2-6
「訴えられたりしませんってば!
じゃあ、ほんと例えばですけど、そうですね…犬彦さんとケンカなんかした場合には、って考えたら…うーん、友達に相談しようかな…?」
「オレとか?」
「えっ! 茜さんですか?
…それはちょっと…」
「おいおい、露骨にイヤそうな顔しないでよ。
でも、まーそうだろうね。
つうか、オレじゃなくても、同い年のクラスメイトの友達が相手の場合でもさ、君と君のお兄さんのケンカについての相談って、しづらいんじゃないかな?」
「そ、そんなことは…」
「ではシュミレーションしてみようか。
君と君のお兄さんが、なぜケンカすることになったのか、その理由は置いといてさ、君の言い分を聞いた君の友達が、そりゃあ江蓮君が悪いよって、一方的に決めつけてきたら、腹が立たないか?」
「うぅーん…そうかもしれません。
友人からドヤ顔されながら、そんなふうに言われたら、犬彦さんじゃないですけど反射的に殴っちゃいそうです。
だってですね、もちろん俺が悪いときだってあるんですよ、それは自分でもわかってます、だけど犬彦さんにだって理不尽なところがあって…」
「ちょっと待って、江蓮君、これはただのシュミレーションなんだから、マジで過去のケンカを思い出してヒートアップしないでくれよ。
まーまー落ち着いて。
じゃあ、逆にだよ、相談した友達が君の話をきいてさ、江蓮君はなにも悪くない、悪いのは君のお兄さんの方だ、君んちのお兄さんはおかしいよ、って言ってきたらどう思う?」
「…ムカつきますね。
犬彦さんが悪かったとしても、お前にそんなこと言われたくない、と思います」
「でしょー? そうなんだよ。
結局、身近な人間っていうのは、大小の違いはあれど利害関係が発生するし、100%客観視なんかしてもらえない、こちらもすることはできないんだよ。
どうしても感情が入ってしまう。
そのせいで、素直にそのアドバイスを受け入れることが難しい。
だからこそ、そんな時は占い師に相談すべきなんだ。
自己を映す、客観的な鏡としてね」
「自己を映す、鏡、ですか…?」
「そう、人は絶対に、自分の真の姿を、自分自身の目で見ることができない。
そして、自分が認識している自分の姿と、他人から見て知覚されている自分の姿のあいだには、必ず誤差がある。
だから鏡が必要なのさ。
オレは自分の姿を再確認したくなったとき、占いを使うってわけだよ。
特にさ、客観的に自分が他人からどう見られているのか、ってのを知っておくのは、社会人にとっては大事なことだからね。
オレの場合なんかは、自分の研究を進めるために情報収集が必須だ、いろんな人と会って、上手くコミュニケーションを取らなくちゃいけない、それにはファーストコンタクトの段階で、なんか感じの良さそうな人だな、とか思ってもらわないといけないんだ、じゃないと機密性の高い話は教えてもらえないからね。
それから研究発表の場において、スピーチなんかもする、内容の説得力を上げるためにも、信頼度とかさ、威厳なんかを身につけておきたいのさ。
しかし実際のところ、今のオレから、他人はそれを感じているだろうか。
オレ自身じゃあ、なかなか上手くやってるつもりだけど、やっぱり他人からの意見をきいてみないと本当のところは分からない。
本人は上手に歌っているつもりでも、他人がきけばとんでもない音痴だったなんて、そんな現実と理想の食い違いは、よくある話だからね。
家族や友人に意見をきくのも、もちろんアリだ。
だけどさっきも話したけど、知り合いってのは、どうしても主観が入るからね。
身近すぎると、おおむね評価を下げ気味にしてくるし、むしろディスってくる場合もあって、江蓮君が言っていたように腹が立つ、だからけっこう正しいことを言われても聞く耳を持ちたくなくなる。
でもさ、そんなに親しくない人の場合は、気をつかわれて悪い部分をあえて言ってくれないことがある、言い方もマイルドだったりしてね。
だけど自分が向上するためには、悪い部分こそ知らなくちゃいけないわけで、そこを教えてくれないなら相談しても無意味だね。
だから、赤の他人である占い師の意見をきくことに、意味がある。
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