第11話


 ──────10年が経ちました

 カーンは爺ちゃんを待ってずっと牧場の家に住んでいました。


 いつ爺ちゃんが戻ってもいいように、部屋を掃除して傷んできた家を修理して暮らしていました。


 僕の料理が美味しくなくて爺ちゃんは出て行ったのかな?とも考えたカーンは冒険者ギルドの仕事で食材運びを受けては宿屋のおばちゃんに料理を習いました。

 蕩(とろ)けるような美味しいシチューを作れるようななりました。


 ある、台風の日…… 家のほとんどが飛ばされてしまいました。

 もともとが家畜を飼育できるよう広い場所にあった家です。風の影響を受けてしまったのでした。


 カーンは思いました『僕の何が悪かったんだろう?』半壊した家を片付けて道具屋から買って来たテントを張り横になりますが…… カーンの心は吹き返してくる風の音で、弱く、弱くなりました。


 「ズロ兄さん、ズーロー、リサ母さん、爺ちゃん、ばあちゃん…… 」

 ぽろぽろと涙を流してカーンは毎晩泣きました。

 冒険者ギルドで仕事をしながら、家の修理をして、働いて働いて……

 

 さらに5年が経ちました。

 ギルド受付職員さんは子供を産み実家に帰り、冒険者ギルドを紹介してくれた商人さんには高い紹介料を何年もかけて払い終わりました。

 

 時間だけがカーンに寄り添います。


 カーンは魔物退治に出られるようになっていました。ギルドでのカーンは小人族として認識されています。どうやらホムンクルスは神話や童話の中の存在で、口に出すべきじゃないとカーンは思いました。


 爺ちゃんを待ちながら魔物を殺す。


 ベッタリと血がついた服を着替えるのがしんどい日もあります。ホムンクルスだから体は万全です、心が疲れていました。

 でも爺ちゃんが帰るかもしれないと料理を作り、襤褸(ぼろ)な廃屋のような家で横になります。


 外に雪が降っていると思うと、帰ってきた爺ちゃんが早く食べられるように、何度も鍋を夜中に温め直し失火してしまうので…… 家を直す元気もなくなりました。


 鍋は焦げ、何度も買い替えました。

 カーンはもう何年もご飯を食べていません。

 爺ちゃんがいない食卓では食べ物の味がしなくなりました。


 カーンの愛情は爺ちゃんを待つこの家にありました。

 カーンは爺ちゃんを愛さない日はありませんでした。


 ある日、家をちゃんと建て直したら爺ちゃんが帰るかもとカーンは考え羽振りのいい仕事に数日の間、遠征をしました。

 木材を幾らか買える金貨をもらい『爺ちゃんをびっくりさせよう!』とニマニマとした顔で家に戻るとボロ屋は人に取られていました。


 フラフラとカーンは窓を覗くとお金のない家族だろう親子が買い置きの食材を涙ながらに食べていました。


 カーンはその家族のシチューを食べる子供に自分を当てはめると…… 稼いできた金貨を数枚、扉の前に置くと泣きながら笑顔になり家を離れました。

 

 新しい家族が家に入ってカーンは爺ちゃんは帰らないんだろうと現実に向き合いました。

 その家族の子供が幸せそうなのを見ると何故か、自分がそうされたら嬉しいだろうなと幸せになりました。


 カーンは旅装を解く間もなく、村を出て行きます。

 冬の糸杉がざわざわと音を立てる中でカーンは涙を流しながら逃げるように走ります。


 爺ちゃんに嫌われた自分でも、どうすれば人に好かれるのだろうかを探そうと…… カーンは嫌われ者の自分が惨めで仕方ありませんでしたが、寿命の最後が分からない自分が1人で生きるのがとても怖くて、人に好かれたいと願う気持ちでいっぱいでした…… 。


 

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