15-14
ガチで烏羽玉島っていうのは、ファンタジーの世界に属する場所なのかもしれない。
まさか、ネコに先導されて、どこかへ案内される日がくるなんて…。
猫彦さんは、俺をどこへ連れていこうとしているんだろう?
樹雨くんはさっき、猫彦さんのほかにも、ミケや、白のブチ猫が松林にいたって言ってたよな、…もしかして、ネコがたくさん集まっている秘密の場所とかに連れてってくれるのかな? やべぇそんなのパラダイスじゃん!
そんな期待に胸を膨らませながら、ただ前を歩く猫彦さんをみつめながら歩いていく。
しばらくそうして順調に道を歩いていたんだけど、いきなり猫彦さんはコースを外れて、とても道とは呼べないくらい細い、松と松のあいだの隙間を進もうとした。
思わずギョッとして、俺は足を止めてしまう。
「猫彦さん…ここ、行かなきゃダメですか?」
俺がそう尋ねると、猫彦さんは歩きながらこっちを向いて「にゃお!」と短く鳴いた。
…行かなくちゃダメらしい。
するすると猫彦さんはどんどん先に進んでしまう。
その隙間はよく見ると獣道のようで、歩くためのラインのようなものが地面に延びているのが分かる。
方向的にも、道の幅的にも、周囲のうっそうとした感じからしても、日常的に人間は使っていなそうだけど。
まあ、猫彦さんからしたら、ここは立派な歩道なんだろうな。
松と松の隙間に、体をすべりこませるようにして、俺も猫彦さんの後を追う。
よりにもよって、その道は上り坂だった。
周囲は雑草もすごいし、土道で砂利もごろごろしてるので、足をすべらせないように気をつけながら、松の幹に手をかけつつ、必死に猫彦さんの後を追いかけて、上っていく。
ああ、俺、なんでこんなとこでファイト一発やってるんだろう?
そんな疑問も頭によぎったが、誰も人間がいないのをいいことに「猫彦さぁーん! おいてかないで猫彦さぁぁーん!」とか、猫彦さんの名前を連呼しながら、獣道を這い上がっていった。
名前を呼ぶと、ちゃんと「にゃあん」って返事してくれる猫彦さんがかわいくて。
だから、なんだかんだ言っても楽しみながら、俺は猫彦さんを追いかけていた。
そんな「猫彦さん!」「にゃあん」のやりとりを続けていると、やがて先を行く猫彦さんの姿がフッと見えなくなった。
どうやら道の先に、開けた平らな場所があるみたいだ。
やっとこのワイルドな獣道から解放される…と思って、俺も息をつきながら上りきった。
ついに、烏羽玉島のネコたちが集まる伝説のパラダイスにたどり着いたのかと思って、そこにいるはずの猫彦さんのほうへ視線をやった。
「はぁはぁ、やっとゴールなんですか、猫彦さん…」
足元が悪かったので、ずっと下を見ていた顔を上げる。
視線の先には、猫彦さんがいるはずだった。
だけどそこに猫彦さんはいない。
代わりに、人がいた。
…え?
見ている光景と、自分の思考が追いつかない。
獣道をのぼりきった俺が立っているのは、周りを木々に囲まれた中に、ぽっかりとひらけた小さな広場だった。
マンションなんかの近くにある、申し訳程度のちいさなショボい公園、それくらいのスペースの広場だ。
広場といっても、ただ、このスペースには木々が生えていないだけというもので、背の高い雑草がたくさん茂っているし、じめじめと薄暗く、そして気味の悪い場所だ。
動物はとにかくとしても、この場所は、普段から人が出入りしているような雰囲気は一切感じられない。
ここは、とてもじゃないけど、人間のいるべき場所じゃない。
それなのに、人がいる。
ちょうど広場の真ん中に、雑草に囲まれるような形で、ただ静かに立っている。
すらりと背は高く、うつむくようにして立っているその人物は、頭から…白い布を被っていた。
白い布に全身を覆われて、午後の弱い日の光を浴びているその姿は、非現実的にぼやけて見えた。
そんな人物の姿から目が離せないまま、俺は息をすることも、思考をすることも忘れてしまっていた。
時間が止まってしまったかのように、俺も、その白い人影も、ぴくりとも動かなかった。
そんな状況が、何秒…何分続いたのかは分からない。
ふいにその白い人影が、ここでやっと俺の存在に気がついたかのように、俺にむかって、ずっとうつむいていた頭を、ゆっくりと上げはじめたのだ。
その光景を、俺はバカみたいにただ眺めていた。
まるでスローモーションみたいに感じられた、そっとこちらにむかって上げられる顔には、仮面が…。
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