15-19
しゃべっているうちに妙に客観的になってきた俺は、自分の言う話の内容がいかにもウソっぽいというか、現実に起きたこととは思えない話だよな…と感じてきてしまった。
だって考えてみてほしい。
松林をうろついていたら、とつぜん黒猫が現れて、俺についてこいと言う。
黒猫に導かれるがままに歩いていたら、獣道があって、そこを進んでいくと、木々のあいだにポツンと広場が見え、そのど真ん中に『仮面の亡霊』が立っていた。
…なんて話を、もし自分が別の人からされたら、作り話じゃないかとまでは思わなくても、えっこの人なに言ってんだろ…って、ちょっと引いちゃうかもしれない。
出来すぎた話すぎる。
冷静になって考えてみれば、あのシチュエーションは一体何なんだ?
猫彦さんはなぜ、俺をあの場所へ連れていったんだ?
こうして考えてみると、猫彦さんは俺に『仮面の亡霊』と会わようとしていたように感じる。
なぜ?
猫彦さんは『仮面の亡霊』を知っているのか?
そして『仮面の亡霊』は、なぜ、…まるで俺のことを待っていたみたいに、あの場所にいたんだ?
烏羽玉島の大人たちは皆、集会に出席しているはず。
あんな場所でボーッと突っ立っている人なんかいないはずだ。
あの『仮面の亡霊』は誰だ?
あいつは、俺に用があって、猫彦さんにここまで俺を連れてこいと指示したんだろうか。
あの『仮面の亡霊』は、神なのか人間なのか?
『仮面の亡霊』の中身が人間であるのだとしたら、今回の出来事は、事件の解決において何か大きな意味をもつのだろう。
俺は、殺人者に出会ってしまった、ということになるのかもしれない。
あるいは仮に、あの『仮面の亡霊』が、本物の『御霊さま』だったとしたら、さっきのあれは、俺の人生初の心霊体験ということになって、どっちにしても大きな出来事であることに変わりはない。
ザクロのおばあちゃんの家で感じた視線と、神社でも感じた視線、そしてさっき見た『仮面の亡霊』…これらはすべて、同一人物によるものなのだろうか。
だとしたら、『仮面の亡霊』は、なぜ俺のことを…。
「なるほどな」
そんな自分でも胡散臭いと思えるような話を、樹雨くんは黙って最後まで聞いてくれた。
もっと、マジかよー信じらんねー、とか言って怪しんだり、バカにしてからかってくれてもよかったのに、樹雨くんは真面目な姿勢のまま、真剣に俺の話に耳を傾けてくれたのだった。
「おまえの話を聞く限り、たぶんその場所は、もう長岡家の敷地じゃない。
そこは、御霊さまの神社の敷地内だと思う。
その斜面を、もっとずっと上っていくと、そのうち神社に着くはずだ。
つまり前にも言ったと思うけど、そこは御霊さまのホーム内ってことになるから、御霊さまがうろちょろしてたって不思議じゃないってことになる。
ジジイが自分ちの庭の外れで、ぼーっと立ってたら、野良猫のケツを追ってやってきたおまえと偶然カチ合った、っていう、ただそれだけじゃん。
マジで気にすることねーよ。
つーか、松林の奥にそんな場所があったんだな、知らなかった。
オレもたまに、松林の奥を歩いている御霊さまの姿を見るけどさ、ぶっちゃけ御霊さまがどっから来てるのかはさっぱり分からなかったんだ。
もしかしたらそのちっせえ広場とやらを中継地にして、もっと上の神社の方から、すべり下りてきてんのかもしれねー。
着物姿のくせに、けっこうアクティブだよな、御霊さまって」
「…ねえ樹雨くん、俺、思っちゃったんだけど、さっき御霊さまはたぶん足が遅いから、もし追いかけてこられてもダッシュで撒けるって言ってたよね。
でもさ、御霊さまって神さまなわけだから、…ワープができるって可能性ないかな?」
「ワープ…マジか」
「もし御霊さまに空間移動のスキルがあったら、いつどこで突然現れるかわかんないよ! あの広場に現れたときもワープを使ったのかも! 樹雨くんがこれまでに御霊さまがどこから長岡家の庭に現れるのか分からなかったのも、ワープを使っていたからだとしたら?」
もしここに茜さんがいて、こんな俺の仮説を聞いたら、「おいおい江蓮君、正気でそんなことを言っているのか?」なんて言われそうだけど、そんなのどうでもいい。
この感覚は、実際に体験した者じゃないと分からないんだ!
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