月が綺麗ですね

*うみゆりぃ*

第1話 「月が綺麗ですね」

人生で一度でいいから

男性に言われたいセリフの一つ


「月が綺麗ですね」


満月が見える

素敵な場所で


「あぁ、死んでもいいわ」


って言わせてほしい






あぁ

ゲームの世界は美しい

現実には存在しえない風景がたくさんある


クリエイターの方々が(創造神)

現実世界のあらゆる名勝を元に

豊かな空想力で 風光明媚な偽りの世界を

創り出している


その素晴らしい仮想世界に魅了され

仮の姿で歩き、走り、時には空を飛んで周り

現実の風景を見るのと同じように

感動をするの



草木のさわやかな香りもなければ

頬を優しくなでられるような風もないのだけれど


アバターとして大地に立っているだけで

なんとなく「空気」を感じることができる不思議




わたしがいたその世界の月は

果てしなく大きかった

そして現実と同じように満ち欠けをする


特に満月の日には

世界の半分を埋め尽くすほどの

圧倒的な輝きを放つ


まぶしいわけでもなく

静けさを感じる神秘的な光が

ロマンティックさを演出している



神々しい満月は

その場所に行けばいつでも見られるというものでもない


レベルをしっかり上げて強くならないと行けないような

最果ての地からしか見えないこともあるし

現実の時間で何日後、何週間後にしか見られないことだってある


ゲームだからと言って簡単に何でもすぐ叶うようなシステムじゃないところがMMORPGの楽しさ




わたしが今まで見た中で最も美しい月は

たまたまでもなく

わざわざ見に行ったわけでもなく

タイミング上手く二人きりで見られるようにと

きっと連れてこられたのであろう

魔の世界の月だった



うす紫色から深い群青色のグラデーションの空に浮かび

金とも銀とも言えないような白い輝きを放ちながら

モニターいっぱいに広がっていた


「すごいあんな月、現実じゃ見られない」

と感動していたら



>> 月が綺麗ですね



チャットが打ち込まれた



なんで敬語なの

いつも使わないくせに


そのチャットだけ敬語だったことに

違和感を覚えていた


残念ながら

無知だったわたしに

想いが伝わることはなかった



その彼には

来年転勤になるから

リアル=現実世界へ一緒に来ないか

と言われたことがあった


けれど

当時のわたしには

まだ現実世界へと戻る勇気がなかったから


お断りした



それから彼が再び

この仮想世界に降り立つことはなかった





またいつの日か

現実ではありえないロマンティックすぎる風景の前で

素敵な告白を受けたのならば



今度こそは 間違いなく

わたしはアバターと共に



「死んでもいいわ」

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