第12話[最終話]



 カーンは王都に来ました。

 食事や給水無しで歩いたので一年とかからず辿り着いた王都はとても大きくカーンは楽しくなってしまいます。


 「そこの少年」

 「はい?」

 カーンは衛兵に止められ汚れた格好を注意されました。

 「そうか、人が多い場所は汚くしていちゃダメなんだ」と学びます。

 市場で中古の子供着を買い、路地で着替えて宿をとり冒険者ギルドへ入ります。


 建物の大きさと人の多さにカーンは嬉しくなります。『誰か僕を好きになってくれるかも』人が多い事は出会いの多さでもあります。


 田舎の村では仕事が出来る人間が信頼になるので早速カーンは仕事をしようと冒険者ギルドの壁にある魔物の討伐依頼を眺めていると冒険者ギルドの職員から質問されます。


 人が多い王都の冒険者ギルドには案内役(コンシェルジュ)がいて要望や異変に対応する為に声かけをしていました。


 カーンは自分が冒険者ギルド登録者であり魔物退治をこなしているとギルドカードを案内役(コンシェルジュ)に提出すると「ちょっと待ってね」と頭を撫でられました。


 どうやら、ギルドカードが本物か確認するようです。カーンは何年も冒険者ギルドに在籍しているので王都ギルドにも情報が上がっていたようで固くなった笑顔でカーンの元に帰ってきました。


 「カーン…… さん、本人と確認しました。えーっとですね」

 「はい?」

 カーンはギルド案内役(コンシェルジュ)の後ろにいる2人の女性が自分を観察している事に首を傾げました。


 ────────── 王都から20キロ地点にある岩山にカーンはいました。

 どうやら子供の見た目のカーンを心配したのか2人の女性冒険者が臨時にパーティーとして参加してくれたようです。


 「子守かよ」

 「こら、失礼よ」

 2人の声を耳で拾いカーンはため息をつきます。

 冒険者生活はもう10年を優に過ぎているので、こういう扱いもよくされてきました。

 爺ちゃんとの生活でお金の大切さを知っているカーンは、今回の実地試験のようなもので取得できる報酬が下がる事をよく知っていました。


 女性にヒソヒソと自分をバカにする言葉を聞くと、リサ母さんを思い出して泣きたくなります。

 「母さんのような人はいないなぁ」

 「なによ、マーマのおっぱいが恋しいのかしら?」

 「プッ!」


 索敵しながら進むので冒険者は耳が敏感です。今のカーンの独り言を拾い、またバカにされてしまいました。


 『いやだ、いやだ』とカーンは口の中で愚痴をこぼします。人の世の悪意を十分に受けて過ごしていたカーンは自分を好きになってくれない人が何となく分かる様になってきました。

 田舎のギルド受付の魔道具鑑定の話ではそういうスキルが宿ったとか何とか…… カーンは感が良くなっただけでしょ?と疑問に思った思い出がありました。


 今回の依頼は岩大トカゲの素材収集です。

 

 共に行動する2人を信頼はできません。

 カーンは見つけるトカゲの首をショートソードで切り落としていきます。

 田舎のギルドの先輩冒険者にお金を払い剣の使い方を殴られながら覚え、それから1人の夜や魔物退治クエスト中に練習を続けた事で、これぐらいはお茶の子さいさい剣を痛めずに出来る様になりました。


 「やばっ」

 「この子…… やるわ」

 2人の女性冒険者は目の色を変えて魔物から素材を剥ぎ取り「はぁ〜疲れた、後始末をしてあげた・・・・・んだから感謝しなさい」言い出します。


 カーンはいつもこう・・でした。

 人に騙されて、殴られて覚えた多くの事は人を信じない事。

 …… でも、愛してくれた人の優しさや、頭を撫でてくれる嬉しさを思い出して人への恨みを心の底へ閉じ込めて、そんな人にまた会いたいと心から願い信じているのでした。


 王都の冒険者ギルドに夕刻前に戻り仕事の完了を報告しますが、やはり女性2人は虚偽申請をします。

 お金は田舎の冒険者ギルドより遥かに貰えましたが、荷物持ち程度だったと報告されたので、夜に眠る場所代で終わりになりそうです。


 「明日もよろー」

 「荷物持ち君、また明日ね」

 どうやら明日も搾取されるのかと考えたらカーンは辛い気持ちになりました……


 深いため息をついて王都の街を歩きます。

 「なんだろう?あの建物は?」

 

 カーンはやっと教会に辿り着きました。

 田舎では私服を肥やした司祭しかいませんでした。

 神聖がない神の家では意味がないのです。

 さあ、いらっしゃい可哀そうで愛らしいカーン。


 「ここは…… 教会?」

 カーンは教会にそろり、そろりと入ります。

 「…… どうしました?礼拝の時間は終わりましたよ?」

 美しいシスターの優しい微笑みにカーンは嬉しくなります。

 「あの…… 教会は初めてで何をすればいいか」

 シスターはニコリと笑うとカーンに祈りの仕方を教えてくれました。


 「ありがとうございます、祈りが終わるまでちょっと待っていただけますか?」

 「ええ、いいですよ」

 カーンは膝をついて神に祈りを捧げました。


 …… ようこそ、カーン、あなたに女神の祝福を与えましょう。


 風が巻き上がり、夕焼けが掌に集まったような輝きがカーンの頭に零れ落ちました。


 やっと、あなたに魂を与える事ができます。


 これからはアナタは人の作りしホムンクルスですが、同じく私達、神の子です。自分で選択して幸せになりなさい。

 もう、あなたは人形ではありません。



 ───────「うわ!」

 僕の体にキラキラと光の粒が降ってきて…… 凄く暖かい気持ち…… 。


 あれ?何だろう?

 頭の中がスッキリする。

 「…… え?え!!?」

 見える世界が違う?

 

 今までは紙に書いたように見えていたのに…… 僕に何があったの?

 ガタン!

 ビックリして振り向くと教会のお姉さんが腰を抜かして僕をみています。

 「うえ?これは逃げた方がいいよね?」

 「あっ!」

 

 ごめんなさいとお詫びしながら僕は教会の外に走り出しました。

 外にはいい匂いがいっぱい。

 あれ?食べなくても大丈夫なのにお腹がペコペコな気分?へんなの!


 「あー!なんか、明日からいい事がありそうな予感!…… 夕暮れの空ってこんなに綺麗かったかな?」


 教会に行ってから何かが変わったけど、この気持ちはなんかいいな…… 明日もこうならいいな……


 僕は屋台で串に刺さった肉を買って食べ歩きながら今晩の宿を探す為に歩き始めました。



 その時、カーンに何が起きたのか。

 それは人形ではなく生物として魂を与えられ生まれ変わったのでした。

 

 

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その時、カーンに何がおきたのか。 @ais-

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