておりません。泣き虫なところも。おっぱいはだいぶ大きくなりましたがね」


 「ぐすっ…もう、弟くんは、お姉ちゃん泣かせなんだから」


 リンダは文字をぱちんと鳴らすと、屋敷の木の床の一角からみるみる草が生え、ピンク色の花を一輪咲かせる。


 大地を操る土魔法のスキル【大地創造】の使い手にして、100年に1度の逸材と言われる彼女ならではの芸当だ。


 それをそっと土ごと摘み、オレに渡した。


 「スイートピーの花、ですね。美しい」


 「魔法で加工したからしばらくは枯れないの。リューゲン島に着いたら、植えてあげてね」


 「はい、必ず」


 「…」


 「…」


 「うわあああああんっ!やっぱり寂しいよぉぉぉぉぉぉ!」


 「むごおおおおおあっ!(やっぱりかあああああっ!)」


 ちょっぴり流した涙は、リンダのおっぱいの間を流れて消えていった。

 


 ****



 散々俺を【進撃の巨乳】アタック・オン・おっぱいで抱擁したあと、リンダはオレに置き土産をいくつか渡して帰っていった。


 リューゲン島にたどり着くには充分すぎるほどの旅費。


 検問所の通過や川を渡る時に役立つ通行証明書。


 そして、毎月書くようオレに約束させた手紙の便箋。


 何の地位も無くなったオレにここまでしてくれるのが、心に沁みた。


 その他準備も諸々終わらせ、エミーリアと遅い夕食を取ると、すでに深夜となる。


 出発予定の早朝まで、少し間があった。


 「最後だし、屋敷のベッドで一眠りするか」


 「お供いたします」


 「ああ。それに、きちんと話しておかないとな」

   

 エミーリアと共に、2人で寝室に入る。











 シーツをめくると、そこは小悪魔系おっぱいでした。


 「せーんぱいっ♡」


 シーツの中に潜んでいた小柄な少女が、オレに抱きついてきたのだ。


 ふにゅにゅにゅにゅん…


 服の上から感じるおっぱいの大きさは、さほどない。


 むしろ小さいレベルであるが、だからこそ精一杯オレの胸に擦りこすり付けて存在をアピールしてくる。


 「もう、ずっと待ってたんですよ先輩♡アメリー、シーツに残る先輩の残り香をスンスンしてオ…あたっ!」


 自然にキスまで持ち込もうとした侵入者をデコピンで牽制けんせいする。


 「ったく!潜入するなら一言かけろって言っただろ」


 「にひひ、先輩を驚かせるのがアメリーの生きがいですから♡」


 「屋敷に帰った時からお前の気配はとっくにお見通しだ!」

 

 「さっすがぁ♡」


 14歳のアメリー・ハーゲンベックは、先日の【ジャイアントオーク】討伐までろくに軍の指揮権を与えられなかったオレにずっと付いてきてくれた、戦場での相棒。


 金髪のツインテールに黒のミニスカートと一見戦闘能力はなさそうだが、弓を取らせれば天下一品。


 頑健な【アイアンゴーレム】の肉体も一撃で破壊する武具【天の弓】の使い手であり、あらゆる状況での狙撃を確実に成功させている。


 どんな敵に対しても血の雨を降らせることから、【薔薇の弓兵】として恐れられる存在だ。




 …オレにとっては、隙あらば屋敷に忍び込んで貧乳を押し付けてくる厄介な妹分のような存在だが。


 ー今のうちに、貧乳の素晴らしさを先輩に知ってもらいませんとね♡


 人呼んで【潜乳工作員】おっぱい・スネークである。




 「お前ならすでに知っていると思うが、早朝ケムニッツから出ることにした。理由は、前々から話している通りだ。しばし別れるのは寂しいがー」


 「…1つ、先輩に提案したいことがあるんです」


 「提案?」


 アメリーは背中の矢筒から矢を一本取り出し、ゆっくりと弓につがえる。


 そして、にやりと笑った。




 「クーデターしましょ♡」

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