2-7

 

 まー占い師もさぁ、けっこうズバズバと、こっちにダメ出ししてくること、あるんだよ。


 あなたは自己中心的なところがあるから、もっと他人を思いやったほうがいいだとか、話し方に説得力はあるけど、一方的になりやすいから気をつけろとかさぁ。


 これ、マジで言われたことあるんだよオレ、なんだよそれ、笑っちゃうでしょ?」



 「……」



 すごい、占い当たってる。

 ちゃんと茜さんの本質を、ピンポイントで言い当てている。


 そう思ったけれど、空気をよんで俺は黙っていた。



 「でさ、いくらそれが人の相談にのるプロであっても、他人からそんなふうに言われると、普通はイラッとくるもんだ。

 ちょこっとは自分でも思い当たる所があったとしてもね。


 なんでテメーにそんなこと言われなくちゃならねーんだよ、って言い返したくなるところだけどね、占い師が上手いのはココなんだよ。


 『占いの結果、そのような暗示がでています』と、占い師は説明するわけだ。


 オレに対するダメ出しは、結局のところ占い師の経験からなる、客観的なアドバイスにすぎないはずなんだ。

 だけども、それを自分個人の意見として発言しているのではない、占いにそう現れているから口に出しているだけ、という言い方をする。


 つまり、アドバイスの出どころを、『占いの結果』という未知なるものに、押し付ける。


 そうすると相談者は、『占いの結果』そういう暗示があるのなら、自分へのダメ出しは正当なものなのかもしれないと、割と冷静に受け入れることができる。


 ね、占いとは、上手くできてる相談システムだと思わないか?」



 「ええ、まあ…。

 つまり、まとめると、こういうことでしょうか。


 『占いの結果』という便利な言葉を盾にして、相談者にとって有意義なダメ出しをする、それが占いの本質。


 しかし実際は、不可思議な力に頼ってアドバイスをしているのではなくて、占い師本人の、コールドリーディングなどの話術と、これまでの経験から得た統計的な知識から、それは行われている。


 だからこそ、占い師からのアドバイスには客観性がある。

 客観性があるからこそ、そのアドバイスには価値があり、自分の真の姿を映す鏡として使用することができる。


 それが占いの確実なメリットだと、茜さんは考えているんですね?」

 

 

 「オレ的にはね。

 だけど一般的な対人占いのメリットって言うなら、やっぱり、グチを聞いてもらう、ってとこにあるんだと思うよ。


 なんだかんだ言ってもさー、何かに悩んでいる状態ってのは、ストレスが溜まっているわけで、それを他人に聞いてもらえば、大方スッキリするもんなんだよね。


 でも他人のグチってのは、友達や家族であっても、聞かされる側はウンザリするよね。

 聞いてても、いい気持ちはしないし。


 そんなわけで、知り合いにグチってのは言いづらい。

 それに話す相手を間違えれば、そいつが別のヤツに言いふらしたりして、また新しいトラブルが起こるリスクもありえる。


 だけど占い師なら、そんな心配はゼロだ。


 プロだから、相談者の守秘義務を徹底するのは当たり前だし、そもそも共通の知り合いなんていないから、言いふらされる不安はない。

 どんな長いグチだって、金さえ払えば延々と聞いてくれる。


 誰かにグチを聞いて欲しいって思うのは、やっぱりおしゃべり好きな女性だね。

 だから女性は占いが好きな人が多いのさ。


 さあ、これで占いに関するオレの講義はおしまいだ。


 ではワトソン君。

 仮説が立ったのならば、オレ達が次にやることは一つだね」



 ついに地下へと続く階段を下りきった。

 地下一階、そこには『占いの館』と書かれた看板を掲げた、さらに奥へと進むための、ごくごく普通のガラス扉があった。


 茜さんは、そのガラス扉に付けられた真鍮のドアハンドルに手をかける。



 「さっそく検証実験といこうじゃないか。


 ここまでにオレが説明したことを踏まえて、君自身の目で、占いとは、実際にはどんなものであるのかを確かめてくれよ」



 その後ろに続いて、扉の前までやってきた俺の方を振り返ると、茜さんはニヤリと笑った。


 そして茜さんは『占いの館』へと続く扉をひらいた。

 

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