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茜さんのようなリアリストなら、きっとこんなふうに、「ふん、占いだって? とんでもない、くだらない迷信だよ、金のムダだね」なんて言いそうなのに。
なんだか、科学の法則に逆らった不可思議な現象を見ているような、すごく奇妙な気持ちになった。
俺がそう思っていることが、きっと顔にでていたんだろう、茜さんは苦笑してこう言った。
「オレが占いをしようって言うのが、そんなに不思議かな?
ところで江蓮君はこれまでに、占いってしたことある?
そして君は、占いというものの効果を信じるかい?」
「占い、ですか…。
そうですね、雑誌の裏にのってるような星占い程度なら、友人から俺の運勢がなんだったとか聞くことがありますけど、それくらいですかね。
俺は、占いっていうものは、ただ遊びの一種なんだと思います。
みんなで、これ当たってるーとか、わいわい言って楽しむための。
だって、占いで人の運命がわかるなんて、とても思えませんし。
特に星占いなんて、あれ星座ですよね。
星座は十二種類でしたよね、ってことはですよ、この世界の全人類はたったの十二タイプに性格や運命がすべて分類できる、ってことになっちゃいます。
人の運命って、そんなに単純なものでしょうか?
俺にはとても、そうは思えません。
俺と同年齢、性別で、まったく同じ年の同じ日に…ひょっとしたら同じ時間に生まれたやつだって、この世界のどこかにはいるでしょう、でもそいつと俺は、同じ人生を歩んでいるんでしょうかね?
ぜったい違いますよ。
そいつは、俺と同じ悩みや苦しみ、苦労やそして喜びを、なによりも犬彦さんを持っているんでしょうか?
そのうちの一個でも欠けたら、俺とそいつの運命は、何一つ合致することはない。
だから、俺は占いってものを、信じていません。
それに俺は、自分の運命ってやつを、特に知りたいと思ってませんから」
俺が占いに対する自分の考えを話すと、茜さんはくすくすと愉快そうに笑った。
「いいね、さすがワトソン君。
君は決して、他人の意見に流されたりしない、自分の明確な信念をもっている。
ちなみにオレはね、占いって好きなんだよ。
確実なメリットがあるからね」
「占いに、確実なメリットがある…?」
「そうだよ。
ねえ江蓮君、君はこれから『呪いとは何か』という命題に挑んでいくわけだけれど、そのまえに、『占い』とは何なのかについて考えることは、きっと大きな参考になるだろう。
今はまだ、『呪い』というものに対するオレの考えを話すことはできない、君の純粋な推理の妨げになるのが嫌だからね。
けれど、『占い』とは何かという話を君にする程度なら、まあ問題ないだろう」
茜さんは、すでに歩く方向を駅から、『占いの館』の存在をアピールしている看板の方へと変えていた。
しょうがなく俺も、それについていく。
「まず理解しておきたいのは、『占い』と『予言』は違う、ってことかな。
『予言』ってのは、何月何日にどこそこに大地震がくる! とかっていう、具体的なものだけど、『占い』ってのは、まあ…統計学だと考えればいいかもしれない」
「はあ、統計学、ですか…」
「天気予報みたいなもんだと考えたらどうだろう?
こうなる可能性が高い、という予想を統計的にしているんだ。
本日の東京都新宿区の降水確率は、60%で雨になるでしょう…なんて天気予報を、TVで見たとする。
そう聞いたら君は、そうか、じゃあ今日は折りたたみ傘をもって出かけよう、とか、それなら遊園地へ行くのは今度にしようかな、なんて思ったりするよね。
雨が降ったなら、傘を持ってきてよかった、ってなるし、雨が降らなかったら、それはそれでラッキーって思う、占いも天気予報みたいなフラットな気持ちで利用すればいいんだと、オレは考えるね。
君の言う、雑誌の星占いなんかで、『友達とケンカをしてしまうかも』なんて書かれていたら、そうならないように気をつければいいし、ケンカをしなくてすんだらなら、よかったって思う、そんなもんでいいんだよ。
それからさっき、君が言っていたみたいな、占いとは、他人とのコミニュケーションを楽しむためのツールって考えもありだね。
実はこの考え方が、すごく重要なんだ。
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