15-12
友だちっていうと、どうしても学校で知り合うやつらがメインになる。
自分と似たようなライフスタイルをしていて、身近な場所に住んでいる同年代のやつら…まあ、それが誰にとっても当然なのかもしれないけど。
だから、友だちの友だちは、自分も知ってる友だち、なんてことは当たり前なわけで。
でも、樹雨くんは、ほかの友だち連中とは何のつながりもない、俺だけの友だちだ。
遠い場所に暮らしていて、東京に住んでいる俺とは、ちょっと価値観も違う。
たまたま不思議な縁で知り合った、特別な友だち。
なんかそういう、日常とは切り離された感のある、特別な友だちが新しくできて、そしてどんどん仲良くなれるっていうのは、ものすごくうれしいことだった。
そんなことを考えて、うきうきしながら俺はひとり廊下を歩く。
そのうちに、さっきまで驟雨さんといた客間が見えてきた。
玄関へ向かうには、客間の前を通過することになるので、そこを通りすぎるまえに、ちらりと様子をうかがってみた。
もし驟雨さんがいたら、外に出るまえに一言声をかけておこうかと思ったからだ。
ほどよく客間の障子が開いていたので、廊下に立ったまま、その隙間から中の様子を見てみると…。
やはり驟雨さんは客間にいた。
さっき、用事ができたら呼んでください、僕はここで待っています、って驟雨さん言ってくれてたし、そうだよね。
驟雨さんは先ほどまでと同じく、テーブルの前で座布団のうえに座っていた。
腕を組み、やや前傾姿勢で目を閉じ、ぴくりとも動かず、なんだか眠っているようだった。
あるいは深い考えごとにふけっているようにも見える。
とにかく驟雨さんは、廊下に立っている俺には気がついていないみたいだ。
そして眠っているにしても、考えごとをしているとしても、邪魔はしないほうがよさそうだと判断した俺は、声をかけることは止めて、そのまま玄関に向かって、そっと廊下を進んでいった。
そして玄関から、外へと出る。
昼にくらべるとやや日が陰ってきたせいか、すこし風が肌寒いけれど、やはり海が近いだけあって空気が気持ちいい。
そのまま俺はぶらぶらと庭を歩きはじめる。
方向的には、松林のほうにむかって。
だけど急いでいるわけではないので、長岡家の日本庭園をしげしげと眺めながら進んだ。
神社とかにありそうな立派な大木や、俺がよく知らない花、これまでに見たことがないトゲトゲした形の葉っぱをした植木とか、そんなものを眺めながら、もしここに犬彦さんがいたら、こんな不思議な草木の名前もやっぱり犬彦さんは知っていて、俺にこれはどうとかああだとか、いろいろ教えてくれたんだろうか、なんてぼんやり考えながら。
そうやって気ままに散歩を楽しんでいたら、だんだんと松林が見えてきた。
樹雨くんいわく、ネコのでかい公衆便所だという、このエリア。
どこか木々の後ろにでもネコはいないだろうかと、俺は辺りをきょろきょろしながら、ゆっくりと松林のなかに突入していく。
松林のなかは、背の高い松の枝葉が屋根のようになって天からの日の光をまだらに遮り、地上のところどころに暗い木陰の染みを作っている。
それまでの芝生が広がる開放的な日本庭園にくらべると、空気もどことなく一段と寒く感じられた。
樹雨くんが言っていた通り、周囲に人影はまったくない。
松林はシンと静まり返っていて、何の生きものの気配も感じられなかった。
鳥の鳴き声さえも聞こえない。
どこまでも続いているかのように感じてしまうほど奥行きのある、薄暗い松林のなかに一人でいると、世界中に人間はもう自分しかいないんじゃないか…なんて思えてくるくらい孤独な気持ちになってきた。
はあ…初めてきたときは樹雨くんがいっしょだったから、あんまり何とも思わなかったけど、この松林もなかなか不気味だよな…夜とかぜったい一人じゃこれないや、ここ。
もうすぐ夕方だし、こんなに薄暗くて肌寒いんじゃ、ネコはいたりしないよなぁ…。
そう考えた俺は、猫彦さんに出会えるかもしれないという期待を捨てて、屋敷の方へ戻ろうかと踵を返そうとする。
そのとき…奇跡が起きた。
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