11/10-3
「弊社内では、かなり昔から、まことしやかに語られている噂があるのです。
それは、こちらの会社と弊社、そして鈴木栄治郎役員との関連性についてです」
「鈴木栄治郎?」
「ええ、御社の代表取締役である鈴木栄治郎氏が、弊社で役員をされているのは、もちろんご存知ですよね。
そしてこちらの会社は、鈴木栄治郎氏が100%株式を取得されていて、実質、御社は鈴木栄治郎氏の所有物である…」
「その通りだ」
「それを踏まえまして弊社の株主、役員構成は、上位のほとんどを鈴木一族が保持していることもご存知でしょうか」
「だろうな、本店は元をたどれば、鈴木一族が成したものだし、上場しているとはいえ、鈴木一族が支配していることに間違いはないだろう」
「ええそうです、そして現場レベルとは別に、やがてそういった支配階級でも人事交代は起きます。
そして…その遠くない未来、いつか弊社を導くトップとして君臨するのは、鈴木栄治郎氏なのではないかと言われているのです」
「はあ!?」
日本国内でその名を知らない者はいないほどの大企業…いわゆる本店を将来的に仕切ることになるのが、犬彦がよーく知っているあの栄治郎かもしれないと聞かされて、めずらしく赤間部長は大声を出してしまった。
(わっ部長がでっかい声出した! レアだ!)
滅多に見ることができない犬彦らしくないリアクションに、それをさせている森田は内心ドキドキわくわくしながら、話を続ける。
「それだけ鈴木栄治郎役員の人望は厚いのです、これはほぼ決定事項と捉えられています。
そういったわけで…皆は想像するのです。
こちらのみなさんは弊社のことを『本店』と呼ぶ方が多いと思われますが、それはおかしいと思いませんか?
なぜなら、先ほど部長がおっしゃられていた通り、表向きでは、御社と弊社には何のつながりもないのですから。
たったひとつ、鈴木栄治郎役員の存在を除いては…」
そこまで話されたとき、犬彦はなんだか頭痛がしてきた気がして、そっと頭に手をあてた。
段々と話の全容が見えてきたからだ。
「弊社では、鈴木栄治郎氏が個人的に所有しているこの会社のことを、彼のためのファームだと考えている者が多いのです。
つまり来るべきときのために、鈴木役員は、自分にとって使い勝手のいい優秀な手駒を育成しているのだと。
そして、鈴木役員が弊社のトップに就任した際に、こちらの会社を弊社に吸収させて融合し、信頼における精鋭社員たちをあらゆる重要な部署へ配置させることで、そうして社内を統括するのだと、そう考えているのです」
「なるほど…君たちは、この俺こそが鈴木栄治郎の一番の飼い犬として、重要なポジションに置かれるだろうと、そう懸念しているわけか…理解した」
刺々しさの含まれた赤間部長の自虐的な言い方に、そんな飼い犬だなんて…と、おろおろする森田はもう犬彦の眼中にはなく、これまでにないほど犬彦の周囲には、怒りのドス黒いオーラがほとばしりまくっていた。
そうかそうか、…そういうことか…。
つまりここ最近の面倒事の元凶は、すべて栄治のせいってことなんだな…。
一日中森田くんに付け回されて仕事のペースを崩されたのも、杉元さんを筆頭に女性社員たちが暴動を起こして(今朝、犬彦は菓子折りを持って、経理部まで杉元さんへ謝りに行った)ややこしいことになったのも、俺の残業が増えて江蓮にさみしい思いをさせているのも、全部…あのクソデブ野郎のせいだったんだな!!
「ぶっ部長!?」
例え霊感ゼロの人間でも、ものすごい悪霊と遭遇したら、なんとなく気配を感じることができるのと同じなのか、全身に怒りのオーラをまとった犬彦の何とも言えない威圧感に、森田は怯えたような声を出して、後ずさった。
そんな森田へ、ちらりと視線をやってから赤間部長は、なんとか栄治郎への怒りをこらえつつ、ゆっくりとした声でこう尋ねる。
「…それで、俺の人事評価表とやらは、完成したのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます