2-5
「そう、コールドリーディング。
これは話術の一種で、何気ない会話のなかから、相手のことを言い当てる技術を言う。
いろいろなやり方があるんだけれど、簡単なものから例題をひとつ。
例えば、江蓮君。
君、最近、疲れてるんじゃないか?」
地下への階段を下りていく足をピタリと止めると、茜さんはすごく真面目な顔をして、俺の目をみつめながら、突然そう質問してきた。
いきなり、何なんだろう?
俺はどぎまぎしながら、反射的に答えた。
「え? ええ、まあ、そうですね。
疲れてるかもしれません」
俺がそう言ったのと同時に、茜さんはいつもの調子に戻って、ニカッと笑った。
「だろうね。
これが、コールドリーディング。
今、オレは、だいたいの人に当てはまる、あいまいな質問をしただけなんだ。
疲れていないか? と、質問されたら、ほとんどの人が「その通り、疲れている」って答えるだろうね、そんなもんだよ。
それを理解していて、こんな質問をしたんだ。
仮に、「いいえ、疲れてなんかいません」と答えた人がいたとしても、オレはこう言えばいい。
いいや、君は疲れているんだけれど、頑張り屋だから、まだ自覚していないだけなんだ。
これはよくない、倒れてしまうまえに、自分の体を大切に労らなくてはならないよ、と。
…こう言われて、悪い気になるやつはいないだろう。
そうして、こんな誰にでも当てはまる、YESでもNOでも、どちらを答えたとしても話の辻褄を合わせることのできる質問をくり返す、するとだね、君はこう思うわけさ。
どうやら、この人には、自分の真実の姿が見えるらしい。
この人になら、安心して悩みを相談できる、その言葉を信用することができる、ってね」
茜さんの説明をきいて、なるほど、と俺は感心した。
そして感心するのと同時に、茜さんが、本当は何を俺に伝えたがっているのかが、見えかけてきたような気がしていた。
『占い』とは何か、という講義をはじめる前提として、茜さんはこう言っていた。
江蓮君、君はこれから、『呪いとは何か』という謎に挑まなくてはならない。
しかしその前に、『占い』とは何なのかについて考えることは、きっと大きな参考になるだろう、と。
推理をはじめる前の状態である俺に、余計な先入観を与えたくないという理由で、茜さんは『呪い』に対する自身の考えを、明確には俺に話してくれなかった。
俺が『呪い』に関して何か質問しようとすると、茜さんはまさに水の中を泳ぐタコのように
、ヒントをつかもうとするたび、スルスルとかわしてしまう。
しかしよく考えてみれば、今までの、『占い』とは何か、という講義の内容が、間接的なヒントになっているじゃないか…!
茜さんは、『占い』について…そして『呪い』について、こう考えている。
不可思議な力によって引き起こされる、超常的な現象など、存在しない。
その裏には、必ず、人為的な力が隠されているのだ、と。
つまり、『呪い』などという、不思議そうに思える力にも、何らかの明確な原因がある。
そして網代さんを『殺した』のは、呪いの仮面を取り返しにきた亡霊なんかじゃない、地に足を着けた人間なのだ…!
「…よく、わかりました。
占いというものは、統計学をもとにした、人間観察の結果なんですね」
「うーん、まあ、そういった一面は確実にあるだろうね。
しかしオレは、別に占い師のことを、詐欺師扱いしてるわけではないよ、ここはハッキリさせとこう。
じゃあここからは、対人占いのメリットについて話していこうか。
さっき話した通り、占い師というのは、他人の相談にのるプロなんだ。
ところで江蓮君は、何か自分ひとりの力では解決しきれない悩み事があったら、誰に相談するかな?」
「え? 悩み事の相談ですか?
うーん、やっぱりいちばんは、兄ですかね、家族ですから」
「ふむふむ、では、その悩み事の対象がお兄さんだった場合には、誰に相談する?
例えばさ、それこそお兄さんがパワハラで訴えられちゃったときなんかはさぁ」
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